表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
529/557

ミリヤムの里帰り(4)(ミリヤム視点)

「な!どういう事だっ⁉︎」

兄が顔を真っ赤にして怒鳴りました。


「あなたの妹さんは、お嬢様の為に初めてお菓子を作る時お嬢様にこう聞いたんですよ。『お嬢様が一番好きな果物は何ですか?』お嬢様は桃と答えられました。それでミリヤムさんは、桃を使ったお菓子をお嬢様の為に作ってくださったんです。」

「もも・・・?」

兄の知らない果物だったのでしょう?でも、それがどんな果物なのか聞き返すのはプライドが許さないようです。


「うちのお嬢様は好き嫌いが多いんです。バター至上主義者で獣脂は嫌いなので、ラードで作るスフォリアテッラはお気に召されませんよ。

それとメレンゲ菓子も好まれません。救貧院に寄付をする為のチャリティーバザーで売りに出されていたアマレッティも、一口かじっただけでそれ以上食べようとされませんでした。お嬢様の為にお菓子を作る前に、お嬢様の好き嫌いや、食べられない食材の有無を聞いてこないあなたはお嬢様に仕えるのには失格です。たぶんあなたはいろいろなお菓子を作った経験があって、自分の腕に自信があるのでしょう。だけど、貴族家に仕える料理人に必要なのは『一に従順、二に従順、三四がなくて、五に要領』です。あなたのような方は貴族家で働くよりも、自分の店を開業してあなたの作った菓子が食べたい、という方に売る方が似合っていますよ。」


「・・・てめえ!」

兄の顔色がますます赤くなりました。

そして突然兄が拳を振り上げました。そしてアーベラさんに殴りかかりました。


なんて馬鹿な事を!


アーベラさんは兄の拳をひらりとかわし、兄の手首をつかみました。そのまま腕を捻りあげ肩を押さえつけます。


「痛えーー!は、離せ!」

「アーベラさんに謝りなさいよ。このバカ兄貴!」

と私は叫びました。


「う、うるさい・・・。」

「このバカもんがーーっ!」

と叫んで今まで黙っていたお父さんが、関節技をキメられている兄の頭を殴りつけました。


「おまえのような、世間知らずの大バカタレに貴族様の家での奉公が務まるか!物の道理を一から勉強し直せ。」


ふっ、とアーベラさんは冷笑して兄の腕を離しました。

「私は平民ですからね。失礼な真似をされても肩の関節を押さえつけるだけですが、貴族令嬢であるお嬢様に無礼を働いたら首の関節を外しますよ。」


アーベラさんが手を離すと、兄はバタッと倒れました。悔しさと恥ずかしさと痛みで顔が焼けた鉄のように真っ赤になっていて、結局うつむいたまま

「酒場に行って来る!」

と言って店を飛び出して行きました。


「アーベラさん!すみません。息子が愚かな真似を!」

母がすごい勢いで頭を下げました。

「いいえ、こちらこそ店の中で騒いでしまい申し訳ありません。」


「アーベラさんってお強いのねえ。」

エリーシャ先生がうっとりとした表情で言ったので


「アーベラさんは、普段はお嬢様の護衛をしている女性騎士ですから。」

と言っておきました。

よりにもよってエリーシャ先生の前でこんな騒ぎを起こすなんて。


「街の皆さんには内緒にしてください。」

とアーベラさんがエリーシャ先生に言われます。


「んー、どうしよっかなー。」

とエリーシャ先生はにっこり笑って言われました。



「アーベラさん、本当にごめんなさい。恥ずかしいです。愚かな兄で。」

「愚かな兄を持つ事は悲しい事ですが、恥ずかしい事ではありませんよ。顔をあげてください。あなたは立派な人なのだから。」


嬉しかったです。

アーベラさんがそう言ってくれた事も。私は未熟者だけど、少しはお嬢様に認めてもらえているのだと言ってもらえた事も。そしてバカ兄貴がぎゃふん!という目に遭った事も。


「それにしても、アーベラさん。お菓子に詳しいんですね。」

「お嬢様の側にいると、いつのまにか詳しくなってしまいました。私は毒味係ですしね。」

とアーベラさんは言った後


「酒場に行かれちゃいましたねえ。」

とつぶやきました。


「普段、お屋敷暮らしでそんなにお酒が飲めないから今日は酒場でたっぷり飲むぞー、と思っていたのに行きにくくなったなあ。」


「酒場は三件ありますよ。」

とエリーシャ先生が言いました。


「貴族御用達の上品な酒場に、女人禁制のすごく下品な酒場に、若い女性でも安心して飲める中庸な酒場。ミリーのお兄さんは女人禁制の酒場以外は出禁になっているので、中庸な酒場に行けば顔を合わせなくて済みますよ。私、王都の話やミリーの話が聞いてみたいんです。もし良かったら今晩一緒に飲みません?」

「ぜひ、ご一緒したいです。」

「私も、私も行くー!」

と私は手を挙げました。


良し!これで。先生からも何らかの情報が聞けそうです。

酔い潰れてみんな忘れた。という事にだけはならないよう気をつけないといけませんけどね。


ミリヤムのお兄さん撃沈です

でももし王都に連れて行っていたら、一日でレベッカの自慢のあんよの犠牲者になった事でしょう


ミリヤムの里帰り編は次話で終了です

次はレベッカ視点の話になります

ブクマや☆☆☆☆☆をポチッとどうかよろしくお願いします^_^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ