孤児院改革(3)
ヒロインが残酷な空想をしています。
正直言って。
私は子供を虐待する奴など死刑になればいいと思っている。
それも、普通の殺し方では生ぬるい。
子供をネグレクトで餓死させる奴は、餓死させればいい。子供を殴り殺した奴は、拷問死させてやればいい。子供に性的虐待をするような奴は、全身にハチミツを塗りたくって熊の群れの中の突き落としてやればいい。
虐待する側の事情とか人権とか知った事ではない。文子が知っているのは、虐待された側の涙だけだ。
だから、今回の事件で、孤児院長、仲介した商人、院長と癒着していた貴族に死刑判決が出ても私は何とも思わなかった。
ただ、死刑判決が出た理由は、児童虐待ではなく人身売買であるらしい。
ヒンガリーラントでは一時期、貴族の子供が誘拐されて売られる事件が多発した。なので、人身売買は極刑と定まったのだそうだ。
孤児院を支援していた貴族達は、人身売買が行われていたなど知らなかった、としらばっくれたらしい。ふざけるな!と言ってやりたい。
孤児院を支援していた貴族は、出資に応じた額の配当金を受け取っていたのだ。孤児院に投資したらリターンがあるなんて、人身売買をやっていたに決まっているではないか!
だが、この一件には考えさせられた。私が援助した孤児院で非人道的行為が行われたら、私も責任を問われるのだ。
自分が払ったお金が何に使われているかを、確認し監視する必要があるという事だろう。問題の孤児院で10歳以上の子供が行方不明になっている事を支援していた貴族達は当然気がついていたはずだ。なのに、知らなかった、自分は無実だ、と言い張るなど図々しいにもほどがあるというものだ。
お父様が私に真実を教えてくれた翌日、新聞で大々的に事件が報道され、幼い子供達が犠牲になった事件に王都民は皆怒り狂った。
事件の当事者を厳罰に処さねば、政府と王室に人々の怒りが向く。
実際、孤児院の調査と支援金の配布については民部省の管轄であり、どうして民部省が事件を見過ごしていたのかが問題になった。
表向きは立派な施設であり、子供達も健康そうだったから見抜けなかった、と民部省の官僚は言ったらしいが、後に孤児院の帳簿が発見され、民部省の人間に大量の賄賂が渡っていた事がバレると大問題となった。孤児院長や不正貴族達に続いて、彼らも厳罰に処される事となる。
お父様は、私の名前を表に出したくなかったらしいが、王室は国民の批判の矛先をかわすため、事件解決に大きく寄与したのは、第二王子の婚約者だと大々的に触れ回ったらしい。
正直言って迷惑だ。このせいで、孤児院の慰問に行きにくくなったからだ。
私は、生き残った5人の子供達の事を考えた。
体にも心にも大きな傷を負った事だろう。それを癒す為の戦いは、生涯にわたるものになるかもしれない。
それでも、その子供達の道筋に少しでも光がある事を。心の底から私は祈った。
そうやって始めた孤児院改革と援助だが、当初は私とユリア、そしてユーディットの三人でやっていた。
しかし、ユーバシャール孤児院の援助を続ける内、私はある事を考えた。
孤児院の子供達に、ハンドベルの演奏を聴かせてあげたい。
そして、ハンドベルに子供達が興味を持ったら、ハンドベルをプレゼントしてあげよう。
楽器に触れる事は娯楽になるし、音楽に親しむ事は情操教育になる。それに、お祭りの時などに広場で演奏をしたらお金儲けの手段になるのだ。
もちろん、強制するつもりはない。子供達が興味を持たなかったら、それはそれで別に良いのだ。だが絶対子供達は興味を持つ、と私には確信があった。なぜなら。文子と仲間達も一緒にハンドベルを演奏するのが大好きだったから!
ただ、そうなるともう少し仲間がいる。私達三人では、腕が六本しかないからだ。
私は、孤児院を慰問する仲間を募集した。すぐに答え応じてくれたのは、エリザベート様の取り巻きの子二人だった。
これ、絶対エリザベート様の指示だな。私のやっている事を探って来いと命令されたのだろう。ま、別にいいけどね。
アグネスもすぐに手を挙げてくれた。驚いたのは、アグネスと同室の、ユスティーナ・フォン・ツァーベル嬢も手を挙げた事だ。
私、彼女には嫌われていると思ったのだけど。何で嫌われているのかわからないという方には、ぜひとも第9話の『優勝』と第37話の『一週間経ちました』を読み返して頂けるとありがたい。まあ、よくわからないけど、猫の手でも借りたい状況だ。手を貸してくれるのはありがたかった。
他にも何人か、手を挙げてくれた子達がいて、皆でキャッキャウフフとハンドベルを演奏する事になった。
あまり長い曲だと素人には厳しいし、子供達も寝てしまうかもしれないので、私が作った、とホラを吹いてある地球の音楽を奏でる事にした。チューリップが綺麗とか、エーデルワイスが清らかとか、そういう曲だ。
結果。
孤児院の子供達の食いつきようは、3日絶食した鯉達がいる池にお麩を投げ込んだくらい凄かった。
ハンドベルに触りたがるのを大人達が必死になって止めたくらいだ。今度来る時にハンドベルをプレゼントする、というと、地響きが起こるくらい子供達は歓喜していた。
はっきり言って、楽器は安くない。
それでも、そんな高価な物をほいっとプレゼントできてしまう理由。
それは私に臨時収入があったからだ。
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よろしくお願いします。