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ジークルーネとの再会(1)

そして、遂に。私はブルーダーシュタットの街に足を踏み入れた。王都を出てから約55時間。

今日は7月4日。Xデイまで後3日だ。


さすが王国第二の都市。そして『アルト同盟』第三の都市だ。街は広々としていてたくさんの建物が並んでいる。港もかなりの巨大さだった。その港にたくさんの蒸気船、ガレオン船、それに安宅船っぽい船と数えきれないくらいの大型船がある。それらに比べると、私達が乗って来た船など、ヒグマとタヌキくらい大きさに差があった。


ブルーダーシュタットは『アルト同盟』の加盟都市だ。

『アルト同盟』とは何かというと、地球の歴史に詳しい方なら、中世ヨーロッパに存在した『ハンザ同盟』と、ほぼほぼ同じ様な物と思ってほしい。

複数の国家の、港湾を所有する商業都市が、商業上の共同利益の保全、海上交通の安全保障、共同防衛などを目的として結成した経済的、政治的な自治同盟だ。

この同盟が国をまたいだ存在なのは、この同盟が民族独立戦争が起こる前、まだこの地域一帯がゾンネラントと呼ばれていた時代から存在するからだ。つまり、ブルーダーシュタットは、王都などよりもはるかに古い歴史を持つ古都なのである。そもそも『アルト同盟』の『アルト』には『古き良き』という意味がある。

ブルーダーシュタットの人々はその歴史と経済力に強い誇りを持っている。その誇りを守る為の自治同盟であり、それもあってブルーダーシュタットは、ヒンガリーラントの王都などよりもよっぽど、隣国アズールブラウラントにある『アルト同盟』の宗主都市、ヴァールブルクの顔色をうかがっている。


かつてアルト同盟最大の都市であるヴァールブルクが、アズールブラウラントの王都と内戦になった事があった。その時、アルト同盟に参加している全都市が国境を超えてヴァールブルクを援助し、王都が敗北した。アズールブラウラントの王様は、ヒンガリーラントの王様の仲介でなんとか和議を結び、命と名誉を守る事ができたという。もし、ブルーダーシュタットとヒンガリーラントの王都が同じ事になれば、同様の事が繰り返されることになるだろう。

自由と誇りを重んじる市民性ゆえ、王室直轄地でありながら、貴族や王族に対する敬意が大安売りされているハムよりも薄い。

貴族である事を鼻にかけて問題を起こすと大騒動に発展する可能性もある為、くれぐれも問題を起こさないように。とお母様に念押しをされた。


船を降りて歩いて行くと、一等客室の客だったエリーゼ様と同伴者の私は、船会社の人に豪華な個室に案内された。そこで、ユリアが待っていてくれていた。更に更に。一緒にジークルーネが待っていてくれた。


ユリアとは5日ぶりの再会だ。5日前と全く変わらず、振り返って三度見したくなるくらいの美貌である。


ジークルーネとは、一年以上ぶりの再会だ。彼女の見た目は全く変わっていた。長かった髪をばっさり切り、ドレスではなく男物の服を着ている。元々、女性らしいタイプの人ではなかったが、立ち姿や雰囲気がすっかり少年のものになっていた。優雅さを持って最上の美徳とする貴族の子弟の中には、生っ白くてヒョロヒョロとしたもやしの様な輩も数多くいる。その中にいたら、十分男性として通用する佇まいだった。もちろん、言葉では言い尽くせない努力の賜物なのであろうが。懐かしさや、いろいろな思い出が浮かんできて胸が熱くなった。


「美しい午後の日ね。出迎えありがとう。」

この場のヒエラルキーの頂点に立つエリーゼがまず口を開いた。ジークに対して右手を差し出すとジークがその手をとって、手の甲に口付けする。王都ではよく見かける光景だ。何もおかしなところはない。両方、女って事以外には。


「美しい午後の日でございます。エリーゼ様。再びお目にかかる事ができて幸甚の至りでございます。」

ジークがそう言ってから、私に視線を移す。

えっ!まさか、私にも手ェ出せって催促してる?

私はいい。というかいろいろ無理。


「ベッキーも久しぶり。相変わらず元気そうだね。君の勇名は、男子寄宿舎にも響き渡っているよ。手紙泥棒の令嬢の手下を蹴り飛ばしたとか。」

「・・・。」

断じて侍女さんは蹴っていない!蹴りつけたのはドアだ。まあ、ドアの側にいた侍女さんが吹っ飛んで行ったので、似たような物ではあるかもしれないが。


「その節はどうも。」

「ははははは。もっと感謝してくれていいのだよ。泥棒が無事見つかって良かったじゃないか。まあ、コンスタンツェ嬢はいつもベッキーを嫉妬に狂った視線で睨みつけていたので、いつかなんか事件を起こしそうと思っていたけどね。」

「そうだったんですか?」

「コンスタンツェ嬢が、ルートヴィッヒ王子の顔の皮を礼賛する詩を作ったのに、王子の婚約者のベッキーが『そこまで顔がいい男を見た事ない』って言ったから、キレそうな顔してたじゃないか。その日の午後の黙学室でもすごい眼光で睨んでいたよ。」(お昼ごはんと選択授業&黙学室にて・2、より)


そうだったっけな?と、私は1年以上前の事を思い返した。とゆーか、あの授業の時ジーク、寝てなかった?


「そう言うジーク様の方が大暴れしているじゃないですか!聞きましたよ。フリートヘルム家の人との騒動。」


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