表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第九章 ブラウンツヴァイクラントからの亡命者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

559/561

兄弟(2)(ルートヴィッヒ視点)

残酷描写があります

ザワザワとした人の声が段々と大きくなって来た。


護衛騎士達の間に緊張が走る。僕とクラウスは椅子から立ち上がった。何かの時には走って逃げ出さなくてはならない。それは臆病ゆえではない。僕らの身に何かが起こったら、誰かが責任をとらされるのだ。


部屋の外に待機していた芳花宮の侍女、リールクロイツ夫人が部屋の中に入って来た。


「失礼致します。王妃宮の侍女が殿下方への面会を希望しています。」


「はあ!何の用だよ?」


王妃が僕達に接触して来る事はないので、おそらく兄である第一王子の遣いだろう。未だ王妃宮で謹慎中のあの異母兄が突然何の用だというのか?嫌な予感しかしない。

それと同時に、無理矢理乱入して来ないところに王宮も変わったな。と思った。歴代の女官長共は、呼んでもいないのに無理矢理押しかけて来ては宮殿の侍女や護衛騎士達を蹴散らして乱入して来た。それをしなくなったのは、僕達の立場が上がったからではない。王妃とその側近達の立場が凋落したのだ。


「それが、その・・助けて欲しいと申しております。」

「兄上。会うだけ会ってみましょう。」

とクラウスが言った。そう言われたら僕も反対はできない。だって、ここはクラウスの家なのだから。


「通せ。」

と僕は言った。しばらくして、まだ10代と思われる少女が入って来た。彼女を見て、何故周囲がざわめいていたのかわかった。少女は左のこめかみに怪我をしていて、そこから流れ出す血が侍女服を真っ赤に染め上げていたのだ。


「すぐ宮廷医を・・。」

「どうか、姉をお助けください!」

少女はクラウスの発言を遮って被せてきた。


本来なら不敬な行動だ。だけど、どう考えても尋常でない状況である。だから誰も少女を叱ったりはしなかった。


「其方の名は?」

と僕は質問した。


「エリスリーゼ・フォン・バルナバスと申します。」

「民部大臣の一族の者か?」

「男爵は私達姉妹の伯父に当たります。」

「何があった?」

「王太子殿下が、姉に伽を命じられました。だけど姉には相思相愛の許婚がいます。姉が拒否をすると殿下は激昂し、姉にひどい暴力を・・・。」

「こんな昼間に⁉︎」

とクラウスが言った。驚くところはそこじゃねえだろ!


バルナバス男爵はばりばりの王妃派貴族だ。ガルトゥーンダウムやエーベルリンがいなくなった今ディッセンドルフ公爵の最側近と言って良いかもしれない。その姪である少女である。正直、罠を疑った。


だけどその為だけに、少女の顔にこんな大怪我をさせるなんてやり過ぎだ。

それに少女は『伽』と言った。品のある言い方をしても結局のところ、それを強要するのは性犯罪だ。


僕はジークレヒトの事を思った。

おそらくクラウスだって、彼を思った事だろう。


彼は性犯罪の被害者だった。

そして、性犯罪の被害に遭おうとしていた少女を救い出して死んだ。


もしここに彼がいたら、迷わずこの少女の手をとっただろう。


そして彼の妹と、レベッカ姫は『真珠宮妃』が監禁され虐待されていると聞いて迷わず王都を飛び出して行ったという。騎士団の応援も待たずにだ。


それなのに、王子である僕が言い訳や躊躇ちゅうちょをしている場合だろうか⁉︎


それでも一応は質問してみた。

「どうして父上のところではなく僕らのところへ来た?」

「エーレンフロイト侯爵令嬢の勇姿はわたくしの耳にも届いております。派閥が違う為、親しくなる機会はありませんでしたが、彼女はわたくし達姉妹の憧れでした。第二王子殿下は、そんな彼女を選び選ばれた方です。第二王子殿下以外、頼る相手はいないと思いました。」


ここまで言ってもらえて、嫌だと言えるだろうか!

罠かもしれない?それが、どうした。そんな物は喰い破ってやる!


「リールクロイツ夫人。バルナバス嬢を医者に。」

「いいえ、私は王妃宮に戻ります。姉を・・ロイスリーゼを助けないと。」


正直、今戻ると実の妹には到底見せられぬような卑猥な惨劇の真っ最中なのでは?と思う。こんな大怪我をしていては、ジークルーネ嬢のように犯人を殺害する事は不可能ではあるだろうが、だからと言って見ないで済むなら双方の為に見ない方が良いだろう。

というか。


「バルナバス嬢。その顔の怪我はどうしたのだ?」

と僕は質問した。

「ロイスリーゼを助けようとして、王太子殿下に蹴られました。」


僕はあの運動が大嫌いな兄が、足を高々と上げて彼女を蹴っているところを想像して、それは無いな。と思った。あの兄の股関節に、そこまでの柔軟さがあるわけがない。もし、本当にこれが何かの罠ではなく、兄が彼女の顔を蹴ったというのならきっとその時彼女は地面に這いつくばっていたか倒れていたかだろう。よくよく見れば彼女のスカートの膝部分や手のひらは砂だらけだ。


僕はエリスリーゼと、あと複数の護衛騎士達と共に王妃宮へ向かった。クラウスも一緒だ。蛍野宮の侍女が一人だけついて来た。彼女の銀色の髪に見覚えがあった。彼女は『森影』のヒュアツィントだ。


王妃宮の入り口にも護衛騎士達がいる。彼らに妨害されるのではないかと思ったが、むしろ積極的に入れてくれた。彼らは皆どことなくほっとしたような表情をしていた。すれ違うメイド達も誰も僕らを止めない。むしろエリスリーゼの怪我を気遣い、僕らを庭の方に誘導してくれる。


庭園から女性の悲鳴が聞こえて来る。女性は明らかに泣いている。



そして、僕とクラウスは衝撃的なものを見た。それは僕の想像とは違う方向に残酷な光景だった。


エリスリーゼと姉とやらは双子なのだろう。エリスリーゼと同じ顔をした少女が大木に縄で縛り付けられていた。そんな彼女の頭の上にオレンジが置いてある。そして、兄の側近達、複数の男らが少し離れた場所で手にダーツの矢を持って取り囲み、その矢を少女に向けて投げていたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ