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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第二章 アカデミーへ

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手紙の行方(1)

エーレンフロイト家の別邸は、王都の第二地区にある。


現在の王都は、もともと貴族の夏の避暑地だった場所なので、当初あまり広くなかった。それが人口が多くなるにしたがって、城壁を増やしていったので、王都は三重の城壁で囲まれている。王宮が、街の中心にあり、王城特区や貴族区、文教地区はその周辺の第一地区にある。そこから城壁一枚隔てた、第二地区は少し貧しい人達が多く住んでいて、更に城壁一枚隔てた第三地区はとても貧しい人達が住んでいる。


第二地区にあるこの別邸は、その昔平民の子供として育てられていたお父様が、エーレンフロイト家に引き取られた当初住む為に、先代の侯爵が買った館だそうだ。なので、豊かな自然に囲まれた広い庭があるけれど『紅蓮の魔女』に殺されて行方不明になった人の死体が埋まっている可能性は無い。

急に貴族としての教育を受ける事になったお父様が負担を感じないよう、そんなに広い館ではないし、内装も素朴で暖かみがある。門の側を少し歩けば、普通の庶民が買い物をするような小さな商店や料理屋が並んでいる。


こんな素敵な別邸を我が家が持っていた事を、私は今日初めて知った。

こんな別邸持っているんだったら、学校が休みの時とか遊びに来て、お忍びで第二地区を歩き回るのに!

私は

「ほえー。」

とか言いながら、馬車を降りてその別邸の外観を見つめた。一緒にいるのはユーディットと、本邸の侍女長ゾフィーだ。学校までゾフィーが迎えに来てくれたのだ。お母様は先に別邸に来ているはずらしい。


私は別邸の中に入った。お母様は、護衛騎士だけを連れて別邸の居間にいた。この護衛騎士は、お母様が結婚する前からお母様の護衛をしていた、元シュテルンベルク家の女性騎士で、お母様からの信頼は厚い。別邸には普段、管理人夫婦が住んでいるらしいのだが、今日は休暇をとらせて別邸を出て行ってもらっているそうだ。よっぽど、人に聞かれたくない話があるという事だろう。


「ど、どうしたんですか、お母様。私、何にもしてませんよ。」

お母様の表情を見て私は言った。お母様の眉間には、そりゃもう深いシワがよっていて、絶対お褒めの言葉をもらえそうな空気ではない。むしろこれは怒られる前兆だ。隠し財産を作っている事がバレたのだろうか。


「あなたに聞きたい事があります。」

「何ですか?」

「寄宿舎にいるあなたのところに、男子生徒から手紙が届いた事はありますか?」


「無いです。」

悩む事もなく答えられる質問だ。

「正直に言ってちょうだい。寄宿舎の使用人が買収されて、手紙を届けたりという事があるのでしょう。」

「そういう噂は聞いた事あるけれど、私は受け取った事無いです。」

「学校の授業は男子生徒と一緒に受けているのよね。」

「男子と女子は、必要最低限しか話してはいけない事になってますし、手紙や物品のやり取りは禁止です。」

「でも、あなたの作った、あの『封筒』だったら、教科書の中に隠して、教師の目を盗んでやり取りをする事は可能でしょう?」

「やり取りをする事は可能でも、やり取りをする相手がいませんけど。」

「・・・。」

「・・・。」


いったい何が言いたいのだろう?第二王子の婚約者の私が、浮気しているとか、秘密の恋人がいるとか、そういう噂でも流れているんだろうか?

本当の事を言うと、一回だけコンラートにこっそり手紙を送った事がある。だけど返事は来なかった。なのに、それが今頃問題になってるの?


「奥様、お嬢様の言っておられる事は本当です。お嬢様に付け文など、わたくしが目を光らせていますので絶対有り得ません。」

とユーディットが言ってくれた。

お母様はため息をついた。

「むしろ来ない事が問題なのです。」

「へっ?」

思わず間の抜けた声が出た。

「実は先日、ヒルデブラント家のジークから私に手紙が来たのです。」

とお母様は言った。

「アカデミーの男子寄宿舎でコンラートと同室のジークです。」

「はあ、元気そうでしたか?」

「そんな事はどうでもよろしい。ジークからの手紙に寄ると、あなたに幾度も使用人経由で手紙を送っているのに、返事が来ないそうです。」

「え・・?いや、手紙なんか来た事ないですよ。一度も。」

「ええ、あなたの性格上、返事を返さないのはおかしいとジークも思ったようです。更に。コンラートもあなたに手紙を書いたそうですが返事がなかったそうです。」

「知りません。ほんとに知りません。ってゆーか、ジーク様はともかくコンラートお兄様から手紙が来たら、絶対返事書きます。」

「更に、これが最大の問題なのですが、第二王子殿下も幾度もあなたに手紙を送っているそうですが、一度もあなたからの返事が来ないそうです。」

「ふぇっ?」

「あなたは、王族からの手紙をも無視する冷たい『氷の令嬢』と男子寄宿舎で噂されているそうです。」

「えーっ!」

私はブンブンと首を横に振った。

「なんの事だか、さっぱりなんですけど。てゆーか、私、女子寄宿舎では、婚約者から一度も手紙の来ない可哀想な女って呼ばれてるんですけど!」

「本当です。お嬢様には、侯爵様とヨーゼフ様と、出版社のバウアー様以外の男性から手紙が届いた事などありません。わたくしの目を盗んでお嬢様に手紙が届くなんて事ありません。お嬢様に手紙をくれた女子生徒だって、わたくしは全て把握していますわ。」

「ええ、ジークも・・・妹から話を聞いていたとかで、あなたに婚約者から手紙が来ない事が噂になっていると知っていたのです。だから尚更おかしいと思っていたのだそうです。」


ユーディットや護衛の女性騎士がいるので、お母様は話の一部分をごまかして話した。

「つまり、あなた宛の手紙がどこかで消えているという事のようです。」

「えー!そんな、困るじゃないですか。」

「困るなどという程度の問題ではありません!王族からの手紙が消えているのですよ。それが今どこに行ってどう悪用されているのか、わからないのです。しかも王子殿下は、あなたが手紙を無視していると信じておられます。これは、不敬罪にあたります。厳罰の対象にされてもおかしくないのですよ。」

「えーっ!!!」


勝手に手紙を送って来て、勝手に恨んで、厳罰の対象とか理不尽でしかないんですけど!

「そんなあ。私にどうしろって言うんですか?」

「どこで手紙が消えているのか調べなさい。」

「え?どうやって?」

「明日の夜7時に、ジークがあなた宛に手紙を出すそうです。手紙はジークも第二王子殿下も、ギードという男性使用人に渡し、その使用人が女子寄宿舎のマイケという女性使用人に渡しているそうです。この、ギードとマイケのどちらかが手紙をどこかにやっているのは間違いありません。マイケは、褐色の髪を前髪パッツンにした、左頬に大きなホクロが2つある18歳の娘だそうです。」

「誰の事かわかりましたわ。厨房で働いているメイドです。」

と、ユーディットが言った。

「ギードの方はジークが見張るそうです。あなたは、夜7時以降マイケがどう行動するかを見張りなさい。わかりましたか?えー、めんどくさい、という顔をするんじゃありません!」


エスパーですか、お母様?


そうして私は突然、スパイごっこをするハメになった。


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