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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第九章 ブラウンツヴァイクラントからの亡命者

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親族会議(2)

「問われないよ。その通りの状況ならば正当防衛だ。性犯罪は殺人と同じほどの重大犯罪と我が国ではされている。犯人は弱みに付け込んで性暴力を振るったのだから合意があったとは到底言えないし、そもそも14歳以下の子供が相手の場合、合意の有無は関係ない。ジークルーネが殺さなくても、司法省に突き出せば極刑間違いなしの犯人だ。そのユーフェミオという男は!」

とお父様が言った。


そうだった。ヒンガリーラントの性犯罪は、日本の性犯罪よりはるかに罰が重いのだった。何せ、全裸にコートを羽織って人前でガバアっとやったら、終身刑にされる国なのである。


「だけどジークルーネが司法省の取り調べで殺害の動機を正直に話すはずがありません。」

とコンラートが言った。


「ハーゲンベック一族に縁のある使用人達がハーゲンベック領に逃げ帰ったので、ハーゲンベック子爵夫人は事件の全貌を知りました。息子を殺された子爵夫人がジークルーネを殺人罪で告訴したとしても、ジークルーネはユーフェミオを殺した動機を絶対に法廷で話そうとはしなかったでしょう。そうなれば正当防衛とは認められず、ジークルーネは殺人犯として重い罪に問われたはずです。そうなれば兄であるジークレヒトは勿論、父親である侯爵も継母のヴィルヘルミネ夫人もその罪に連座させられます。ヒルデブラント家としては大変な醜聞です。そんな事態になるくらいなら、ゲオルギーネ夫人はジークルーネを自死に見せかけて殺害したでしょう。だからヒルデブラント侯爵はジークルーネを逃したのです。そして莫大な口止め料をハーゲンベック家に支払い告訴しないよう説得しました。おそらく、今日までハーゲンベック子爵夫人はジークルーネがどこにいたのか全く知らなかったはずです。」


確かにジークルーネは法廷に引きずり出されたとしても動機を話したりしないだろう。と思った。


あの人は、私とユリアがドーベルマンに襲われながら押しかけて行った時も、上手いことそのあたりの事は、はぐらかして話さなかったのだ。

私だって、ヨーゼフがもし『そういう事』になったとしても、裁判官にも信頼できる友人にも話さないと思う。たとえそのせいで、自分がどれほど不利な状況に置かれる事になったとしてもだ。


だけどそのせいで、父親や継母はともかく、心に傷を負った兄が連座させられるなんて事になったら。ジークルーネはゲオルギーネ夫人が手を下すまでもなく、自ら死ぬ事を選んだかもしれない。


だからと言って。


「強姦魔の家族の方が被害者の家族から何でお金もらってんのよ⁉︎」


納得がいかん!


おそらくハゲ一族は、ずるずるとこの五年間、金をヒルデブラント侯爵からせびり取っていたに違いない。ジークルーネはあの一族の『復興貴族税』はヒルデブラント家が払うと言っていた。当たり屋の説明をした時、当たり屋は末端でもその背後に脅迫のプロがいて、一生付きまとわれて骨の髄まで絞りとられるとも言っていた。明らかに金の無さそうな領地なのに子爵夫人と息子は肥え太り贅沢な装いをしていたのは、ヒルデブラント家からお金をゆすり取っていたからなんだ。


「あのおばさん、一発殴っておくべきだった!」

私は拳を握りしめて叫んだ。


「どれだけお金を払ってでも、それでもジークルーネとヒルデブラント侯爵は、ジークレヒトが身を穢された事を絶対に秘密にしておきたかったのです。ジークレヒトもこの手紙の中で、その時『その事』が人々の間に知れ渡っていたとしたら自分はきっと生きてはいけなかった。と書いています。」

とコンラートが苦しそうな声で言った。


それは、そうだろう。噂が広まる事は事実上のセカンドレイプだ。誰にとっても耐えられる事なんかじゃない。


四年前、ブルーダーシュタットのぬいぐるみのお店でジークルーネとジークレヒト様の話をした時、この人の世界は相変わらずお兄さんを中心に回ってんなぁ、と思ったんだよね。正直お兄さんに甘い、というか過保護だと思った。


でも、今日のこの話を聞いたら全然感想が変わって来る。ジークレヒト様にとって、性被害から立ち直る為の戦いは筆舌に尽くし難いほど辛く、離れて暮らすジークルーネはただ心配する事しかできなかったのだろう。それがジークルーネにとってもどれだけ辛い事だったのか。


やっぱり、あの子爵夫人は一回殴っておくべきだった!


お父様も子爵夫人の事を

「認知が歪んでいるな。」

と言って怒っている。


「だが状況は変わった。『ジークレヒト』はもういないんだ。ジークルーネ嬢はともかく、ヒルデブラント侯爵が娘の命より死んだ息子の尊厳を尊ぶ事はないだろう。」

とお父様が言う。


そうか、だからヒルデブラント侯爵は『ジークレヒト』が死ぬ事を望んだのだと思った。

ハーゲンベック子爵夫人はジークルーネがジークレヒトに変装して生きている事を知らなかった。そのジークルーネが変装している『ジークレヒト』が死ねば、もう恐喝はできなくなる。死者の、それも英雄として死んだ若者の尊厳を穢す発言を言い広めれば、世間から叩かれるのは子爵夫人の方だ。


無論、ジークハルトと名を変えて新たな人生を生きているジークレヒト様は、過去のトラウマを呼び起こされて苦しむかもしれないけれど。


だけど

「この手紙の中で、もしジークルーネが訴えられて法廷で黙秘をしたら、私に代わりに真実を暴露して欲しいとジークレヒトは書いています。だから今、皆さんにも伝えたのです。」

とコンラートは言った。


ジークレヒト様もジークルーネを深く思っていたのだ。自分自身の事より大切に思っていた。あの二人はお互いを思い合う優しい兄妹だったのだ。


だから許せなかった。

ギルベルトさんを殺そうとしたグレーティアの事も。

ユーフェミオという変態野郎の所業も。

息子の悪事を利用して、お金をゆすり取っていた子爵夫人の卑劣さも。

そんなクズどものせいでジークルーネが、どこかに身を隠さなきゃならないって事も。


絶対許せなかった。


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