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私の大切なお友達(2)(ユリアーナ視点)

レベッカ様は、とにかく勉強熱心です。真剣に授業に取り組まれ、図書室にも熱心に通われています。

だけど自分の賢さを誇ったり、他人の愚かさを蔑んだりなど決してされません。常に慎み深く、謙虚で控えめです。

どうして、こんなレベッカ様の悪評を噂する人がいるのかしら?と不思議でなりませんでしたが、一つ気がついた事がありました。

ユスティーナ・フォン・ツァーベル様の事を、お可哀想ね。レベッカ様と顔を合わせるのはお辛いでしょうね。と噂している人達がいたのです。


どうやら、昨年の建国祭のチェス大会でレベッカ様が優勝された事で、損をしたギャンブル好きの貴族の方がかなりいたらしいのです。

その方達や、レベッカ様に勝負で負けた方達が、レベッカ様の利発さを恨んで悪評を流しているようです。


怪我をさせられた使用人がいるという噂の方もなんとなくわかりました。

レベッカ様の侍女の、ユーディットさんに

「お嬢様の事をよろしく頼みますね。」

と言われた後、こう言われたのです。

「ただ、お嬢様を案内する時に、手を繋いだりなさらないでくださいね。お嬢様は、興味のある事を見つけると突然走り出したりします。その時に手を繋いでいると引きずられてしまいますから。お嬢様の手を離さなくて転倒し、肩の関節を外したメイドもいるのです。」

おそらくその話が、かなり歪曲して広まったのでしょう。


レベッカ様は、朝起きた時いつも私に「おはよう。」と言ってくださいます。

「雪が積もったね。」「今日は少し暖かいね。」「椿の花が綺麗ね。」「あそこに小鳥がいるわ。」

そんな他愛のない会話をする度に、自分がどれだけこんな時間を求めていたのか、どれだけ孤独だったのかに気づかされます。

あんなに、毎日辛かったのに、今は毎日がとても楽しいです。レベッカ様と一緒にいると自分の中の凍りついた何かがゆっくりと溶けていくように感じます。



レベッカ様は好奇心が旺盛で、特に市井の人々の暮らしに関心があるようです。

ですが、私の侍女になってでも、街へ行きたいと言われた時には驚きました。最初はそんな僭越な事は絶対できないと思っていましたが、

『友達と街に遊びに行ってみたかった』

という言葉を聞いた時、胸が震えました。

私はレベッカ様の事を、とてもお慕いしているし、レベッカ様も私にとても気さくに接してくださっていたけれど、私の事を『友達』だと思っていてくださるなんて!

胸が詰まって、久しぶりに泣きそうになりました。レベッカ様の事をとても気に入っていらっしゃる、シュトラウス先生もお味方してくださったので、私とレベッカ様は一緒に外出する事ができる事になりました。


ただ、その外出時に私の家で、古くなって傷んでしまっているコーヒーをレベッカ様にお出ししてしまうという大失態を犯してしまいました。私は血の気を失いました。支店長も、死んでお詫びを、とでもいうような表情をしていました。

実際、訴えられて投獄されてもおかしくない事態だったのです。傷んだ物を出すという事は人為的な食中毒を起こそうとしたのと同義であり、殺人未遂と同じです。貴族に害をなそうとしたという事になれば、レーリヒ商会など一瞬で潰れてしまいます。


ですが、レベッカ様は笑って許してくださいました。それだけでなく、『豆乳』という未知なる食べ物を教えてくださいました。料理のレシピは、花嫁の持参金の一部になるほど、各家にとって重要な財産です。それを無償で譲ってくださったのです。レベッカ様は本当に、なんと慈悲深い方なのでしょう。


レベッカ様は本を読んで未知の物を知ると、それを作ってみたくなる性分のようです。

レベッカ様は、たわわに実った椿の実を集めると、それからキラキラと輝く黄金の油を作り出されました。その油を顔や手のひらに塗るとするっと馴染んで、肌荒れが綺麗に治るのです。

お父様は、真冬でも美しい花を咲かせる椿の木が売れるのではと思って、東大陸から苗木をたくさん取り寄せたのですが、売れませんでした。最大の原因は、果実が食べられないからです。同じ花の咲く木なら、食べられる実のなる木の方が人気なのです。

更に、真冬に花が咲く特性の為、養蜂家にも敬遠されました。

美しい花が咲く木なので、残念だと思っていましたが、まさか、こんなにも素晴らしい油がとれるなんて。

レベッカ様の知識の深さには本当に感服致します。


レベッカ様は穀物から、蜂蜜のような物も作り出されました。

微力ながらお手伝いさせて頂いたのですが、完成品を口にした時は感動致しました。

蜂蜜や砂糖は大変な貴重品で、とても高価ですし、お金を積めば手に入るというわけでもない貴重な物です。

実は私が、エーレンフロイト家は大変な財産家だと感じたのは、入学してこられたレベッカ様のお茶セットの中に、壺いっぱいに入った蜂蜜を見た時です。こんなにたくさんの蜂蜜を手に入れるだけでも大変なのに、それを子供の嗜好品として持たせるなんてすごい事です。

レベッカ様は、その蜂蜜を惜しげもなく紅茶に入れ、更に一緒にお茶を飲もうと誘ってくださった私にも、好きなだけ入れるように勧めてくださったのです。

ユーディットさんにも、自分が授業を受けている間、自由にお茶を飲み、蜂蜜を食べていいとおっしゃっていました。


見栄を張ってはいるけれど、内情は火の車という貴族家も少なくないのですが、エーレンフロイト家は本物の富豪です。

それでもレベッカ様は、裕福ではない方達にも甘い物をたくさん食べて欲しいとおっしゃって、蜂蜜のような物を作り出されたのです。

残念ながら甘味料の製造は、国家への反逆罪に当たる可能性があると言われて、侯爵様に止められてしまいました。

しかしその時に、椿油の有用性は認めてくださって、椿の木を買ってくださると侯爵様はおっしゃってくださいました。


今までもレベッカ様は、大麦やもち米、陶器の瓶などをレーリヒ商会から買ってくださっていました。

でも、遂に!御当主様から、取り引きの依頼が入ったのです。

それは、父や父と共に働いてくれている皆の悲願でした。

私は皆の期待にようやく応えられたのです。こんなチャンスをくださったレベッカ様には、どれだけ感謝しても感謝しきれません。


今年の新年祭が終わった冬のあの日。私の生活は一変しました。

全てが良い方向に幸せな方向に変わったんです。

私は深く暗い穴の中に落ちてしまって、ここからはもう永遠に出られないのだと思っていました。

実のところ、もう死んでしまいたいとさえ思っていたのです。

でも、状況は変わります。激しい嵐のような感情に振り回されていても、その嵐はいつかおさまる事もあるのです。

私は今、とても幸せです。



暖かい春の陽射しが、私とレベッカ様、いえ、ベッキー様とユーディットさんのいる応接室に降り注いでいます。

今、レーリヒ商会の女性職員が、お茶会に着けて行く為のブローチを持って来てくれています。

ベッキー様の瞳の色と同じ花色のサファイアの物。ベッキー様の髪の色と同じ黒珊瑚やオブシディアンの物。エーレンフロイト家の家門の石であるペリドットの周りに小さなダイヤモンドをあしらった物。

ユーディットさんは、真剣に一つ一つ眺めていますが、ベッキー様の方は上の空です。

「お嬢様も真剣にご覧ください。どの石がよろしいですか?」

「んー。じゃあ、2番目に安い奴。」

「高価な方から選んでください!」

「エリザベート様より高いブローチ着けて行ったら、お尻ペンペンじゃすまないよ。」


そう言いつつベッキー様は、一つのブローチを手に取られました。

桃色と緑色、バイカラーのトルマリンです。

「これ、面白い。」

そう言って私の胸元に近づけられました。

「ユリアに似合いそう。」


そう言われて、また不覚にもうるっときてしまいました。

こんな、優しく穏やかな日々が、いつまでも続いていってくれたらいいな。

そう思いました。

以前から、書いてみたかったユリア視点の話がようやく書けました。

ユリアから見たレベッカの話です。

次の話から1年後のアカデミーになります。

レベッカもユリアも12歳になってます。

どうか、レベッカとユリアーナ、そして作者に応援よろしくお願いします。

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