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見た事の無いお菓子(4)

「はあっ!」

と思わず私は叫んでしまった。


「お母様、何を言ってるんですか?そんな横暴な。」

「あら、囲い込むなら早くしておかないと、他の貴族に囲い込まれたらこのお菓子をもう食べられなくなってしまうのよ。」

「だけど、人には都合ってものが。」

「別にただ働きさせる気はないわよ。ちゃんと給金は払うわよ。」

「でもですね。」


と言いつつ、私は思った。

お母様はいい人だけどやっぱり貴族なのだ。平民相手に横暴に振る舞う事が悪い事だと思っていないのだ。


でも、そのパン屋さんにだって今の生活がある。故郷には友達や大切な人がいる。それを無理矢理引き離すなんて!


でも、既に王都でも評判になっているパン屋さんだ。うちが呼びつけなくても誰か他の貴族が無理矢理呼びつけるかもしれない。その貴族がリーシアの親みたいな貴族だったらパン屋さんにとっては悲劇だ。それなら我が家で囲い込んであげた方がパン屋さんは幸せかもしれない。


・・・でも。


何だかすごくもやっとする。おいしかったシュークリームで急にすごく胃もたれがした。




「おいしいお菓子、ごちそうさまでした。私、これからちょっと出かけて来ますね。」


と突然リーシアが言った。


「あら、どこへ行くの?」

とお母様が質問する。


「プラムパイハイムです。」

とリーシアは言った。『プラムパイハイム』はリーシアの母親のセリーナさんが店主をしている食堂だ。


「人と待ち合わせをしているんです。」

とリーシアは言った。

「待ち合わせ、誰と?」

と私は聞いた。


「私、このお菓子の話を聞いた時思ったんです。世の中は広くて私の知らないお菓子がいっぱいあるんだって。」

「そうだね。」


「だから、ブラウンツヴァイクラントの難民収容施設の仕事の求人用掲示板に募集を出したんです。『珍しいお菓子のレシピを買い取ります』って。」

「ええ!」


ブラウンツヴァイクラントはヒンガリーラントのお隣の国だ。現在、革命の真っ最中。戦火を逃れて、たくさんの人達が難民としてヒンガリーラントに避難して来ている。王都にも既にたくさんの人達がやって来ている為、先ごろ王様が難民収容施設を開設されたのだ。


「そしたら、ブラウンツヴァイクラントの有名な保養地のホテルのお菓子専門の料理人だった、という人が連絡をくれたのです。その人は200種類以上お菓子の持ちレシピがあるのだそうです。なので、今日これからプラムパイハイムで会う約束をしているのです。レベッカ様の為に珍しいお菓子のレシピをいっぱい聞いて来ますね。」

「私もその人に会いたい。一緒に行く!」

「待ちなさい、レベッカ!リーシアも!」

お母様が叫んだ。


「いくら、リーシアのお母様がご一緒とはいえ、知らない人と簡単に会うのは不用心です。難民だからと偏見を持つわけではありませんが、あなた達は身分とお金を持っている立場なのです。知らない人の事はもっと警戒をしなさい!」

「そうだけど・・・。」

「ゾフィー。ビルギット。あなた達が同行してあげてくれないかしら。それで信用のできる人かどうかを見定めて来てくれない。」

「はい。奥様。」

「それで信用ができそうな人ならうちで雇いましょう。」


「え⁉︎お母様。」

私は耳を疑った。


「だって、本当に200種類以上も持ちレシピがあって、信用できる人なら素晴らしい人材だわ。難民の中でも優秀な職人や知識人は、どんどんと貴族家で囲い込みをしているのよ。うちでも、そうしないと。」

「・・・。」

「それに、そういう人に『お菓子の大学』の教師になってもらえたらありがたいじゃないの。」

「・・そうですね。じゃあ、私外出着に着替えて来ます。」

「レベッカ。リーシアは良いけれど貴女は行ったら駄目です。」

「何で⁉︎」

「貴女が会って良いのは、ゾフィー達が信頼のおける相手だと判断した後です。貴女はすぐ難民に、特に女性や子供に同情しますから。」

「リーシアだって、するでしょう?」

「リーシアは私がもう関わってはならないと命令したら言う事を聞きます。でも貴女は私の言う事を屁理屈をこねて聞かないでしょ!」


信頼の差。という事らしい。

だけど、私がここでゴネてリーシアまで外出禁止になったら申し訳ない。リーシアにとっては、時々しかない母親と会う機会なのだから。


そんなわけで、私は出かけて行くリーシア達を見送った。


すると私の側にいたミレイがぽつんと言った。


「みんな、ベッキー様の為にすごいです。私だけが何もしていない・・・。」

「何言ってんの。お母様が私を許してくれるよう、エリーゼ様に手を回してくれるようお願いしてたって知ってるよ。」

「ベッキー様ー。」

私はよしよしと、ミレイの頭を撫でた。

リーシア達が戻って来たのは、夕食の時間の少し後だった。


「ただいま帰りましたー。」

と嬉しそうに言うリーシアは大きな箱を持っていた。

夕食はプラムパイハイムで済ませて来たらしい。


「セリーナさんの手料理はものすごくおいしかったです。」

とビルギットが言うのを聞いて、やっぱりついて行けば良かったと思った。


「菓子職人の名前はサーシャ・ハーディング氏。30代の男性で奥様が一人、娘さんが二人います。娘さんの年齢は11歳と8歳です。」

「奥さんの人数まで言わなくても、奥さんは一人でしょ。」

「ブラウンツヴァイクラントは一夫多妻制の国です。平民でも、妻が複数いる人はけっこういます。」

とビルギットに言われた。


「お菓子作りの腕は見事でしたわ。手際の良さから見てプロの料理人である事は間違いありません。」

とゾフィーが言った。


「御本人も奥様も思慮深い分別のある方達でした。貴族の前に出る事も多かったからでしょう。礼儀正しく品のある人達でしたわ。子供達もよく躾けられている礼儀正しい子供達でした。勿論、背後関係などもっと調査するべきではあると思いますけれど。」

ゾフィーの目には叶うファミリーだったらしい。でも私はゾフィーの報告より、リーシアの持っている箱が気になった。良い香りが漂ってくるのだ。


「どんなお菓子のレシピを聞いたの?」

「ゾフィーさんが、『レモンを使ったお菓子』と指定されまして、レモンメレンゲパイというのを実際に作ってくださいました。もっのすごくおいしかったです!」


これ、お土産です。と言ってリーシアは箱を渡してくれた。


レモンメレンゲパイ。というお菓子は知っている。文子だった頃、近所のケーキ屋で売っていたのだ。パイ生地の上にレモンカードというクリームを乗せその上に卵のメレンゲを乗せるパイだ。箱を開けて見てみた中身は、私の知っているパイとそっくりの見た目をしていた。たぶん同じ物だろう。


「食べたい、食べたいー!」

「飛び跳ねるのではありません!はしたない。」

とお母様には言われたが、明らかにお母様も興味津々だった。


パイは二つあった。リーシアやゾフィーは既に食べて来ているらしい。切り分けたパイを私はパクッと頬張った。


レモンの酸味と砂糖の甘さのバランスが絶妙だ。下のパイ生地も、もさもさしてなくてサクッサクである。


ものすごくおいしい!


「お母様!我が家にお呼びしましょう。囲い込みましょうっ!」

「結論が早過ぎです。」

「そんな、モタモタしていて、他の家にとられたらどうするんですか。時は金なりですよ。人間はお菓子みたいに、あなたと私で半分個、というわけにはいかないんですよ!」

「身辺調査を済ませてからです!」

とお母様は言った後小声で


「一緒に行かせなくて良かった。絶対、そのまま連れて帰っていたわ・・。」

とつぶやいていた。


「とにかく、レベッカ落ち着きなさい。向こう様にだって事情があるのかもしれないのですよ。」

「金の力で解決しましょう。」

「横暴な真似はやめなさい!全く、もう。」


とお母様には言われたけれど、難民の方に住む場所と仕事を用意するのは『横暴』なんかじゃないと思うんだけどな!


200種類以上のレシピを持っている人かあ。早く会って話がしてみたい!


私の心は久しぶりに弾んでいた。

結局、似た者親子なお母様とレベッカです(^◇^;)


次話からは、今回名前が出て来たサーシャさんの目を通して見る祖国の革命と、ヒンガリーラントの生活を書こうと思います

どうかよろしくお願いします!

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