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ブラウンツヴァイクラントの後宮

以下の情報は情報省から聞いた情報である。


ブラウンツヴァイクラントは一夫多妻制の国である。当然、王様にも複数の妻がいる。だが、現在の王様は特に妻が多い人だった。とにかく無類の女好きだったのだ。特に若い生娘が大好きだった。まるでメソポタミアのギルガメシュ王のように、そこに処女がいたら手を出さずにはいられないという性格の人であるらしい。王様には子供が30数人いるらしいが、性格と行動から考えて多いのだか少ないのだか判断に悩むところである。


ティナーリア様は地方で生まれた下級貴族の娘だった。だが、幼い頃に流行り病で両親を亡くしてしまう。ティナーリア様は母親の兄夫婦に引き取られた。そしてよくある話だが、そこで下働きのメイドのような生活を送らされていたらしい。どの程度の虐待が行われていたのかは不明だが、ティナーリア様は不遇な少女時代を過ごしたようだ。彼女は学校にも行かせてもらえず15歳の段階で母語の読み書きもできなかった。


そんな彼女が15歳のある日。王様が狩りをする為ある貴族の領地を訪ねた。ところが途中で雷雨に見舞われ、馬が動かなくなった。それで、近くの貴族の家で王様達一行は休憩する事になった。その『近くの貴族の家』がティナーリア様の伯父の家だった。


王様は当然のように御馳走と高級な酒、そして夜伽をする少女を求めた。伯父には娘がいたが、娘は醜く太った王様の相手をするのを嫌がった。なので伯父はティナーリア様を差し出したのだ。


伽をした時点で女性は王様の『愛人』となる。ティナーリア様は王宮へ連れて行かれた。王宮には何百人もの同じ立場の女性達がいて後宮の奥深くで飼い殺されていた。だが、ティナーリア様は一夜の行為で懐妊していたのだ。彼女は王女を産み王女はフェルミナと名付けられた。それと同時に愛人から側妃に格上げされ、独立した離宮の一つである琥珀宮を賜りそこで暮らすようになった。


だが、国王がティナーリア様を訪ねて来る事は二度と無かった。


もしもティナーリア様が野心家で、国王の寵愛を独占して権力を掴んでやる!と野望に燃えていたのなら、惨めな人生になっただろう。


だけど、彼女は意地悪な親戚から離れ、清潔な離宮で三食昼寝付きの生活ができて幸せだった。可愛い娘も生まれ、血のつながった家族もできた。エマさんを始めとする側近達は皆彼女に親切だった。王女である娘には最高の教育が与えられる。その側で一緒に読み書きや歴史、マナーや音楽を勉強した。


琥珀宮の近くには他の離宮もあって、そこにはティナーリア様同様、かえりみられる事のない妃とその娘達が住んでいた。

権力とも寵愛争いとも無縁な彼女達は揉める事もなく、まったりと仲良く暮らしていた。

特に親しくしていたのが、水晶宮に住むシルヴィアーナ王女と、瑪瑙宮に住むラウミドア王女だった。シルヴィアーナ王女はティナーリア様より一歳年上で、ラウミドア王女は一歳年下だった。二人は親子ほど年の離れたフェルミナ王女をとても可愛がったのだそうだ。


『二軍の離宮』に住む妃と王女達は、政治とも社交界とも無縁に生きていた。


生活に必要な物は潤沢に支給されるので、伝染病が流行し餓死者が出る社会になっても飢える事なく穏やかに暮らしていた。

だが、身の程知らずなほどの贅沢をしていたわけでも平民を虐げたわけではない。

そもそも、自分達が希望して側妃になったわけではない。無理矢理側妃にされ閉じ込められて生きていたのだ。


それなのに王の妃と娘だという理由で処刑されるというのはあまりにも理不尽であろう。しかもフェルミナ様に至ってはまだ五歳なのだ。ヒンガリーラントでは連座での死刑の対象外の年齢である。


ヒンガリーラントの王室は旧体制を支持するか、反乱軍を支持するか、まだ声明を発表していない。

いったいどちらの集団が勝利するか、周辺諸国がどう反応するかを静観しているのだと思われる。


なのでヒンガリーラントの王室は、亡命して来る貴族や王族に対して今のところノータッチの態度を貫いている。だけど、貴族達が自分の親戚や友人を援助する事は禁じてはいない。

なので、我がエーレンフロイト家では、ノエライティーナ伯母様の家族とエマさんがお仕えしている琥珀宮妃様と琥珀姫様の事は援助しようと決定したのだ。


ただし、琥珀姫様達は特別だ。全ての貴族や王族を援助する気はない。

そんな事は物理的、経済的に不可能だし、権力の中枢にいて不正を行い平民を虐待していた人とは関わりたくない。

そういう人も何人か、既にヒンガリーラントに亡命して来て王都内に滞在しているという噂も聞いている。


そのうちの一人がララ公女だ。この女性はブラウンツヴァイクラントの国王の姪だが愛人でもあるらしい。

伯父と姪は結婚できないので正式な妃ではなかったが、三本の指に入る寵愛されていた愛人だったようで、それだけにブラウンツヴァイクラントの『闇』とどっぷり関わっている人だ。

ノエライティーナ伯母様がシュテルンベルク家に戻って来た頃から頻繁に、シュテルンベルク家や我が家に手紙を寄越して来るようになったがこの人からの連絡は無視する事にしている。


この人一周目では、ルートヴィッヒ王子の愛人でもあると噂されていたんだよね。

今は、どういう関係なのだろう?

そう考えると何だか少しイラッとした。


何でだろう?


エリーゼ様やユリアも一周目ではルートヴィッヒ王子の愛人だったと噂があって、二人の事はルートヴィッヒ王子との仲を喜んで祝福するし私は身を引く、と思っていたのに何故かララ公女が相手と思うとモヤっとするしイラッとする。


やっぱ性格かなあ。エリーゼ様とユリアは人格者だけどララ公女は胡散臭い噂がいっぱいある人だからかなあ。でも、エレナローゼ令嬢も大概性格が悪かったけど、別にイラッとはしなかったんだけどな。


正直、ララ公女が相手だったら身を引きたくない。でも、殺人事件が起こるまでもう一年を切っている。婚約破棄するなら急がねばならないので、イラッとかモヤっとか気にせず婚約破棄しないとならないんだけど。


考えていると何だか頭がぐるぐるして来て、そんな中でルートヴィッヒ王子の爽やかな笑顔を見るとますますイラッとした。


何か私、おかしいよな。いったい、どうしてしまったのだろう?


考えていると、執事が談話室にやって来てお母様に報告した。


「奥様!ノエライティーナ様の御子息のライル様と娘婿のアデム様が見つかったそうです。」


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