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初恋(2)

いったい、これはどういう事なんだろう?

私は、寄宿舎に戻って来てもずっと考えていた。


今日会った、ジークレヒトが本物のジークレヒトだったら、私がルートヴィッヒ王子の立太式で見た人は誰だったんだ?

よくよく考えてみたら、あの人は自分の名前を名乗ったわけじゃないけど、でもあの時点で『小侯爵』の称号を持っていたのは、ジークレヒト・フォン・ヒルデブラントだけだ。


となると、どこかの時点で『ジークレヒト』という人が入れ替わってしまった、という事?

本物のジークレヒトが死んでしまって、ヒルデブラント侯爵が愛人に生ませた隠し子が入れ替わったとか?

でも、なぜ入れ替えてしまったの?どうして本物が死んだ事を隠さないといけなかったの?

そして、ジークルーネはそれにどう関わっているの?


そもそも。

『侯爵令嬢』が、平民と心中したという話が、広く広まったというのがおかしな話なのだ。

そのようなスキャンダルは、名家ならば何がなんでも隠したはずだ。

ジークルーネが、本当に心中したとしても、それを公表する理由はない。

『病気で死んだ』『一人で自死した』そう言えば良いだけだ。


なのに、どうして広まったのか?広まった噂を否定しなかったのか?


それは、もしかして。

そう噂された方がまだマシな『何か』が起こったからではないだろうか?


『紅蓮の魔女』の事件以降、王国政府は、貴族家の『監禁』とか『行方不明』という問題に過敏になった。


もしもヒルデブラント家の嫡長子が死んだら、その死を隠し通す事はできないだろう。

ジークレヒトが、他言できないような理由で死に、妹のジークルーネを身代わりに立てて、ジークルーネが死んだ事にしたとか?


だとしたら、ジークレヒトの死因って何?


まさか、平民男性と心中したんじゃないよね!!!


いやいやいやいや。

それは確かに、バレれば激ヤバな事実だろうが、それならそれでジークレヒトは病死した、とか公表すればいいだけの話だ。


むしろ、相続とか継承権が関わる話の可能性の方が高いだろう。

ジークレヒトの次に、侯爵家の継承権を持っている人って誰なのだろう?女性には爵位や領地を継ぐ事はできないので、ジークルーネ以外の人だ。


どちらにしても、心中して死んでしまったジークルーネを「生き返りました。」と後々、公表する事はできない。

あの日のジークレヒトが、実はジークルーネだったのだとすれば、ジークルーネはその立場を死ぬまで貫きとおす事が求められたはずだ。

ならばやはりその場合、本物のジークレヒトは死んでいたのだろう。


「レベッカ様。レベッカ様ー。」

ふと気がつくと、めっちゃユリアに呼びかけられていた。


「どうなさったのですか?帰って来てから、ずっと難しい顔をされて。」


「あ・・か、寒天の事考えてたの。果汁とか、牛乳に蜂蜜と果物を入れた物を固めてみようと思っているんだけど、今、生の果物って手に入らないよね。どうしようかなって。」

「そうですね。サクランボもアプリコットも今、花が咲き出した頃ですものね。」


ヒンガリーラントでは、ほぼ全ての果物が夏から秋に実る。

もう間もなく、収穫祭が始まるが、それは秋に蒔いた小麦の収穫を祝うお祭りだ。


「そろそろ夕食の時間ですわ。食堂に参りましょう。」

と、ユリアに言われた。確かに、いろいろと考え込んでいる間に夕方になっていた。


食堂に行くと、もうかなりの数の生徒がいた。

仲良しグループとかで集まっていて、そのうちの一つのグループに


「第二王子殿下からの手紙とか届きました?」

と、聞かれた。


そんな物、今、心の底からどうでもえーわっ!


婚約者に無視されている事を心配してくれているわけではなく、『かわいそう』認定をしてマウントをとってきているだけだ。

普段なら、気にならないのだが、今、ジークレヒトの事で頭がいっぱいの私はかなりイラッとした。


そこに

「手紙が来てたとしても、レベッカ姫は話さないよ。君らと違って、秘密主義者だから。」

と声がした。

ジークルーネだった。

一見、私の事をディスっているようだが「他人のプライバシーにクチバシを挟むな。」と言ってくれているのだ。


「まあ、そんな。王子殿下ならどのようなロマンチックな詩を手紙に添えられるのか、気になっただけですのに。」

「無理、無理。君と違って、レベッカ姫は道理をわきまえた人だから。」


ほんと、お口が厳しい人ですね。

だけど、その厳しさが嬉しかった。

空気が、ピキィっとなったのがわかったからか、ユリアがジークルーネに

「今日、ジークルーネ様のお兄様にお目にかかったのですよ。」

と言って話題を変えた。


「ふうん、そう。」

ジークルーネは相変わらずの塩対応だ。


冷たくて、ちょっと意地悪で、でも私の味方でいてくれる人。

『あの日』。世界の全てが私に冷たいと思っていた、未来のあの日。

世界でたった一人だけ、私の味方でいてくれた人がいた。私の為に怒ってくれた人がいた。


思えばジークルーネは、子供の頃から人の為に怒ってあげられる人だった。

コンラートのお母様や、自分のお母様がコンラートのお祖母様にいじめられていたら、「あのおばあさんに、トカゲをけしかけてこい!」と暗に言うような子供だった。


対して、ジークレヒトはおとなしい子供だった。いつも絵を描いていて、よく知らない大人達には怯えていた。

負けん気が強かったのも、行動力に富んでいたのもジークルーネの方だった。


「元気そうだった?」

と、ジークルーネは聞いた。

「はい。お元気そう・・でしたよね。」

と言ってユリアは私の方を見る、いや、『元気』そうではなかったよ。


「あの、ジークルーネ様。」

いろいろな考えが頭の中にパンッパンに詰まっていて、耳からこぼれそうになっていた私は、思わず言ってしまった。

「私の『初恋』の相手は、ジークレヒト様ではなく、ジークルーネ様だったのでしょうか?」


・・・・。

やあぁっばっっっ!


とんでもない事を、つい口走ってしまったああああぁ!!!


さっき以上に『場』がしーんってなってる!!!


そんな中、ジークルーネ様は私の肩をぽんぽんと叩き。

ガバっ!と私を抱きしめた。


「お嫁においで。」


違う!そうじゃないっ!!!


私の後ろの方でなんか「きゃあぁっ。」と黄色い歓声があがっていた。


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