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ハーゲンベック領へ(2)

なんと、なんと!この作品が『注目度ランキング』で11位になりました

ありがとうございます

読んでくださる皆様、そしてブクマをつけてくださった方々のおかげです

とても嬉しいです

心より感謝します(^◇^)

私達は王都の北門を通過し、そこから北へと伸びる大陸公路を北上した。


普段、乗馬の訓練で乗っているお馬さんと違うお馬さんに乗っているので、ちゃんと乗りこなせるか少し不安があったが、気性の優しいお馬さんだったらしく無事乗りこなせた。

馬の背に乗って颯爽と走っているなんて、文子だった頃の人生や一周目のレベッカの人生では考えられない。しかも、目的地は悪徳貴族の領地で目的は殴り込みだ。平和主義者だった文子の人生を生きていた頃には想像もできなかった展開だわあ。


大陸公路は広く石畳がはってあるので、とても走りやすかった。10分ほど走ると右手側にリンゴ園が見えて来た。

私の友人のアイヒベッカー侯爵夫人が所有しているリンゴ園だ。


誤字ではない。


侯爵令嬢ではなく、侯爵夫人だ。私の友人のカリンは天然痘終息後、アイヒベッカー侯爵と結婚したのだ。


同い年の友人の結婚に「んえーっ!」と驚いた私だが、カリンも私も17歳。ヒンガリーラントではもう十分結婚適齢期なのだ。


アイヒベッカー侯爵はもう20代だし、教育省で働く真面目な役人で人間性にも問題は無いので結婚自体は異存はない。というか、むしろ侯爵はさっさと結婚してラッキーだったと思う。もし結婚してなかったら、シュテルンベルク伯爵ではなく彼の方が出戻りのクラウディア内親王殿下に結婚を無理矢理迫られていたかもしれない。


私達は更に道を北上した。


途中の街で一回休憩をとった。私達自身の為でもあるがお馬さんの為だ。井戸の水とニンジンを売ってもらいお馬さんに食べてもらった。

この街の領主はアイヒベッカー侯爵だ。アイヒベッカー家は、天然痘流行事、城壁外の待機地区で無料で食料を配った功績を認められ、王都の周辺の街を幾つか王家から下賜されたのだ。


ジークルーネ自身も水を飲みながら

「ここから先は、どんどんと田舎になる。」

と言った。


「王都と、田舎の街は全くの別世界だと思って欲しい。」

ジークルーネは真剣な顔をして皆に言った。


「そもそも、ヒンガリーラントに王都以上に発展している文化的な街はない。貧民街こそあるが、王都は豊かで美しく治安も比較的安定している。だけど田舎の街は領主の個性が色濃く反映される。何百年も時が止まったように前時代的な因習と迷信に支配された街もたくさんある。そしてハーゲンベック領はまさにそういうところだ。」


「理解できます。」

とライルさんが言った。


「ブラウンツヴァイクラントとロートブルクラントの田舎町をこの目で見てきました。田舎の恐ろしさはよく分かっています。」


・・私にはわからなかった。


王都のすぐ側にあるツァーベル子爵領やここアイヒベッカー領は、王都のベッドタウンのようなもので、領民は仕事や病院に通う為頻繁に王都に出かけ、王都の人たちも新鮮な野菜や卵や牛乳を買いに訪れる。王都の一部のような街だった。


馬で走って一時間の場所にあるハーゲンベック子爵領が、そこまで王都と違うものなのだろうか?と思う。


「ハーゲンベック領は非常に貧しい土地だ。おそらく領都に一歩入れば大量の物乞いがもぐれついて来る事だろう。だけど絶対に、暴力などを振るわないように。いずれの街であっても市民権を持つ者は持っていない者より強い。市民権を持つ者と余所者が揉めて余所者が公正な裁判を受けられる見込みは無い。治安維持を担当する存在に逮捕されたら詰んだと思ってもらっていい。万が一トラブルに巻き込まれたらその時に選ぶ選択は『逃げる』一択だから。」

「はあ。」


「もしも、道に行き倒れている人間がいても必ず無視するように。うっかり関わって、もしこの人達に馬で轢かれたと濡れ衣を着せられて騒がれたら、無実を証明する手段がない。本当に死にかけていた場合胸が痛む、というのはわかるが、そもそも私達が誰を助けにハーゲンベック領の領都に突入するのかを考えて欲しい。私達が誰よりもまず助け出さないといけないのは『ウルスラ姫の母ちゃん』だ。私達には全ての人を救うなんて事は絶対にできない。そもそもハーゲンベック領都民を助けるべき義務を負うのは領主だ。私達じゃない。」

「・・・。」


「もしも当たり屋が向こうから走って来て体当たりして倒れたら無視して走り抜けるように。そいつらは末端でも背後に脅迫のプロがいたりする。そしたら一生涯付きまとわれて骨の髄まで絞り取られる。たとえ当たり屋が死んだっぽくてもとにかく逃げろ。」


ハーゲンベック領の領都ってどういう魔窟なの⁉︎


まるで21世紀の地球で外務省に渡航禁止勧告を出されている、ゲリラの支配地域みたい。クレイ◯ージャーニーで時々紹介していた場所だ。

そういう場所では、自分が清く正しく生きて来た日本人である事は何の意味も持たない。金持ちだったり権力を持っている事がバレると逆に誘拐されるから危険。みたいな所だ。


天然痘が流行していた頃、地方の貴族領にいろいろ行ったけれど、ここまでの危険を感じた事はなかった。

それは、その地の領主一族が私の事を重要人物として尊重してくれていたからなんだ。


領主が敵対的な人だったら、私やジークルーネが侯爵令嬢であっても身分が身の守りになる事はないのだ。


「そんな領地なのに『復興貴族税』が払えるの?」

と私は疑問を覚えた。

「うちの寄子だからね。うちが払う。」

「何故⁉︎」

思わず口をついて出てしまった。

そんな貴族にこそヒンガリーラントから消滅して欲しいのに!


ジークルーネは一瞬遠い目をしただけで返事はしなかった。


私はディッセンドルフ領を通過したレーリヒ支店の人達の事を思い出していた。ロートブルクラントを脱出するのが大変だった、という話は真剣に聞いたが正直ディッセンドルフ領を通過するのが大変だったという話は聞き流していた。

だけど、信用のならない貴族家の領地に足を踏み入れる事はこんなにも危険で大変な事なのだ。


レーリヒ財閥ははロートブルクラント支店をたたんだと聞いている。ロートブルクラントだけでなく、ディッセンドルフ領が危険だから支店を維持できなかったのだという事に今更気付かされた。


私達はまた馬に乗って走り出した。胸の中は不安でいっぱいだった。だけどそんな魔窟だからこそ。ミラルカ様を助け出さねばならないのだ。私は自分の心を奮い立たせた。


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