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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第九章 ブラウンツヴァイクラントからの亡命者

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ミリヤムの里帰り(1)(ミリヤム視点)

エーレンフロイト家のお菓子職人ミリヤム視点の話になります


河を下って行く船の上の風がとても心地よいです。


私の名前はミリヤム・フォルカーと言います。私は今『不帰川』とも呼ばれるフェルゼ河を下る船の上にいます。


十日ほど前、不安な気持ちでいっぱいでこの河を上って来たのが嘘のような爽やかな気持ちです。


「さっきの河の駅、とても賑やかでしたね。」

と私が同行者に言うと

「四年前、お嬢様の食事の毒味係として食べるハメになったネズミのモモ肉の味しか思い出せません。」

とアーベラさんが言いました。


「あの辺りの地域は三年前に大規模土石流があって、大変な被害に遭ったそうですよ。一時はもう人が住めないかもとも言われていたのに、王都の貴族様が援助をしてあそこまで復興したのだと聞きました。だから王都から来た人や王都へ向かう人に領民の方はとりわけ親切にしてくれるのだ、と聞きました。」

「そうですか。奥様がいないところでお嬢様に言ってあげてください。その王都の貴族というのは、レベッカお嬢様の事です。でも、奥様の前で褒めるとあなたが『レベッカを調子に乗らせるな!』と奥様に叱られますから。」


私はびっくりしました。でも、つい先日難民収容施設に溢れるほどの寄付をしておられた姿を見たばかりなので納得もしました。

あのお嬢様の気質と財力なら、嘘ではなく本当の事だと思います。


私が奉公に出ているエーレンフロイト家の、レベッカお嬢様は本当に気前の良い方なのです。今、私は故郷の街に里帰りをしている最中なのですが、家族へのお土産に持ちきれないくらいのお土産をお嬢様から渡されているのです。私の護衛としてついて来てくださっているエーレンフロイト家の騎士のアーベラさんは私というよりお土産の護衛なのだと思います。戦闘力ゼロの私が高価な蜂蜜やジャムを大量に持って歩いていると、どんな事件に巻き込まれるかわかりませんから。


と言ってもこれらの高価な品は単なるお土産ではありません。私には重要なミッションが任されているのです。

私は気を引き締めました。私の任務は情報収集であり、私が持っている高価な品々は「お土産」と称して情報通の人達に配る賄賂なのです。

私の故郷の地に身を寄せている難民の方々が、レベッカお嬢様の親戚なのかどうか私は調査を頼まれたのです。


重要な任務だ!と思う反面、女スパイにでもなったような気がしてわくわくして来ます。


船は下流に下っていますので、当然王都に向かった時よりも速く進んでいます。だけど、もっと速く進まないかなあ。と思います。


初夏の陽を受けて河の水面がキラキラ輝いています。私はいつまでも船の上からその輝きを眺めていました。



私は王室の直轄地、風光明媚で貴族の別荘も多い別荘地、レートブルクという街で生まれ育ちました。

家業は四代続くパン屋です。

私は幼い頃から、父が焼くおいしいパンを食べて育ちました。14歳まで学校に通い、学校を卒業した後は家業の手伝いをしていました。当初は店番や配達の仕事をしていたのですが、跡継ぎだった兄が家出同然に家を出て行ったのを機にパン作りの手伝いをするようになりました。ゆくゆくは私の仕事に理解のある男性をムコにとって、ずっとこの街で生きて行くのだと思っていました


そんな人生設計が一ヶ月ほど前に急に狂いました。

家出していた兄が急に身重の妻を連れて戻って来たのです。

兄は自分が戻って来たのだから、パン作りをするな、厨房から出て行け!と言って私を厨房から閉め出しました。更に子供が生まれるのだから、行き遅れは出て行け、子供部屋を開け渡せ!と言って家からも追い出そうとしました。私は猛反発し、母は私の味方をしてくれましたが、だからと言って兄はともかく身重の女性は叩き出せません。険悪な雰囲気の中数日を過ごしていたある日父に言われました。


「王都に行け。」

と。私は泣いて抵抗しました。


王都に行かねばならないのだとしたら兄をやれば良いのではないか⁉︎と訴えましたが


「貴族様は例のあの変わった菓子を所望されたのだ。王都からあの菓子を買いに来た人間におまえが菓子を作って渡したのだろうが。そんな事をすればこういう事になると思っていた。浅薄なおまえの自業自得だ。」

と言われました。

わかっていたのなら忠告してくれれば良かったではないか!

とその時は父を恨みました。


そして私は重い足取りで愛する故郷を離れました。その時はもう二度と故郷の土を踏む事は無いだろうとさえ思っていました。


その時には、こんなにも早く里帰りする事になるという事も、王都の人達の事が大好きになるとも思っていませんでした。




翌日の昼前、私の故郷の最寄駅に無事到着しました。


ここからは貸馬車屋さんで一頭立ての馬車を借りてレートブルクへ向かいます。荷物が無ければ乗り合い馬車に乗っても良かったのですが、荷物が多かったので馬車を借りました。アーベラさんが御者台に座り、私は荷物と一緒に荷台に座ります。


馬車は通行するのに人間一人につき金貨一枚もかかるトンネルを抜けて街へと向かいました。


そして街の西門に着くと顔見知りの門番に

「ミリヤムじゃないか⁉︎久しぶりだなあ。帰って来たのか?」

と聞かれました。


だけどその後すぐ、レーリヒ商会王都支店の人達をたくさん乗せた馬車が門にやって来たので会話はそこでストップしました。

私とアーベラさんは門をくぐって街の中に入りました。


門から一番近い場所に、私の母の友人のテトラおばさんが、店番をしている雑貨屋があります。

わざとゆっくりテトラおばさんの店の前を通ると、おばさんが店から出て来ました。


「ミリーじゃないか!あんた帰って来たのかい。」

「うん。里帰り・・・。」

「ああ、いいんだよ。何も言わなくても。可哀想に。あんたみたいに要領の悪い娘には都会は辛かったんだろう。恥ずかしいと思う事なんかないんだからね。ここはあんたの生まれ故郷だ。胸を張っていればいいんだ。あんたの父親や兄貴が何か言うようだったら、あたしがガツンと言ってやるからさ。ところでこちらの娘さんは誰だい?貸馬車屋の従業員かい?初めて見る顔だけど。」


「テトラおばさん。私一時帰郷しただけだから。実家に置いてる荷物を回収したらまた奉公先に帰るから。で、彼女はアーベラさん。私と同じお屋敷で奉公してるの。女の一人旅は危険だからと一緒に来てくれたの。アーベラさん。この人は私のお母さんの親友のテトラおばさんよ。」

「はじめまして、アーベラと申します。ミリヤムさんとは仲良くさせて頂いています。」

「まーまー、さすが王都出身の女の子はシュッとしていてカッコいいね。何も無い田舎だけど、水と空気は綺麗だからゆっくりしていってね。」

と言っておばさんは、頭のてっぺんから足の先までアーベラさんを眺めます。

たぶん30分後には、アーベラさんの身長、目の色髪の色、服の色を街の全住民が知るでしょう。


「ところでおばさん。最近の街の様子はどう?お父さんとお母さんは元気?何か変わった事とかない?街の別荘に貴族様は何人くらい・・・。」

「それがもうあんた、あんたんちで大変な事があったんだよ!」

テトラおばさんは身を乗り出して話し出しました。

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