第6話 シュリ ~師匠?~
炎を切る。
いやまあ、多分この世界では大したことじゃ無いんだろうけど。
俺にとってそれは夢であった。
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俺が剣道を習い始めたのは小3の時だった。
きっかけは健太に誘われたから。
それを話したら習うことを許してくれたのだ。
これは俺にとって初めての習い事だった。
今まで、お金がないって言って習い事させてもらってなかった俺にとってそれは驚きのことだった。
今思えば、人と少し違う、いわゆる変わった子供だった俺がいじめられることを危惧したのかもしれない。
変わった子供、なぜかって?
当時の俺は今と同じく、いや今より人付き合いが苦手だった。
当然だろう。
その頃は他人には嫌悪感があったせいで、あまり関わろうとしなかったからな。
まあ、それにもいろいろ理由はあるわけで…
も、もちろん俺が人と話すのが苦手だからってわけじゃ無いからね。
う、うん、そう、そう、だから。
って、そんなことどうでもいい。
なぜ火を切る事が夢だったか。
それは俺の師匠、薬田 真緩さんが言っていたことだったからだ。
この人、いやこの師匠は少し変わった人だった。
なんかこっちが考えてることを全てを見透かしていってるような。
そして稽古の時と普段の時で雰囲気も全然違うひとだった。
稽古中は厳しく、また戦闘中は誰も近寄らせないようなオーラを出す人だった。
対して、普段の時は師匠と言うか友達みたいにぐいぐい来る感じの人。
つまり俺の苦手な人種…なのにこの人に関しては嫌悪感を抱かなかった。
「いいか、浅尾、水下。剣道とは剣の理法の修錬による
人間形成の道である。そして、それは遥か昔に生きた武士達が極めた道でもある。お前達も剣道を通じて自分を、そして武の道を極めて行け」
これが口癖の先生であった。
そしてもう一つ俺が覚えている言葉がある。
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寒い日だった。外には雪がちらついている。
そんな日でも俺らは稽古を行なっていた。
「集合」
先生の声が響く。
そして俺らは先生のところへ集まった。
先生が口を開く。
「今日は君たちに重要なことを教える」
周りがざわつくのがわかった。
当然 俺も浅尾に話しかける。
「大事なことってなんだろうな。なんか特別な技とか?」
「な訳ないだろw」
「静かに」
その声で周りが静まり返る。
そして彼女は障子をあけ外に出て行った。
この習い事は彼女の家で行われている。
ここ大きな道場も彼女のものなのだ。
おっと話がそれた。
とりあえず、ここは彼女の家だと言うことがわかればよかったのに。
そして彼女は草履を履き、庭に置いてあった木でできた何かのところへ歩いてゆく。
そして彼女はそこに火をつけた。
火がパチパチと音をたて燃え始める。
今から一体何が起きるんだ?そんな疑問とワクワク感が込み上がってくる。
だが、それは一瞬にして破られた。
「だれかこの火を切れるものはいるか」
彼女は突然こんなことを言い出したのだ。
いやいや、無理でしょ。
竹刀で炎は切れないですよね?
その前に燃えちゃうよ?
「もし切れると言うものがいるならばそいつに真剣を渡す」
いや、それでも無理じゃない?
だって炎は実態のないものだよ。
どうやって切るんだよ?
もちろん誰も声を上げなかった。
まあ、当然だろうな。
炎は切れないだろうし、真剣持つの怖いし。
「誰もいないのか、じゃあ、指名するぞ」
当たらないでくれと必死に願う。
だがその願いが叶うことはなかった。
「じゃあ、水下」
ここに水下って言う人が二人いてもう一人の方のことを言ってるんじゃ…
「何してる、早く来い水下」
なわけないですよね〜。
そして俺は前に出る。
そして俺は彼女に真剣を渡される。
初めて持ったそれは思ってた数倍重かった。
当然だろう。
竹刀は竹、真剣は金属だから。
だが、重いと感じたのはそこではなかった。
おそらく、これを持つと言うことの重さだと思う。
言うまでもなく、竹刀で人を殺すことはできない。
まあ、漫画の怪力キャラだったらできるのかもしれないけど。
どっかの侍、木刀で人殺ししてる世界だもんな…
まあけど、そんなことできるわけもない。
しかし、俺が今、持ってるのは竹刀ではない。
真剣だ。
つまり、これを使ったら人も簡単に殺せてしまうと言うこと。
その責任からくる重さ、そう思ったんだ。
「何している、早く抜け」
そう言われて、俺は刀をさやから抜く。
そして、俺は燃え上がる炎の前に立つ。
そして、俺はそれに向かって剣を全力で振った。
「えい」
ヒュと気持ちいい音が鳴る。
この時、俺はすでに剣道を5年間も習い続けている身だ。
当然このぐらいの素振りはできる。
だが、もちろん炎なんか切れるわけもなかった。
だって、実態ないんだもん。
「みんなも見た通り、水下では炎を切れなかった」
いや仕方が無いよね。
「まあ、当然と言えば当然だろう。中にはなんで先生はこんなこと言うのだろうと思っている人いるんじゃないか」
つまり…利用された…
炎が切れないってみんなに見せるために…
はあ、なんで俺はいつも運が悪いんだろうな…
「しかし、これにもちゃんと意味はあるのだ。さっき見た通り、炎とは実態のない物だ。本来、私たちが相手にしているのは相手であれ、練習用具であれ、面であれ実態のある物である。しかし、この世の中のものが全て実態のあるものだろうか」
少しの沈黙が流れる。
確かに彼女が言っていることは正しかったからだろう。
「私はそうは思わない。例えば人の心、これは実態のないものである。炎と同じだ。
じゃあ、これらのものをどう切るか。答えは簡単だ。その物の事を理解すれば良い。そして理解った上でそいつを切ること、これができる人が強い人だと思う。」
この時の自分にはこの意味がわからなかった。
その物のことをわかったって何か良いことはあるのだろうか、そんなことを思っていた。
しかし、それは違うとすぐに知らしめされた。
「手本に私が炎を切る。剣をこちらへ」
俺は彼女に剣を渡す。
そして彼女は炎に向かって構え、そして振った。
ビュンと気持ちいい音と共に一瞬、炎が真ん中で切れたように感じた。
そして刀を鞘へ納めこちらを向く。
「今のお前達には少し難しいかもしれない。だがもしこの言葉の意味がわかった時、お前達もこんな感じで炎を切れるだろう」
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だから、炎を切れたと言うことは俺にとって夢だった。
まあ、ちょっと変わった先生の戯れ言だと思うけど。
まあ、世界が違うから、炎はこっちの世界では実態のあるものなのかも知れないし。
それでも、『炎を切る』 それは俺の夢の一つだったのだ。
俺は満足そうに炎の体を見ていた。
その時、俺は気づいてしまった。
彼の翼に大きな傷がついていたことに。
しかも傷口からして最近のものぽい。
あれ、もしかして俺こいつに怪我させてしまったのかな?
いやいや、やっぱり、この強いやつに本当に一太刀入れれたのか〜
やっぱり剣は使えるな〜
まあ、けど自分のせいで怪我させてしまったんだ。
どうにか直してやれないかな…
そうだ、俺が最初使った回復薬があったかも。
「ツール、回復薬」
ポンと手の上に出てくる、そこには回復薬が入った瓶があった。
「おーい、マース。お前怪我してるだろ?この薬使ってくれ」
「貴方 回復薬なんて持ってたのか。本当に使っていいの?」
「むしろ、使ってもらいたい。すまなかったな。痛かっただろう?」
マースは驚いた表情でこちらを見てくる。
そんなに回復薬って珍しいのかな?
「そうか、ならありがたく使わせてもらうな」
そしてマースは俺の手から薬を奪い、羽へとかけた。
…え、あれ傷部分に触れるだけでよかったの?
飲む必要なかったの?
じゃあ、あの時怖がる必要なかったじゃん…
「こ、これは!」
マースが声を荒げる。
何かまずかっただろうか?
俺に恐怖が襲ってくる。
もし、こいつを怒らせれば俺が確実にやられてしまう。
「なんて素晴らしい薬なんだ。これほどの薬初めて見た」
全く…
心配して損した。
というか、それほどすごい薬なのだろうか?
俺が転生した時に入っていた薬なのだが…
まあ、けど確かにさっきの火傷は治っていた。
「さて話を戻そう。マース、君はさっき何を言おうとしてたんだ。なぜ俺を試したんだ?」
「それは…貴方が私に相応しいか確かめていたからだ」
ほう?どういう事だろうか。
「私は約500年前くらいにある男にやられた。おそらく、あいつは魔王になっているだろう」
へーやっぱりこの世界にも魔王っているのかー。
まあ、雑魚の俺には関係ないけど。
「私はあいつの事を憎くて仕方がなかった。できる事なら早く復讐してやりたい。だが、残念ながら私は今、ここの林から出る事も出来ないし、そいつを倒しにいくこともできない。まあ、もしここから出れても、私一人で勝てる相手ではないだろうが…」
この鳥、前置きが長すぎる。
もっと簡潔に言ってほしい…
こんなこと考えていたが、マースは感情が昂ってるからか、気づいていなかった。
「だから、私はこのままだらだら過ごすと思っていた。しかし、それは今、変わった。さてここからが本題だ」
やっとここからか。
はあー長かった。
前置きが長すぎて、俺の集中力はとっくに切れていた。
「ぜひ、私を貴方様の配下にしてください」
は?え?
いきなり何言ってるんだ?
いやいや、あなたは俺より強いですよね?
「いや、私には分かる。貴方様、あなたは強い。その上、精神面でも素晴らしい。私は貴方様に賭けたいのだ。どうか俺を配下にしてください」
いや、問題大有りだよねー
何がどうなったらそうなるんだろう。
「そりゃ、あんなスキルを初見で打てる、オリジナルスキル持ってて、傷を負った私助けてくれる優しい心持っているのだから」
いや確かに助けたけどね。
別に配下にしようと思って助けたわけじゃ…
「我が主人よ、我に新たな名をお与えください」
いやーなんかめんどくさいことになってしまったっぽい…
まあ、けどなんかやっと異世界っぽくなってきた気がした。
心臓がバクバクしてくる。
そうだ俺はこんな展開を望んでいたんだと思い出す。
「早く、私に名を」
うーん、なんて名前にしよう
特徴的な色だから色に関するのがいいな。
朱色だしおそらくメスだろうし。
「よし決めた。君の名前はシュリだ」
「ありがとうございます」
どうやら喜んでくれたっぽい、よかった。
「このシュリ、この日をもって貴方に忠誠を誓います」
こうして俺に頼れる仲間を得たのであった。
小説を読んでいただきありがとうございます。
初心者ゆえ誤字、脱字、変な言い回し、話の繰り返しがあると思いますがよろしくお願いします。
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どうかよろしくお願いします。