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迫る嵐(2)

「滅門云々で気づくな。もっと早く気づけ。」

ジークがクマさんクッキーを頭からかじりながら言った。


「いや、別にコンラートお兄様はどーせーあい者では。それに伯爵様はコンラートお兄様を後継者にする為に今まで再婚話をことごとく断って来たんですよ。」


コンラートの実母のエレオノーラは下級貴族の出だった。既にエレオノーラの両親も亡く、兄弟は年の離れた弟が一人いるだけであり、コンラートには母方の実家からの後ろ盾がない。そこに上級貴族の継母が来て男子を産めば、絶対に継母の一族がその子供をシュテルンベルク家の後継者にしようとするはずだ。そうなると、シュテルンベルク家で内紛が起こるだろう。そういう事にならないようにシュテルンベルク伯爵は降るようにある縁談を全部断っていたのだ。


「クラウディア叔母様はそんな事情知らないからね。というより理解できないのよ。叔母様の目にはネギとタレを持ったカモがそこにでーん!といるのに、誰も手を伸ばさないように見えるだけ。カモを手に入れて、財産と権力を手に入れて、男の子を産んで自分が次期伯爵の母親になるという未来図しか見えていないのよ。」

エリーゼがカメパンの脚を一つ一つ千切りながら言った。


「二人が結婚すれば、ベッキーにとってクラウディア叔母様は義理の従姉妹、ルネにとっては姑よ。そうなっても、お母様を裏切らないでね。」

「結婚すれば・・って、伯爵はしないと思いますよ。」

「王族から婚姻の申し込みがあったら、貴族に拒否権はないよ。」

ジークルーネが、クマのクッキーの首の部分を折りながら言った。


そうだった!

だから私はルートヴィッヒ王子と婚約するハメになったのだった!


そして、婚約が決まる時って、打診も相談もなく秒で決まるのだ。貴族側に拒否権は無い。


えっ⁉︎

という事は、もう結婚は確定事項?


そうなったらコンラートはどうなるの?


クラウディア殿下に男の子が生まれなければ問題無いけれど、もしも男の子が生まれたら?


コンラートが廃嫡されるって事?


コンラートは納得する?それ以上に、リエ様やメグ様。執事のオイゲンさんや侍女長のヨハンナさん。シュテルンベルク騎士団の気の良い騎士さん達は納得するの?


シュテルンベルク伯爵は医療大臣だし、13議会の議会員だから毎日とっても忙しい。なので、領地の運営や仕事はコンラートがほとんどやっていたのだ。だから、コンラートが重傷を負って入院したらシュテルンベルク家は大混乱に陥ったのだ。

そんなにも普段から領地の為に頑張っているコンラートを、継母が弟を産んだからって後継ぎの座から引きずり下ろすのはひどくない?私だって納得できないよ!

幼い頃からコンラートを見てきて、コンラートが真摯に努力する姿を見てきたオイゲンさんやヨハンナさんはもっと納得できないのではないの‼︎


勿論、後を継ぐイコール幸せになる、って事ではない。冒険家に転職したディックハウト卿のように、自らその地位を捨てる人もいる。

でも、コンラートが家を継ぐ事を嫌がっているようにはとても見えないのだけど。


もしもコンラートが、ろくでなしのバカ息子だとか、噂通りの趣味の持ち主で子供を持つ気が一切無い、というのなら廃嫡されるのもしょうがないかもしれない。でも、コンラートはろくでなしのバカ息子なんかじゃない。優しいし責任感があるし、伝染病がエーレンフロイト領で流行った時には、苦しむ患者やトゥアキスラントからの難民達の為に駆け回ってエーレンフロイト領を助けてくれた。今、入院しているのだって、命をかけてジークルーネとミュリエラ嬢の事を守ったからなのだ。


そして、コンラートはそーゆー性的嗜好の人じゃない。ジークルーネという、若くてぴちぴちで健康な女の子の恋人がいるのだ。

伯爵が二人の結婚を許してくれるかどうかはわからないが・・・。


反対だ。私は反対だ!


私はコンラートを跡取りから除外するのは絶対に反対だ。


いや、そもそも。シュテルンベルク伯爵の結婚に反対だ!


私は共感して欲しくて、向かいのソファーに座っているジークルーネを見て息が止まった。

ジークルーネは無表情でお茶を飲んでいるが、全身から殺気が立ち上っている。そしてジークルーネの皿の上にのっていたクマのクッキーは一つ残らず首を折られていた。


エリーゼがにっこりと微笑んで、さっき言った事をもう一度言った。


「お母様を裏切らないでね。」


ヒンガリーラントの社交界に、それもシュテルンベルク家を中心に嵐が近づいて来ていた。

ヘクトパスカル鬼低の爆弾低気圧が。


クマさん哀れ・・・

この後ちゃんと、おいしくいただきました

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