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会談(3)(リヒャルト視点)

「『森の賢者の会』?・・・もしや、それが『斡旋業者』の名前か?」

「リーダーは『フクロウ』というらしいわ。リュストクスは『ハヤブサ』と名乗っていたのですって。」

「リーダーが何者なのか、正体はわかっているのか?」

「いいえ。参加者は本名を名乗らず、会う時は全員仮面を着用していたそうよ。勿論、主宰者は全員の素性を把握していたのでしょうけれど。そもそも当初は外国で発足した社交クラブらしいわ。それが半年ほど前にヒンガリーラントにも進出して来たの。最初のうちは配当の良い投資先なんかの情報を共有とかしていたらしいけれど。それが段々、挙げ句の果てに。ってところね。会員は皆、鳥の名前で呼ばれていたのですって。」

「だから、クチバシか。」


『森の賢者の会』


何となく好感を持てないネーミングだった。

投資先の情報の共有とか言っているが、要するにマルチ商法とかネズミ講だったのではないだろうか?

無駄に虚栄心を前面に持ち出しているところが『光輝会』を思い起こさせる。メンバーが三流なところもよく似ていた。


「伝えたい事は伝えたからもう帰るよ。」

「ええ。・・ジークルーネをよろしく頼むわね。」

そう言うゲオルギーネの顔は面白がっているようだった。私が再婚したら再婚相手とジークルーネが揉める事を正確に予測しているのだろう。

だけど、ほんの少しだけ。ジークルーネに対する愛情も垣間見えた。

ゲオルギーネは悪女ではない。そしてジークルーネもまた悪女ではなかった。ただお互いの立ち位置の違いゆえに両者は相容れない存在だったのだ。


私は書斎を出てエントランスへ向かった。そちらの方から甲高い喚き声が聞こえて来る。


エントランスに五歳くらいの女の子がいた。可愛らしいドレス姿だが、仰向けになって寝転び手足を激しくバタつかせながら泣き叫んでいる。

客人である私の姿を見て、執事や侍女達が何とか少女をなだめようとしているが、少女はますます大声で叫び出した。


「うああああ!バカー!カスーッ!(自主規制)!(自主規制)!」

後半の方では少女は表記できない言葉を叫び出していた。どこで、そんな言葉を知ったんだ?と聞きたくなるワードである。


「お嬢様、おやめください!」

侍女達はもう半泣き状態だ。しかし少女は激しく手足を動かしますます激しく叫んでいる。


・・これは大変だ。と思った。

おそらく年齢からしてゲオルギーネの孫娘だろう。随分と闊達な孫のようだ。


レベッカもジークルーネも元気な幼女だったが、これほどではなかった。貴族家の娘として一応それなりに礼儀正しかったし、可愛げというものがあった。


ゲオルギーネが孫娘を放任していたとも思えない。それなりの教育や矯正を与えていたはずだ。それで尚このレベルなら彼女が「虚しい」と言ったのも理解できる。


「きゃああ!」

と侍女が悲鳴をあげた。少女が侍女の腕に噛み付いたのだ。一瞬、侍女を守ろうと動きかけてやめた。私はただの通りすがりの人間だ。少女のこれからにずっと関われるわけではない。ならば余計な事をしてはならない。叱るのも、なだめるのも少女のすぐ側に常にいる人達がするべきだ。私が見守っていき、間違っている時に叱らねばならない少女は別にいる。私は、少女から目を背けて通り過ぎた。玄関を出てドアを閉めても、少女の悪態が聞こえて来た。


私は空を見上げた。ゲオルギーネとは話がついた。もっと揉めるかと思ったがあっさりと片がついた。

だけど、まだ問題は山積みだ。

ハーゲンベックがどう動くか予測がつかない。

ゲオルギーネに言われて口を閉じるかもしれないが、逆ギレし、周囲を逆恨みして問題を大きくするかもしれない。そうなったらジークルーネがどう反応するか。

女性の感情ほど、この世に思い通りにならないものはない。私はそれを骨身に染みて知っていた。


木々の間を爽やかな風が吹き抜けていく。

ノエル叔母上とジークルーネ、それにリナはそろそろシュテルンベルク領に着いたかな?

と考えた。


私も決断をしなくてはならない。

その時が近づいて来ていた。

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