人魚の味
網にかかった美しい人魚を巡る人間の欲望
網にかかったのは小さい魚と大きい魚。
そして、美しい人魚。
村は大騒ぎになった。
男達は大きな水槽を作り、人魚を閉じ込めた。
そして村人達は何日も話し合った。
この人魚をどうするか。
海へ帰そう。
村の守り神にしよう。
村で飼って観光客を呼ぼう。
話し合いを続けていくうちに、段々と人々の本音が漏れ出す。
見世物小屋に売って金にしたい。
自分だけのものにしたい。
首輪を付けてペットにしたい。
それは人間の奥底にある狂気を抉り出す。
人魚の肉を食べると不老不死になるらしい。
どこの肉を食べれば良い?
上半身は人間の味なのか?
下半身は何の魚の味がする?
上と下の境目は人間と魚どちらの味がするんだ?
試してみたい。
食べてみたい。
海に帰すのは勿体無い。
食べよう。
食べよう。
この村に来たのが悪い。
俺たちは悪くない。
食べてしまおう。
遂に村人達は大きな刃物で人魚を真っ二つにした。
すると二つに分かれた身体の傷口から大量の泡が溢れ出し、狂気に駆られ集まった村人達の身体をあっという間に覆い尽くしてしまった。
みるみるうちに身体が変化し、村人達は様々な魚へと姿を変えていく。
何だこれは。
動けない足がない。
苦しい苦しい助けて息ができない。
嫌だ元に戻りたい。
死にたくない、殺さないで。
自身の泡で身体を繋ぎ合わせた人魚は、魚になった村人達を見下ろしながら笑った。
「人魚は人間と魚、どちらの味がするのかしらね。」
網にかかったのは小さい魚と大きい魚。
そして、愚かな人間たち。
〈終〉