第4話 ……サモン……ガチャ?
オーガから逃げきれたレオンは、荷馬車の馬に追いつき、無人の荷馬車に乗り込み、御者台に座り手網を握る。
「ふ〜ありゃ化け物だな。」
オーガが思ったより強いのに、ビックリだった。
(人の言語が分かるって事は、かなり頭が良いのだろう。今度からは、話して答えが返ってきたら逃げるに限るな!)
ウンウンと独り言を言いつつ、荷馬車を走らせていると、また頭の中に文字か浮かび。
【格上との戦闘・格上との戦闘中に、安全に逃走】
【サモンガチャ使用権利を1回獲得した。】
っとアナウンスも流れた。
(え?サモンガチャってなんだよ?)
レオンは、とりあえず荷馬車を止め、意味が分からないサモンガチャの事を考えてみるが、どうやって使うか分からない。
レオンは荷馬車から降りて、周りに人が居ないかを確認する。
「とりあえず、叫んでみるか!……サモンガチャ!」
何も起こらない。
ん?シーンとしてるな。
色んな変身ポーズをしながら、叫んでみても何も起こらない。
「あぁ、女神様よ……サモンガチャって、なん…」
言葉を全部言い切る前に、空中にドデカい金色の門が現れ、扉が開くと、大きなカプセルトイの本体が出てきた。
※俗にいう、ガチャガチャと皆が呼ぶ物。
「うわぁ〜、デカイな!」
レオンは、子供のように目を輝かせた。
《ググググ……ガチャガチャ……》回転レバーが回りだす。
《ガチャガチャ…ガチャガチャ………ポン!》
虹色のカプセルが、勢い良く飛び出し、カプセルが煙を出しなが、中身が現れる。
«我を呼び出したのは、何処の愚か者だ!»
煙の中から鎧を着た、騎士の精霊?が出てきた。
(何か見た事ある風貌だな?……。)
レオンは、怪しげに登場した者の姿に、見覚えがあった。
レオンは、一生懸命思い出しているが、なかなか名前が出てこない。
«お主が呼び出したのか?»
「あぁ、……ちょっと黙ってくれないか?…もう少しで、分かりそうなんだ!」
«ふっ…我が名は、デュ»
「デュラハンだ!」レオンは、相手の言葉に被せ気味に、名前を言った。
«あ。………なんで言うかな!今の所は、ナウでヤングな紳士!って感じで、我が自己紹介をする所だろうが!»
デュラハンは、真っ黒な鎧で、左腕に頭を抱え、右手には大きな剣を持つ、屈強な姿をしているにもかかわらず、レオンに自己紹介を邪魔された事で、地団駄を踏んでいる。
「いや、何がナウでヤングだよ!いつの時代だっちゅうの!」
レオンは、死語を使うデュラハンに、冷たい視線を送る。
«ん?今日は、アルス歴45年8の月の2日だが?»
「はぁ?え?それって、今俺がいつの時代だっちゅーの!の、答えなのか?」
レオンは、鼻で笑いながら、デュラハンに言う
«え?お主がいつの時代って聞いたのでは、ないのか?»
ピューピューっと口笛を、デュラハンは吹きながら、レオンをバカにした感じで見ている。
「フン!まぁいいや、っで?名前はデュラハンで、良いのか?」
レオンは、荷馬車に乗り込みながら、声をかける。
≪デュラハンで合っているが!≫
デュラハンは、途中で言葉を止め、何か思いついたように、体をクネクネし始めた。
≪……べ・べつの名前を……つけてくれても、い・良いんだからね♡≫
野太い声を無理に、女の子っぽく変えて言ってみせた。
「はぁ~、ハイハイ、さようでっか。」
手綱を握り、出発しようとすると
«いや、待て待て、我を置いて行ってどうする!»
と言って、デュラハンは慌てて、レオンの横に飛び乗り座る。
(なんだよ、このキモイの……デュラハンって、もっと…騎士っぽい感じがしたんだが………あ、でも……俺の好きなアニメのデュラハンも、変態だったな。)
「ところで、名前はどうすっかな?デュラハンって毎回言うの長いしな。」
«長いか?デュラハンって5文字だが?»
「デュラキチ・デュラオ・デュっ君・デュラ坊・デュフデュフジャイアント・デュフデュフ3分クッキングに、デュラッテ デュラッテ デュラフフフのどれが良い?」
≪う~ん?そうだなぁ~って、え?その中からしか、選べないのか?普通に長いのもあるが?≫
「え?他に良い名が有るの?嫌なの?なら、自分で案出してよ。ほら、カモン!」
≪う~ん?う~ん?≫
デュラハンは、一生懸命悩むが出てこない。
「じゃぁ、首なしは?」
レオンは、通り過ぎる風景を見ながら、素っ気無く言う
≪見たまんまだな!≫
「う~ん………確か、トマスって人が書いた民話集に、デュラハンが出てたって書いてた記憶があるな?って事で、トマスで良くないか?」
≪トマスか、うむトマス……良いじゃないか!主よ、我をトマスと呼んでくれ。≫
「あぁ、よろしく頼むぞ、…トマァート。」
≪いや、トマスな!≫
っとくだらない掛け合いをしながら、旅は続くのだろう……たぶん。
その後3日間何事もなく、順調にベッショへの道のりが続いた。
「トマスと会ってから、魔物に会わなくなったな~。」
≪当たり前だ、主よ……我を何だと思っている?≫
「ん?アホな親父ギャグ精霊の鎧おっさん?」
≪うむ、ん?まぁ間違っては無いが……これでも我は、高位の精霊なのだぞ!低位の魔物は、我の気配を感じると、身動き出来なくなるだろうからな!ハハハハハ!≫
少し威張ってみせる。
「へーそうなんだな。」
手綱をちょんちょんっと引きながら、ぶっきらぼうに話す。
≪信じてない感じだな!≫
「オーガは、どうなんだ?以前一度会ったけど、強かったぞ。」
レオンの隣にいる、頭だけのトマスに目をやる。
≪オーガごとき、我の相手にならぬわ!≫
「まじかー!お前強いんだな!」
レオンは、ビックリした。
≪まだ主は、我が戦闘する姿を見た事が無いゆえ、我を信じれぬのであろう?≫
「う~ん、そうだな。でも出来れば戦闘とかしたくないし、トマスを見て逃げない奴とかは、かなり強いって事だろ?、そんなの相手にしたくないって。」
≪主は変わっているのぉ~、戦いたくないのに冒険者になったのか?せっかくレアなサモンのスキルを持っておるのに。≫
「え?何?このサモンって、レアなの?」
目を輝かせるレオン
≪レア中のレア、でもステーキは、ミディアムレアで!≫
ちょっとふざけて見せると、先程まで目を輝かせていたレオンが、一気に冷たい視線を送る事になる。
「はぁ……おもんな!……全然おもんな!」
そう言うとレオンは、道の先をぼーっと見る
≪あい、ちゅいませーん!≫
トマスは小さな声でいうと。
「チッ。」
レオンは、舌打ちをした。
しばらく進むと、やっとベッショの町が見えて来た。
流石、貿易都市だけあって、町をグルっと郭璧が囲んでいる、囲郭都市と呼ばれるらしい、城が有れば城郭都市と呼ぶのだろうが、ベッショには城が無く、どこの国にも属さない自治都市であり、近隣の国とは同盟を結び、山の幸や海の幸を同盟各国と取引している。
ベッショへ入る為の門が近づくと、結構な数の荷馬車の列が並んでいた。
町に入る為の検査が行われるらしく、荷馬車や歩行者、関係なく検査を受ける仕組みらしい。
今並んでいる門の隣にも門があり、そこはベッショ住民専用の門があるようだ。
「ふ~、やっと着いたのに、この列の多さだと、荷馬車の荷物を載せているワゴンで寝る事になりそうだな?」
荷物を全て収納ストレージに入れれば、ワゴン部分を広く使えるが、全て入れるとワゴン部分に荷が無いと、怪しまれる可能性があるので、ある程度置いていた方が良さそうだ。
冒険者が、収納ストレージを持っているのは珍しいし、高位の冒険者でない限りは、高くて買えないからだ。
普通の冒険者なら、そのお金でもっと良い装備を買うだろう。
「ところで、トマス?お前は、他の人からは見えるのか?」
≪いや、基本は見えぬが、神官など聖職者や精霊の加護を持っている者には、たまに見える時があるようだ。≫
「って事は、基本俺は、はたから見れば、誰も居ない所に話しかけてる様に見えるのか?…………それは、ヤバいな!」
ワゴンを整理しながら、寝床を作る準備をする。
日が暮れだしたので、レオンは荷馬車から降り、薪に火を点け、焚火で野菜と干し肉を鍋で煮込み、具沢山のスープを作り食べていると、門兵が、こちらに近づいて来た。
「すみません、そろそろ門が締まりますので、今日はこのまま荷馬車でお休み下さい、門は閉まりますが、我々ベッショ兵が、朝まで見回りを致しますので、安心して荷馬車内で、お休みください。」
「あ、ありがとうございます。」
レオンは頭を下げ礼を言う。
ベッショ兵の鎧は、門兵らしくない重装備を着ていた。
これだけの都市を守るには、かなり腕がたつ兵士が必要なのだろう、装備も一級品であり、兵士の教養も高い感じがする。
「では、遠慮なく寝るかな?」
ゴソゴソとワゴン内に敷いた布団に入り込む。
≪主よ、我も警戒は怠らないゆえ、安心して休まれるがよい。≫
「へえへぇ、トマス様 アリガタヤー。」
そして、夜が更け、何事もなく日が昇り始める。