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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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短編ホラー

クエスト

作者: 壱原 一

子供の頃、親の関係で、我が家に留学生のホームステイを受けた。狭い地域の有志達が順に自宅へ迎え入れ、終盤にお鉢が回ったのが当家だった。


当時、我が家は改築中で仮住まいに客間がなかった。兄は気難しい年頃だったので、必定私がリビングのソファへ、留学生が私の部屋へと決まる。


当日、親が私を連れて車に乗り、前日までの滞在宅へ留学生をお迎えに行く。留学生は背が高く短髪で、そばかすのある顔に眼鏡を掛け、柔和な笑顔で英語を話す。


愛想よく挨拶してくれて、車中では親を相手に八百万の神々やら六道輪廻やらについて聞きたがる。近場の神社に寄ると甚く感銘を受けた様子で、どうもそうした方面に関心が強いらしかった。


かくして当家へ迎えたものの、日本らしさを味わえそうな施設や体験は、ここまでのホストファミリー達があらかた紹介し尽くしている。


滞在も終盤、家庭の雰囲気を堪能したいとの申し出も手伝って、ホットプレートで焼肉、卓上コンロで鍋などを交えつつ、ある夜お好きなジャンルのおすすめ邦画の鑑賞はいかがと親が提案し、留学生が指定したのがホラー。応じた親のおすすめが『女□霊』だった。


スクリーンと垂直のソファに親、平行のソファに留学生と私が座り、例のテーマが耳にこびりつく鮮烈な映画体験の最中、ふと様子を見た留学生が、電気を消したリビングで皓々とスクリーンの光を受け、普段の笑顔とかけ離れた笑みを浮かべていたのが非常に印象的だった。


人は誰かに感情を伝える目的がなくとも、これほど目と歯を剥き出しにして独り満面に破顔し得るのかと、いささか気圧されながら速やかに視線を戻したものである。


その深夜、リビングのソファで俄に目が開いた先で、留学生が私を見下ろしていた。私が起きるや否やすっと屈んで膝を抱え、私の顔を覗き込む。


私の部屋がある階上と、リビングとを繋ぐ階段の自動照明が消える。


暗闇の中、含み笑いで聞こえたのが、「私はクエストでここへ来た」。


階上へ戻る音を聞きつつ、照明が点かない事に怯え、それはもう眠れぬ夜を明かした。


親に泣き付くまでもなく、翌日、当人の要望で、留学生はまた別の滞在先へ移って行った。滞在後の自室の清掃時、マットレスに煤を擦った様な手形が見付かったのが最後。


後から聞いた話では、各家で留学生の不可解な言動に当惑する例があったらしい。


当人からの要望に各々密かにほっとして、滞在先がたらい回しになっていたとの事だった。



終.

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