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調査のために

お母様の書斎に着くと、お母様が目を丸くして

「どうしたの。大丈夫、ミリヤム?」

と質問した。

「か・・肩関節外れるかと思いました。」

「レェベッカーっ!」

「わー、ごめんミリー。お母様。急いで伝えたい事があって。」


「ベッキー様ー!」

と少し遅れてユリアとコルネとユーディットが駆けつけて来た。私の廊下を走るスピードに追いついて来たのはアーベラだけである。


「さ、ミリー。さっきの話をもう一回して。」

「はい。でも、どこからお話ししたら?」

「エマさんとリナさんっぽい人をガルトゥーンダウムの屋敷で見たというあたりから。」

「ええええぇっ!」

とお母様が叫び声をあげた。


「どういう事ですか⁉︎ミリヤム?」

「えーと・・・。」


そしてミリヤムはさっきの話を繰り返した。


「・・・という事がありまして。」

「そうなの。その時まではエマさん達は無事だったのね。良かった。」

と言ってお母様は首を傾げた。


「でも、ネーボムク準男爵という人の事は私知らないわ。」

「私がひとっ走り、アグネスんちに行って来て情報大臣に聞いて来ますよ!」

「貴女が行く必要はありません!他の者に情報省に行かせます。今日は、難民収容施設に行く日なのでしょう?貴女はそちらに行きなさい。300匹のカメが腐ったらどうするのです!」

「ほーい。」

「ちなみに、施設で知り合いに会っても『親戚が見つかった』と言いふらすのではありませんよ。」

「何で?私、まだ入院中のコンラートに報告に行こうと思ったのに。」

「やめなさい!まだ、本当にお姉様達で間違いないのかわからないし、状況がわかりません。噂が流れる事でお姉様達を危険にさらしてしまうかもしれないのですよ。」

「どゆこと?」

私は首をかしげた。


「ブラウンツヴァイクラントの難民を自宅に引き取る者は、情報省に報告が義務付けられています。だから私は毎日情報省にお姉様達がヒンガリーラントの誰かのの元に身を寄せておられないか、使用人に確認させに行っていました。だけど、情報省に情報は入っていなかったのです。つまりネーボムク準男爵は、王室の命令に逆らっているわけで、お姉様達を監禁しているのかもしれないのです。」

「え⁉︎そんな義務があるの?サーシャさん達家族の事、うちは報告してるの?」

「してます。してなかったら、厳罰の対象です。」

「ネーボムクって人、何でしてないの?うちが情報省に密告したらやばいのではないの?」

「美しい言葉を使いなさい!」

「密告したら、おやばいのではないの?」

「美しいの定義を勉強し直しなさい!密告したら・・非常に良くない結果になるでしょう。」

「良くない結果って?」

「言わせないで。」

と言って、お母様が顔をしかめる。


私はお母様の背後に立っているビルギットに視線を移した。


「準男爵は重い罰を受ける事になります。そうなりたくなかったら、ノエライティーナ様達が最初からいなかった事にしてしまうかもしれないという事です。」

とビルギットが教えてくれた。


「え?え?えっ?・・それってまさか殺・・。」

「言わないで!」

とお母様が怒鳴った。


「えっ?何で?それなら何の為にそもそも伯母様達を引き取ったの?」

「とにかく。ネーボムク準男爵が何者で何が目的なのかを確かめなければ、こちらとしても動きようがありません。ネーボムク準男爵について至急調べてみます。それとユリア。」

「はい。何でしょうか?」

「レーリヒ商会から絵を買うから、商会に連絡して。」

お母様が急に話題を変えた。


「絵ですか。はい、わかりました。」

「その絵を、ミリヤムの故郷にあるシュテルンベルク家の別荘に届けて欲しいの。信頼できて目端のきく人間に。」

「目端ですか?」

「余所者が入り込んだら目立つ田舎町でも、商品を配達する商人なら怪しまれずに自然に入り込めるわ。宿屋や酒場を利用して疑われないよう情報を集めて来て欲しいの。」

「わかりました。」

「宿屋や酒場以外で情報を集められる場所があるかしら?」

とお母様がミリヤムに聞いた。


「西門の近くにある雑貨屋のおかみさんと学校の先生が、噂好きで情報通のツートップです。その子分・・いえ仲良しグループなのが、貸馬屋さんの奥さんと、ロウソク屋さんの奥さんと・・・。」


雑貨屋さんはともかく、学校の先生から情報を引き出すのは余所者には難しそう。

と思って、ふと思った。


「ミリーなら怪しまれずに、いろんな人から聞き込みができるんじゃないの?」

「ええ、まあ。そうですね。」

「ミリー、ジャムとか蜂蜜とか蜂蜜酒とか持って一回里帰りして来なよ。そのついでに、ネーボムクって奴の事聞き込みして来て。」

私がそう言うとお母様も


「お願いできるかしら。別荘を訪ねるとか周囲を徘徊するとかはしなくていいわ。ただ情報通の方から周囲の評判を聞いて来て欲しいの。どうせ『一ヶ月経っても戻らない。ずっと王都にいる』という報告をしに、一ヶ月後には里帰りしてもらおうと思っていたから。少し前倒しで。万が一危険が無いように、女性騎士を一人同伴させるわ。」

と言った。


「わかりました。頑張ります!」

とミリヤムは言った。


「重ねて言うけれど、無理な事や危険な事はしなくても良いのよ。もし本当にお姉様達だったとしたら、貴人が一緒の可能性もあるの。お姉様の娘のエマさんは、身分の高い方の乳母をしていたから。だから、ネーボムク準男爵に周囲を嗅ぎ回られているとは決して気づかせないで。」

「・・はい。」

ミリヤムは緊張の面持ちでうなずいた。


「今日はまず情報省から情報を集めます。里帰りするのは明日以降になるから、さ、貴女達は届け物を届けに行って来なさい。」

「はーい。」

と私達は声をそろえて言った。


ずっと足取りがつかめなくて、やっと手に入れる事ができた伯母様達の情報だ。どうか伯母様達であってほしい。そして無事であってほしい。

と。心の底からそう思った。

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