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王都の孤児院

でもって、私とユリアの二人はエリザベート様のご実家の、ブランケンシュタイン家の馬車に乗っている。


乗っているのは私達二人にエリザベート様。そしてエリザベート様の侍女の四人。

馬車に乗っている間に、私は聞きたかった事をエリザベート様に聞いてみた。


「王都の孤児院って、誰が運営しているんですか?国ですか?宗教ですか?」

児童養護施設育ちの文子さんとしては、この世界の孤児院の状況は、ぜひとも知っておきたかった。


「善意の個人です。」

「ええっ!全部私立なんですか。」

「エーレンフロイト領では、領主が運営しているのよね。」

「はい。領主の館の離れに、孤児院と身寄りの無い高齢者が住む養老院があります。」


で、赤ん坊の世話は元気なお年寄りに、体の悪いお年寄りの世話は年上の子供達に見てもらうのだ。

敷地内に畑を作って野菜を育てているし、近くの森で木の実や薪を、海で魚や貝をとってきて、基本自立した生活を送ってもらっている。

冬支度や、頭の良い子供を大学に進学させたり、病気になった時の薬代など、特別にお金がかかる時だけ、領主が援助をしているのだ。


「ブランケンシュタイン領も、ほぼ同じね。領主の館ではなく、別の土地に建物を建てているけれど。」

「どうして王都では、そうしていないんですか?」

「昔は国家が運営していたのよ。役所の民部省が管轄していたの。でも、だんだんと役人が腐敗していくと、孤児院は、問題を起こしたり出世競争に敗れた役人の左遷先になったの。子供達への愛情が無い、むしろ正常な道徳心すらも無い人間がトップに立って、胸の悪くなるような事件が立て続けに起こって、それで善意の個人に見てもらって、その人達を国が援助するという形式に変わったのよ。だけど、それだけでは、施設の運営は成り立たないわ。だから、貴族や財産のある商人には、積極的にそういった施設を援助する事が義務とされているの。そういった建前があるから、アカデミーでも、孤児院や救貧院への慰問は止められないのよ。」


「国がもっとたくさん援助をする事はできないんですか?貴族の援助に頼らなくても子供達が生活に困らないくらい。」


「そんな事をしたら、貪欲な人間が孤児院を開設して、援助金で私腹を肥やして、子供達は餓死寸前という状況が増えるわよ。援助金は、労力に対して割に合わないくらいな額の方が、利己的な人間を排除できるの。そして、本当に信頼できる人間が運営しているかを、寄付する側が見定めて、寄付するかどうかを決める事によって信頼に値する施設だけが残っていくの。」

「世知辛いですね。」

「一万人の善人が築き上げた幸せを、たった一人の悪人が壊してしまうのが人の世というものよ。だけど、数え切れないほどの悪人に囲まれていても善行を貫き通す、聖女エリカのような人間がいるのもまた、人の世なのよ。」


そう言うエリザベートは、なぜジークルーネを助けに行こうと思っているのだろう?

友達だから?高貴な立場の人間としての義務だから?


立て続けに起こった、胸の悪くなるような事件って何ですか?


と聞いてみたかったが、馬車はヒルデブラント邸に着いてしまった。

ヒルデブラント邸も、エーレンフロイト邸やシュテルンベルク邸同様、王宮のお膝元の『王城特区』にある。アカデミーから、そう遠く離れているわけではないのだ。

ブランケンシュタイン家の家紋を見ると、門番はあっさりと中へ入れてくれた。

エリザベートから、いろいろな情報を聞かされていたので、伏魔殿のように感じる。

私は緊張して、拳を膝の上で握りしめた。

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