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花の宴(1)(ルートヴィッヒ視点)

ルートヴィッヒ王子視点の話がもうちょっと続きます。

腹黒王子の冬の日々を描いたお話。どうぞよろしくお願いします。

兄である第一王子が王宮から逃げた。という話を聞いたのは、『花の宴』が行われるちょうど1ヶ月前の事だった。


その3日前、冬の嵐の日、温室の側にあるアーモンドの木の枝が強風で折れ温室に直撃。ガラスが砕け散り、温室の中で咲いていた花の9割が枯れた。

その話を聞いた時、聖人でも善人でもない僕は「いい気味だ。ギャハハハハ!」と思ったし、その後右往左往する王妃派の重鎮達の事を、どうするつもりなのかと非常に興味深く観察していたが、ある意味王妃派の連中にとっては最も最悪な事態に状況は展開したらしい。

唖然としたのは一瞬の事で、僕は声をあげて笑い出してしまった。


と言っても、この文章を読んでいる方には意味がさっぱりわからないだろうから、順を追って説明しよう。

僕の名前はルートヴィッヒ。ヒンガリーラントという国の第二王子で、年は15歳。ただいま、母親の違う兄と権力争いの真っ只中だ。


欲望に忠実に生きている兄と違って、僕は王座を手に入れる為の努力を日々重ねている。優秀で、人民思いの王子という印象を他者に与える為日々奮闘中だ。その状況に兄自身よりも、兄を支持する王妃派の連中の方が焦っているらしく、連中は兄に重要な仕事を任せるよう父である国王に請願した。それが『花の宴』のプロデュースだ。


『花の宴』は、まだ寒さが残る2月に、王宮内を大量の花で飾って行われる宴会だ。

自然の花などまだ咲かない時期に、温室で咲いた大量の花を飾って、王室の技術力と資金力とを周囲に見せつける為に毎年行われている。

呼ばれるのは、名門貴族家に、前年大きな功績を残した学者や芸術家などで、呼ばれる事は招待客にとっても大変な名誉だ。

その『花の宴』に、今年はスペシャルなゲストが来る事が決まっていた。


隣国ヴァイスネーヴェルラントの王太后カサンドラ陛下だ。

ヴァイスネーヴェルラントは、ヒンガリーラントの10分の1ほどの大きさもない小さな国だが、政略結婚によって周囲の大国と結びついている。カサンドラ陛下の6人の娘は、いずれも外国に嫁ぎ王妃や大公妃となった。それらの国が団結して事に当たれば、西大陸にあるどの国も対抗できないだろう。更に、カサンドラ陛下は文化人への援助に熱心な事に有名だ。彼女が一言苦言を発すれば、西大陸中の小説家、脚本家、新聞記者が火を吐くのだ。

一冊の本が、王家を転覆する革命を起こすほどペンの力は強い。

カサンドラ陛下は人格者で有名な方だが、それだけに及ぼす影響力は絶大だ。

そんな方が、ヒンガリーラントを表敬訪問するという事で、王宮の人々は皆失礼があってはならないとピリピリしているのに、主催者である兄が

「どうして、そんな小国のババアに気を使わなければならないんだ。」

と言っていたのだそうで、兄の側近達は皆頭を抱えていたそうな。


兄が『花の宴』の主催者なのだとしても、現実には下々の者に「善きにはからえ。」と言っているだけで何もするわけではない。

だが、優秀な『下々の者』を使いこなすのも、為政者としての重要な条件だ。

その点、兄の手足となって働く人間達も、まるで使えない人間ばかりだったようだ。

兄が、大貴族出身の側近達に仕事を丸投げし、その側近達が更に下級貴族の部下に仕事を押し付けている間に時間ばかりが経ち、パーティーの二ヶ月前になっても招待状の準備さえできていない状況だった。


招待される人は、王都から遠く離れた領地にいる場合もあるし、ドレスや靴を新しく用意する必要もある。

王宮主催のパーティーは、早くて三ヶ月前、どんなに遅くても一ヶ月前に招待状が届くのがマナーだ。今から招待状を手書きして配達していたら間に合わないだろうと、考えた僕は、更にダメ押しの嫌がらせをしてやった。


王室からの招待状は、最高級品の羊皮紙を使うのがしきたりで、羊皮紙の中で最高級品とされているのは、ブラウンツヴァイクラントのアイエル地方産ヴィヤード種の羊から作られる羊皮紙だ。

すでに、1月の新年祭の時にその羊皮紙を王宮が大量に使っているし、他の貴族だって羊皮紙は使うから、今のこの時期国内にくだんの羊皮紙の在庫は少ない。その数少ない羊皮紙を、僕が買い占めてやった。


去年の春、僕には同母の妹が生まれた。名前はアンゲラと言って、『天使』という意味の名前なのだが、本当に天使のように可愛い。

その可愛い妹のお披露目のパーティーを今年の春にする事になっている。その招待状に使う為というのが表向きの理由だ。


案の定、羊皮紙を買い占められた事に気づいた王妃派の人間が、芳花宮に羊皮紙を渡せ!と怒鳴り込んできた。

それに対して

「『花の宴』まで、もう二ヶ月だというのに、まだ招待状の用意をしていないなど夢にも思わなかった。」

と僕は言ってやった。そして

「すでに羊皮紙には、招待の文面を書いている。羊皮紙を削らなけらば再利用はできないぞ。」

とも言ってやった。

表面を一回削った羊皮紙は、当然価値がダダ下がり、格式のある用途には使えない。

王妃の兄であるディッセンドルフ公爵の使いの者は、歯が折れそうなほど歯軋りして帰って行った。


王妃派の連中は、狡猾な第二王子が第一王子を卑怯な手段で陥れようとしているので、第一王子はとても心を痛めている。と、噂をばら撒いているらしい。本当の事なので、僕は別に気にしていない。

正直、兄がこの窮地をどうする気でいるのか、楽しみに観察していた。


そこに飛び込んで来たのが、温室半壊のニュースだ。パーティー用の花が9割も枯れるなんて、天も完全にあの自堕落な兄を見放したとしか思えない。王妃派の連中が真っ青になるのを見て笑いが止まらなかった。


まあ、しかし、温室を私有している大貴族は何人かいる。なんとかして花をかき集める事は可能だろう。ただし、足元を見られてものすごい金額を吹っ掛けられるはずだ。王室から支給される予算を超える分は、王妃派の連中が身を切るしかない。

なにせ、王妃派の方から、その役目を第一王子に。と国王に言ったのだ。余分にかかる金額はディッセンドルフ公爵達がなんとかするしかないだろう。


既に貴族達の間でも「今年の花の宴は大丈夫なのか?」と噂になっている。それは、ようするに第一王子に任せておくので大丈夫なのか?という意味だ。カサンドラ王太后が出席するパーティーが大失敗すれば、西大陸中に兄の無能ぶりが広まる事になるのだ。そんな人間を王太子の地位に据えたままでは、他の国からの信用が失墜する。


そして3日後。兄が全てを放り出し、愛人の女優(人妻)と一緒に湖水地方にある冬の避寒地へ行ってしまった、というニュースが王宮を駆け巡った。

それを聞いたディッセンドルフ公爵は脳貧血を起こして倒れ頭を打ったとか。

さすがに僕も呆れてしまった。よくも、そんな無責任な真似ができるものだ。まあ、兄としてはいつも通り、側近や公爵が尻拭いをしてくれると思っているのだろうが。何をやっても叱られず、結局誰かが何とかしてくれる。今回もそうだと信じているのだろう。兄は愚かだが、結局そうなったのは周囲の責任だ。王妃派の人間達と、そして父上の。


激怒した父上は、後任に弟のアーレントミュラー公爵を指名した。従兄弟のフィリックスの父親である。

貧乏くじを引かされたな、と思ったが、本気で王座を狙うならここで僕の株を上げておかねばならない。

まあ、おそらく。1両日中に叔父上は僕を訪ねてくるはずだ。

その予想通り、叔父上がすぐに僕を訪ねて来た。

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