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孤児院改革(2)

残酷描写があります

その孤児院は、表向き清潔で、子供達の栄養状態も良く、ペットに猫を飼ったり、たくさんのおもちゃが与えられていたりして、子供達も幸せそうだった。名門の貴族家がたくさん寄付をしてくれているという事で、正直他の孤児院より、生活レベルはワンランク上だった。


ただ異常に思ったのは、10歳以上の年齢の子供がいなかった事だ。皆、里子になったり、貴族の領地に集団就職したというのである。

それ事態はおかしな事ではないのだが、妙なのは、院を出て行った子供達が誰一人として二度と院へ戻って来ないという事だ。

孤児院での生活が幸福であればあるほど、子供達は休暇の時などに孤児院に顔を出すはずだ。きちんとした場所に就職したのなら、稼いだお金を一緒に暮らした幼い子供達の為に使って、院を援助しようとするはずである。遠い所に行ったから戻れないのだとしても、結婚した時や子供ができた時など、折につけ手紙の一通でも寄越すはずだ。それが普通なのだ。私にはわかる。


この孤児院おかしい。と思ったが、院を出た子供達が遠い土地へ行ったとかで、私には調べようがなかった。

探偵事務所とか興信所とかあればいいのに、と思ったが、もしかしたらあるのかも知れないが、私には見つけられなかった。

どうしよう?と悩んでいた私に、手を差し伸べてくれたのは、初等部に入学したばかりのアグネス・フォン・ファールバッハだった。

彼女のお父さんは『情報大臣』をしているのだ。


アグネスの双子の弟エリアスは、うちの弟以上に気の弱い子だったらしく、寄宿舎に入って来た日の夜、ホームシックで一晩中泣いていたそうだ。それを、ヨーゼフがよしよしと宥めていたらすっかり懐かれたらしく、今やすっかり二人は心の友状態である。休みのたびに二人はお互いの家を行き来しているのだが、エリアスがうちに遊びに来る時は必ずアグネスも一緒に来る。なので、アグネスもすっかり私に懐いていて、家でもアカデミーでも私の事を『お姉様』呼びだ。それは別に構わないのだが、なんか気のせいか、側にいるユリアの視線がじとっと怖いような気がする。


まあ、それはともかく。アグネスはパパに頼んで調べてあげます。と請け負ってくれた。

情報省がどういうシステムになっているのか、大臣の娘がどれくらい公私混同できるのか不明だが、私はその孤児院の事がものすごく気になって仕方なかった。なんか、私の嗅覚に胡散臭い臭いが引っかかったのだ。なので、アグネスに頼んでみる事にした。


そして、2週間後。

突然私のお父様が寄宿舎にいる私を訪ねて来た。


「ファールバッハ伯爵から話があった。」

お父様は、眉間にシワを寄せて私にそう言った。


「『例の孤児院』は、明らかに異常だ。これから更に徹底的な調査に入る。危険なので、おまえもアグネス嬢も絶対にその孤児院に近づかないように、との事だ。」

「え・・・?」

「もう少しすれば全てが明らかになるそうだ。だが、それまでこの事を誰にも言わないように。あの孤児院の院長は数多の貴族と繋がっている。つまり、その貴族の子供らがアカデミーに通っているんだ。そこから、情報省の捜査が伝わったら、重罪人を取り逃がす事になるかもしれないからだ。」

「なんか、そんな大変な事なの?孤児院を出た子供達は大丈夫なの?」

「今は全てを、大人達に任せてくれ。」


そわそわしながら日々を過ごす事1週間。

また、お父様が会いに来てくれて私は

「どうなったの⁉︎」

と、にじり寄った。

「子供達は国内にはいなかった。外国に売られていた。」


・・まあ、そうだろうと思っていた。孤児院から子供達が大量にいなくなり2度と戻って来ない、となると、考えられるのは人身売買しかない。問題はその子供達がどうなっているのか?生きているのかだ。

売られた場所が娼館とかなら、悲劇ではあるがまだ生きているはずだ。もしくは、鉱山とかでの奴隷労働とかなら。

頼むから、人体実験とか、邪教の生贄とかであってくれるな。握りしめた手が震えた。


「女の子達は娼館に売られていた。一部の男の子も。」

「・・・。」

「ヒンガリーラントでは、15歳未満の子供が売春行為を行ってはならないと風営法で決まっている。させた大人や客は厳罰の対象だ。だが、子供達が売られた国にそんな法律は無かった。むしろ、性病を持っている可能性が低いという事で、娼婦は幼ければ幼いほど良いという風潮の国だ。そして、性病に感染した娼婦は・・森に捨てられる。」

「・・他の男の子は?」

「違法闘技場に売られていたそうだ。」

「闘技場⁉︎武術の心得の無い子供が、まともに闘えるわけがないじゃない。そんな所に売って何になるっていうのよ!」

「・・その闘技場で最大の見世物は、野獣と人間を戦わせるショーだったそうだ。」


・・・。


私は引っこ抜かれて引き摺り回されたマンドラゴラのような悲鳴をあげた。

あまりの大声に、応接室に副校長とエリザベート様が駆け込んで来たくらいだ。

お父様が私を強く抱きしめてくれた。お父様の腕も震えていた。


この1週間、考えていた『最悪』の更に向こうを行く話だった。

人はここまで邪悪になれるのか。私の想像の範囲などでは辿り着くこともできない話だった。


その子供達は私にとって他人ではない。その子達は『文子』であり『文子の仲間達』なのだ。

その子達が感じた、恐怖、苦痛、怨嗟、憎悪、絶望。それを本当の意味で理解することはできないだろう。その100分の1も理解できないのに、それでも心臓が引き裂かれるかのようだった。


「30人以上の子供らが海を渡りそこで死んだそうだ。しかし、情報省の必死の捜査で5人生き延びていた子供が見つかった。国王陛下は、その子らを連れ戻し生涯に渡って保護すると決定された。確実に信頼できる大人に託し、慰謝料と生涯年金が出る。その子達が助かったのはおまえのおかげだ。おまえが、その5人を救ったのだ!」


そう言われても、胸の痛みは止まらなかった。


お父様は泣いていた。

私も涙が止まらなかった。

今日も2話連続投稿します。

よろしくお願いします。

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