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私とレベッカ様と孤児院の慰問(2)(ユスティーナ視点)

「それが、子供達と子供達を見守っている孤児院の大人達の本音です。」


・・・・3分の2の女の子達が帰りました。

正直、私も帰りたかったです。私がアカデミーに持って来たお洋服は、全部お姉様とお義兄様が新しく買ってくださった服です。新品の服を着れるなんて生まれて初めての事でした。そんな大事なお洋服を、絶対泥や鼻水で汚されたくないです!


でも、ここで帰ってしまったらエーレンフロイト様やレーリヒ様と、もう二度とお話する機会はなくなります。

お姉様がマヌエラさん達に意地悪をされているところを想像してぐっ!と耐えました。


それにエーレンフロイト様の言われる事が私にはよくわかります。

お父様の大声に震えていた時も、お姉様に抱きしめられたら安心できました。アカデミーの寄宿舎で、お姉様やお兄様に会いたくて寂しくなった時も、ラッコのランちゃんの手をキュッと握ったら、少し慰められます。


エーレンフロイト様の注意は更に続きました。


「子供達の中には母親を恋しがって、胸を触ってきたり、どこまで大人が許してくれるか試そうとしてスカートをめくってきたりする子もいます。だけど、叱ってはいけません。仮に絶対に叱らなければならないような事があったとしても、叱る役目は、子供達の側に常にいる大人に任せるべきです。通りすがりの私達に子供達を叱る権利はないんです。私達がするべきなのは、子供達を肯定し、褒めて、認める事です。子供達の話には肯定しにくい話もありますが、決して否定してはいけません。『僕は大きくなったらカブトムシになりたいの』と言われたら、『そう、カブトムシが好きなんだね』、と言い『生きているのが辛いの、私なんか死んじゃった方がいいと思うんだ』と言われたら、『そう、生きているのが辛いの。それは辛いね』と、とりあえず子供達の言う事を繰り返して言ってあげます。そうする事によって『私はあなたの話を真剣に聞いてますよ』というメッセージを伝えられるのです。」



エーレンフロイト様が、口でそう言っているだけで、自分では言っている事を実行していないのなら、どうかと思いますが、エーレンフロイト様はそれを完璧に実行しておられるのです。孤児院の子供達にだけではありません。私達にもです。私達の事をいつも否定せず小さな事でも褒めてくださいます。

ハンドベルの演奏は、覚えるのが大変でしたが、エーレンフロイト様、いえレベッカ様が褒めて励ましてくださったので続けていく事ができました。

それに、『孤児院の為にお金を出して欲しい』とか『甘いお菓子を作って持って来て欲しい』と言われるよりずっと気が楽です。


実はお姉様は、それでとても苦労しているんです。


『娘をアカデミーに通わせている保護者達の会』というのがあるそうで、ブランケンシュタイン公爵夫人がリーダーなのですが、その集まりにお姉様も呼ばれたそうです。その時に

『各自でお菓子を作って、それを持ちよって一緒に売り、その売り上げ金を救貧院に寄付しましょう』

と言われたそうです。


でも、お姉様はおいしいお菓子のレシピなんか知りません。ヘリング家の料理人もお菓子は作った事がないそうです。

仕方なくお姉様は、時々私に作ってくれていた小麦粉とドライフルーツを混ぜて焼いたお菓子を持って行ったそうですが、高価な砂糖やバターをふんだんに使った、他の人達の見た目も美しいお菓子と比べてあまりにも地味で、全然売れなかったのだそうです。

次に誘われた時どうしよう?とお姉様は、とても困っていました。

お姉様も、貴族社会の中で植物紙を売る努力をしないといけないから、誘われたら断れないのです。

何かお姉様の力になってあげたいけれど、私には何もできる事がありません。


せめて、植物紙だけでも売り込もうと私は

「孤児院の子供達の為に使ってください。」

と言って、植物紙の束をレベッカ様に差し上げました。もし、レベッカ様やユリア様が植物紙を気に入ってくださったら、後々買ってくださるかもしれません。そう思っていましたが、なんとレベッカ様はその紙を驚くような事に使われたのです。


それを知ったのは、孤児院に行く日の前日でした。

レベッカ様は、孤児院に慰問に行くメンバーに、「協力して欲しい事がある」と言われたのですが、それはエーレンフロイト家の料理人が作ったクッキーを、孤児院の子供達の人数分『紙袋』に詰めてリボンを結ぶ、いう作業でした。

レベッカ様とユリア様は、私が寄付した植物紙で小さな紙袋を作り、その紙袋に花や四つ葉のクローバーの形に切った紙を貼ったりして、とても可愛い袋を作っておられたのです。


「クッキーを直接手渡すよりも衛生的でしょう。それにクッキーは食べたら無くなるけれど、紙袋は思い出として残るわ。子供達が誰かに何かをプレゼントしたい時にも再利用できるしね。」

それから、レベッカ様はこう言われました。


「この袋を作るのに使った紙は、全てユスティーナ様が寄付してくださった物です。ユスティーナ様のお姉様のセレスティーナ様の嫁がれたお家では、木の繊維から紙を作って販売しているのですって。ユスティーナ様。本当にありがとう。」


そう言ってくださって、私、泣きたいくらい嬉しかったです。


そして、私はレベッカ様に許可をもらって、この可愛い紙袋をマネさせてもらう事にしました。

その紙袋を1枚もらって、お姉様にお見せしたんです。

お姉様の作ってくれたお菓子を、この袋に入れて売ったら喜んでもらえるかもしれないし、植物紙を皆さんに知ってもらえるのではないかしら。って言ったら、お姉様はとても喜んでくれました。


絵の上手なお姉様は、紙袋に花や小鳥などの絵を描いて、もっと可愛い紙袋を作られました。それに紙袋を結ぶリボンにも綺麗な刺繍を入れたそうです。

そしたら、その次のバザーでは、お姉様のお菓子が一番に売り切れたそうです。


その話を聞いて、良かった、やっとお姉様のお役にたてた。と嬉しくなりました。


何もかもレベッカ様のおかげです。

ハンドベルの演奏の為に集まったあの最初の日。帰らなくて本当に良かった、と思いました。

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