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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第九章 ブラウンツヴァイクラントからの亡命者

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騒動の始まり

フェルミナ殿下とリオンティーネ令嬢が風邪をひいて高熱を出してから一週間が経過した。

お二人共無事元気になられたようでほっとした。

恐れていた事件が起こったのはその頃だった。


別邸の近くに野生動物が出て人に怪我をさせたのだ。


出たのは鹿で、怪我をしたのはエマさんの夫のアデムさんだった。



鹿が出たのは夜更けだった。第一発見者はカトライン殿下だった。バルコニーに出て星空をボーっと眺めていた時、すぐ側の湖を何かが泳いで別邸の方に向かっているのに気がついたらしい。

その時カトライン殿下の部屋に、リオンティーネ令嬢が控えていた。カトライン殿下はすぐにリオンティーネ令嬢に告げ、リオンティーネが護衛の騎士達が報告した。

その間に、鹿は別邸の南側の庭に上陸した。そして庭に置いてあったテーブルと椅子を破壊した。南側の庭には掃き出し窓が幾つもある。それをぶち破って建物の中に入って来たら大惨事だ。五人の騎士達は剣を構えて外に飛び出した。


護衛の仕事をしているのだから、お姫様達に害なす可能性のある『敵』と戦いたかった、というのもあったのだと思う。


だが、鹿は手強かった。


鹿は体重100キロ近くありそうな、巨大な角を持つ牡鹿だったらしい。

その角を振り回し、鹿は大暴れした。

そしてアデムが剣を振り下ろすと鹿は角で剣を受け止め、アデムを振り回し地面に叩きつけた。その一撃でアデムは肩を脱臼してしまったのだ。


四人の騎士達に動揺が走った。その時


「下がって!」

と叫んだ人間がいた。


ジークルーネがクロスボウを構えて鹿に向かって発射した。矢は鹿の首筋を撃ち抜いた。そこで騎士の一人が剣を振りかざしトドメを刺したのだという。


ジークルーネはアデムに夜間救急病院へ行く事を勧め、エマがアデムに同伴して病院へ連れて行ったそうだ。


「何て事!皆の様子はどう?殿下方は怯えておられない?」

私は次の日の朝報告に来た、ジークルーネの侍女のマーゴットに聞いた。


「皆怯えてます。これを理由に、別邸を追い出されるのではないかと。」


行くあての無い人達だ。住む場所を追い出されるのが鹿より怖いらしい。

いや、新しい住処を準備もせずに追い出すつもりはないけれど。このまま、あの別邸に住み続けてもらって大丈夫なのかなぁ、と心配なのだ。


「とりあえず、鹿の解体をするので道具を貸して欲しいとジークルーネ様がおっしゃっているのですが。」

「あ、ちゃんと食べるんだ。わかった。すぐ用意する。」


私は道具を用意し、様子を見に行く事にした。

だけど既に別邸にあった刃物で解体はそれなりに進んでいて、私が行った時には既に鹿さんは枝肉になっていた。


びっくりしたのは、解体現場にカトライン殿下とティナーリア妃殿下がおられた事だ。カトライン殿下の方は危なっかしい手つきでナイフを触っているが、ティナーリア妃殿下の方は明らかに慣れている。


「カトライン殿下、大丈夫なの?赤い物を怖がっていたのに?」

鹿肉は鉄分が多く、食肉の中でもトップクラスに赤いのだ。トラウマが悪化しないだろうか?と心配になって私はマーゴットにささやいた。


「カトライン殿下はリオンティーネ様が病気になってから変わられました。それまでは部屋に引きこもってぼんやりしておられましたけれど、外に出てジークルーネ様と一緒に筋トレしたりとかされ始めたんですよ。すっかりジークルーネ様と仲良くなられて、実家の力に頼らず生きておられるジークルーネ様にとても憧れておられるみたいです。昨夜の出来事も、ジークルーネ様カッコいい!ジークルーネ様素敵‼︎と大騒ぎでした。」

「そうなんだ。」

「クロスボウにも大変興味をお持ちになっていました。ジークルーネ様がされる事は何でも真似したいみたいです。ですので、解体にも参加しておられるのでしょう。」


文子だった頃に読んだ南極観測隊のエッセイに、閉鎖空間で長く一緒に暮らしていると人と人は、一生涯の友になるか三代先まで祟りあう怨敵になるかのどちらかである。と書いてあった。カトライン殿下とジークルーネは友達の方になったらしい。リオンティーネ令嬢に依存していたのがジークルーネに移っただけに見えない事もないが。


「そもそもカトライン様のチームは、鹿程度で悲鳴をあげるようなやわなグループじゃありませんよ。逃亡している間にウサギや草ネズミを捕まえて捌いて食べていたそうですし、もっと残酷な流血シーンをその目で見て来たようなので。」

「なるほど。フェルミナ殿下は大丈夫なの?」

「騒ぎが起こった時はもうフェルミナ殿下は眠っておられました。ティナーリア妃殿下は全然大丈夫です。田舎の牧場でお育ちになられたので、狩や解体は見慣れておられるようです。」


まあ、今現在もさくさく進んでいる解体作業はティナーリア妃殿下主導で進んでいる。僅かな風にも耐えられない、たおやかな女性だと思っていたが結構逞しい人のようだ。昨夜、あらゆる意味で最大のパニックを起こし一番取り乱していたのはエマさんだという。


「大きな鹿ですねえ。」

と言って私は友人達と一緒に覗き込んだ。


別邸に行くのにいつも、友人全員とその侍女達を全員連れて行くと大所帯になるので、いつもローテーションで二人ずつ連れて行っている。今日の同行者はコルネとリーシアだ。ジビエ肉の解体作業に抵抗が無く即戦力にもなる二人を選んだ。


時間が経ってしまっているので、内臓は森に埋めたらしいがそれでも相当量の肉がある。

今夜は鹿肉のフルコースであろう。


「ここにいる人間達だけではとても食べきれないし・・・。」

とジークルーネが言い出した。


「ブラウンツヴァイクラント人の難民の収容施設に余った分を持って行ったらどうだろう。新鮮な肉はなかなか食べられないだろうから、喜んでもらえるんじゃないかな。」

「素敵な考えだわ!ぜひそうしたい。」

カトラインが嬉しそうに言った。この人の笑顔初めて見たなー。


人に物をプレゼントするのって嬉しいものね。ごくごくたまに、人に物をせびったり奪ったりするのが快感って人もいるけれど、大抵の人は自分が物をもらったらお返しをしたいと思うし、困っている人にはプレゼントをしてあげたいと思うものだ。

カトライン様もそういう発想の人のようで、自分が生活を援助している人がそういう人であってくれて良かったなって思う。


しかし、カトライン様はその後少し困った事を言い出した。


「私も難民の収容施設に行ってみたい。」

難民の収容施設がどういう所か直接自分の目で見てみたいのだろうし、お肉をもらって喜ぶ姿を見てみたいのだろう。だけど護衛騎士達は

「難民収容施設は雑多な人々がいて危険です。」

「王族に恨みや憤りを抱いている者もいるかもしれません。殿下の御身に何かがあったらと思うと・・。」

と否定的だった。


しかし。


「いいじゃないか。王族の一員として平民達の暮らしを自分の目で見ておく事は重要だと思うよ。今なら前髪も短くて、ブラウンツヴァイクラントの王女様だってバレる心配もないだろうし。護衛のあんたらが『殿下!』と呼びかけない限りさ。」

とジークルーネが言い出した。

そして彼らの力関係は、同じ居候同士でもヒンガリーラント人のジークルーネの方が強いのだ。護衛騎士達やリオンティーネ令嬢はジークルーネには逆らわなかった。


「心配しなくても大丈夫さ。護衛の皆さんは屈強だし、私とベッキーもついて行くし。私はともかくベッキーは強いよ。海賊のボスを秒で叩きのめしたのだからね。」


ん?いつの間にか私も行く事になってしまっている。まあ、いいけれど。私が行くって事は私の護衛騎士達もついて来るって事だし。ちなみに今日同伴してくれているのはアーベラとヨアヒムだ。


というわけで、私達はお肉を持って難民収容施設に行く事になった。


メンバーはカトライン殿下、護衛騎士が三人、リオンティーネ令嬢、オリエさん、ジークルーネ、私、コルネ、ドリー、リーシア、エイラ、ヨアヒム、アーベラだ。それとライルさんとリナさんが行く。


ティナーリア様は今回は見送りとなった。次の機会があったらフェルミナ殿下と行くつもりだそうだ。エマさんや残りの護衛騎士が残るのはフェルミナ殿下の護衛の為だ。


そして私達は施設に向けて出発した。


それが始まりだった。

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行く先々で事件起こるの草
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