絵本作り(3)
ヴァイスネーヴェルラントに戻ったクラリッサ達は、1ヶ月後にまたやって来た。
「絵が完成しました。」
様々な動物達10種類が描かれた絵は、2パターンあった。
クリクリとした瞳の中に光が描かれ、前脚と後脚の毛がモフモフとした丁寧な絵と、目や脚の線がもっとシンプルに描かれたスッキリとした絵。
「いかがでしょうか?」
と、クラリッサは緊張した表情で聞いた。
「どっちもすごく可愛いですね。」
私は、スッキリした絵の方を手にとった。
「でも、こっちの方が好きです。」
純粋に上手なのは、丁寧な絵の方だ。
でも、シンプルな絵の方が、文子が絵本に感じていたようなワクワク感を感じた。
ディック、ブルーナの絵本やサン◯オのキャラクターに感じるような、テンションが上がる感覚だ。
サ◯リオのキャラクターの中では私は特に、ゴールデンレトリーバーの仔犬のキャラが好きだったんだよなあ。ただ、私は、あの子をかなり最近までプリンの妖精と思っていた。
「どちらも素敵だわ。だから、あなたが気に入った方にしなさい。」
とお母様も言ってくれた。
犬や猫、キツネや蝶の色を何色にするかも決めていく。
イザークとクラリッサはインクの色見本も持って来てくれていたので、サクサクと話は決まった。
題も決まった。『数の絵本』である。
だけど、やっぱりインターネットやFAXの無い世界での打ち合わせは大変だね。イザークとクラリッサにも、何度もヒンガリーラントまで来てもらった。正直、どれだけの手数料を取られるかが不安だ。
だから
「この絵本はとても素晴らしい物になると思います。もっと、たくさんの数発行して一般に売る気はありませんか?もちろん、作者であるエーレンフロイト様には売り上げに応じて原稿料をお払い致します。」
と言われた時、二つ返事で私はその話にのった。
元がちょっとでも取れたらいいなー、と思って。
ここで話は『臨時収入』の話に戻る。
結果から言うと、その絵本はとっても売れた。びっくりするくらい売れた。
ヴァイスネーヴェルラントでは、本は100冊売れたら大ヒット。千冊売れたら爵位が貰える、と言われている。
実際、ヴァイスネーヴェルラントでは、三人の女性作家が男爵位を国から授与されたが、彼女達は全員千冊以上自分の本を売ったそうだ。
で、私が文章を書いたその本は、初版100冊があっという間に売れた。その後、増版に増版を重ね瞬く間に500冊売れた。
当初は、小さい子供のいる富裕層が自分の子供の為に買うケースが多かったそうだ。
だけどその後、西大陸公用語を勉強したいという外国人に絵本は売れたらしい。更にその人達が故郷に帰る時お土産に持って帰ったとか。
「文章と数字を、北大陸公用語や東大陸公用語に翻訳した物を出版しましょう!」
と提案された。更に二匹目のドジョウ狙いなのだろうけれど
「姉妹品を作りましょう!」
とも提案された。
そうして
『花の絵本』『果物の絵本』『野菜の絵本』『小鳥の絵本』『牧場の絵本』等が出版された。
『花の絵本』なら『バラが1本、ユリが2本』『果物の絵本』なら『リンゴが1個、オレンジが2個』という感じである。
それらの本も順調に売れた。累計4千冊売れたのである。
原案が私という事で、姉妹品達が売れても私の懐には、印税が転がり込んできた。
そうして私はものの数ヶ月で、普通の労働者の年収ウン年分の収入を得たのだった。
私はそのお金で、孤児院の援助を行った。
建物の修繕を行い、必要な人手も雇い、子供達に高等教育の機会を与え、絵本や楽器をプレゼントした。
孤児院の援助をしたのは、自己満足の為でもあるが、もう一つ重要な理由があった。
私はお金を使いながら裏帳簿を作成し、親にも内緒の隠し財産を作ったのである。
死亡フラグは、よくしなる柳の枝の様に折れそうで折れない。なので、いざという時家出できるようお金を貯めておくのだ。
お金を全く使わないでいたら、親に「預かっておきます。」って言われちゃうからね。いろいろ使っているフリをしておいた方が差額がごまかせるのだ。
ただ、せっかく王女様の為だけに作っていた限定絵本だったのに、売れに売れたせいで希少性が無くなってしまった。
これは、マズイと思って私は王女様の為に手作りのぬいぐるみを作ることにした。今回こそ、一点ものだ。
モデルにしたのは、日本にいた頃子供はみんな大好きだった『愛と勇気だけが友達』の、ヒーローアニメのヒロインだ。丸い顔に体を作ればいいので不器用な私でも、たぶんできるはずだ。
手や足を細く長くすると、赤ちゃんの首に巻き付いたりして危険である。なので、フォルムは飛騨のさるボボ人形の様にした。
最後に、顔にメロンの様な格子模様を作れば完成だ。
そしたら。
なんか、猟奇殺人犯に顔を切り刻まれた哀れな被害者みたいな顔になった。
これはアカン。あまりにも出来上がりがサイコパス。
こんな人形送ったら、犯罪予告と思われる。
悩みに悩んだ私は、もうむしろ包帯を巻いてしまえと思って、全身を包帯でグルグル巻きにして糸で縫い付けた。
そして、これはミイラのぬいぐるみです!と言い張る事にする。
見ようによっては可愛く見えない事もない様な一品が出来上がった。
まあ、コレをお母様に見せたら、即却下されるだろうけどねー。そしたら、寄宿舎で私の枕にしよう。ともう投げやりな気持ちになっていたんだけど。
お母様に見せたら
「あら、なかなか良いじゃない。」
と言われてしまった。
「小さい子供って親が『このおもちゃで遊んでほしい』と思うような、スタイリッシュでハイセンスなおもちゃには見向きもしなくて、どう見てもゴミ、みたいな物が好きだったりしますからね。」
お母様に『ゴミ』認定された、ミイラボボ人形は、絵本や、お父様やお母様が選んだお祝いの品々と一緒に、芳花宮へ贈られて行った。
そして後日、芳花妃様から、贈られて来た全ての人形の中で、ミイラボボ人形を王女様は一番気に入っているという、お礼の手紙が送られてきたのだった。
そうやって、孤児院改革をしたり、絵本を作ったり、ミイラを作ったりと忙しくもまったりとした日々を私は送っていた。
将来起こる事件に不安はあるが、私はまだ12歳。時間はまだある、と少し余裕をぶっこいていた。
そんな中
「大変な事が起こっています。話がしたいので、今日の授業は欠席して、第二地区の別邸に来なさい。お父様やヨーゼフには内密で。」
という手紙がお母様から来た。
えっ!何事⁉︎
私が殺されるまでには、まだ6年あるし、天然痘だってまだ全然流行ってない。
正直、過去世で今頃に何があったのか、全然覚えていない。しかも、お父様やヨーゼフに内緒ってどういう事?
お母様の身に何かあったの⁉︎
不安な気持ちになりながら、私は別邸へ向かったのだった。
面白いぞー!頑張れよ!などと思って頂けましたら、ブクマや評価のお星様をぽちっとして頂けますと本当に励みになります。いつも読んでくださって感謝します。




