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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第八章 ジークレヒト事件

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叙勲式(1)(ルートヴィッヒ視点)

ルートヴィッヒ王子視点の話になります


季節も初夏になりました

後の世の人々から『ジークレヒト事件』と呼ばれる事になった事件から二ヶ月が経った。サクランボやアプリコットの花も散り、木には小さな実が実り始めている。王宮の庭ではマロニエの花が花盛りだ。


王宮の混乱もだいぶ落ち着いて来た。

なにせ、現職の大臣だった典礼大臣や前司法大臣が処刑される事件だったのだ。王宮内でも現職女官長が流刑地に流刑になった。彼女の部下達も様々な罰を受けたので王宮内は大変な人手不足だ。その為王宮全体が、何やら閑散としているような気がする。


そして今僕は、書斎で短い休憩をとっていた。この数日とにかく忙しく、ゆっくり食事をする暇もないくらいなのだ。

それは来週行われる、『デイム』の叙勲式の準備の為だ。

僕の名前はルートヴィッヒ。ヒンガリーラントの第二王子だ。今年で20歳になる。

そして今、僕がしている仕事は本来『典礼大臣』がするものだ。しかし、今現在典礼大臣の座は空席である。その為王族である僕が代理を務めているのである。


先刻も言った通り僕は第二王子だ。第一王子である兄がいるし弟も二人いる。

叙勲式とその後のパーティーの準備は目が回るほど忙しく、他の兄弟達は何をしているんだ?少しは手伝ってくれ!と思わない事もない。

僕は、僕専任の情報提供者『グラウハーゼ』に、兄と、僕と同い年の弟が何をしているのか聞いてみた。


「第一王子殿下は、財政大臣の手伝いで納税関係の仕事の補助をしておられます。」

「・・・・。」


嘘だろ?

と心の中で思った。勉強が大嫌いで、その中でも一番数学が嫌いだった兄上に複雑極まる税率の計算はどう考えても無理だろう。と僕は思う。


ジークレヒト事件と、その後起こった検疫の不正事件とで大々的な粛正が行われ、貴族や権力者がどっと減りたぶん財政省は人手不足なのだろう。

そして春は納税の季節。


普通の納税分だけでも事務処理をするのが忙しいだろうに『復興貴族税』という特別税まで今年はあって、財政省の人間達は寝る間もないくらい忙しいに違いない。

だが、あの勉強が嫌いで怠け者な兄が助けになっているとは到底思えない。実のところ何もしていないか、伯父である財政大臣に限りなく迷惑をかけているかのどちらかだと思う。


僕が叙勲式の準備で目が回りそうなほど忙しいのに、あの兄が毎日遊んで暮らしていると聞いたら正直すごく腹が立つと思う。

だけどじゃあ、叙勲式の準備を手伝うなどと言われたら「頼むからこの世の果てまで下がっててくれ」と言いたくなるに違いなかった。

とにかく何をしていてもいなくても、あの兄は僕にとって腹が立つ存在なのだ。


なので、今はこの兄の存在を忘れていようと思う。


しかしクラウスは?


控えめな性格とそこそこの優秀さを併せ持つ同い年の弟は、いったい何をしているのだろうか?

あいつが叙勲式の手伝いをすると言ってくれたら大歓迎なのに。


「第三王子殿下は引っ越しの準備で忙しくしておられます。臣籍降下される事が叙勲式で正式に発表されますから。それまでにしておく事が山積みなのです。」

「臣籍降下っ!初耳だぞ⁉︎」

「叙勲式で発表されるまでは厳重に秘密にされております。なので、殿下。ぺらぺら喋ってはなりませんよ。」

「わかった。けど、何で秘密なんだ。公爵位を賜るのだろう?領地はどの辺りが下げ渡されるんだ?」

と言いつつ、何でこの時期に?と思った。通常、王子が公爵位を賜るのは父である国王が死に、兄弟が新王に即位した時だ。


「違います。滅門予定の家門に養子に入られるのです。」

「どこの家だ?」


今年の秋までに『復興貴族税』が払えない家門は平民落ちする事になっている。その内の一つという事だろう。しかし、公爵家と侯爵家で『平民落ち』する予定の家など無い。それ以下の家門のどこかを継ぐというのか?


確かに大昔には、戦争の英雄だった侯爵がいてその息子が戦争で全員死んでしまって、王子の一人が養子に入って家を継いだ。という特殊な事例もあった。

だけど、それくらい特殊な例でなければ王子が貴族家に養子に入る、などという事は起こらないのだ。


王子を養子に入れるほどの家門が、伯爵家以下の家門であるだろうか?


「ヒルデブラント侯爵家です。」

とグラウハーゼは言った。

「いぃっ!」


思わず叫んでしまったが、考えてみれば納得だった。


ヒルデブラント家は二ヶ月前の事件で跡取りを失った。その跡取りは王都で絶大な人気を誇る英雄だった。

伝染病が蔓延はびこる土地で治療に奔走して『男爵位』を賜る事になっていた。しかし、凶悪な犯罪者集団から少女を守り、少女は救ったが自らは命を落としてしまった。彼は悲運の英雄だった。今、あの男より王都民の間で人気が高い男は役者にも歌手にもいないだろう。


「ジークレヒトには兄弟も男の従兄弟もいないが、長い歴史を持つ家門だ。血筋をさかのぼれば誰か男系男子がいるだろう。それに、今からだって侯爵に息子が生まれるかもしれない。それなのにクラウスを養子にするのか?」

「結局、問題はそこですよ。もし、遠ーい分家の男子を跡取りに指名して、その後侯爵に男子が生まれたりしたら超揉める事になります。だけど跡取りが王子様だったら押し退けられませんからね。将来揉める事がないよう、王子様を養子に欲しいと、侯爵様自身が希望されたそうです。ちなみに侯爵は、クラウス様が養子に入ったらすぐ爵位を譲って隠居されるおつもりのようです。ヒンガリーラントに最年少侯爵が誕生する事になりますね。」

「・・それは準備が大変だな。」


叙勲式の手伝いをしている場合ではなさそうだ。


それにしてもヒルデブラント家か。


の地の領都は、王都、港町ブルーダーシュタットに次ぐ人口第三位の街である。薬草の栽培で巨万の富を築き、石炭坑も領地内に持っている。どの公爵家よりも豊かで事実上王族に次ぐ財を持つ一族だ。そんな家門の養子になるなんて、ものすごい幸運だと思う者もいるだろう。


「ヒルデブラント家は別に、クラウス殿下を後継者にと指名したわけではないのですよ。第一王子以外なら誰でも良い。と言ったそうです。」

「そうなのか⁉︎」

「あ、だったら自分がなりたかった。って思ってます?」

「思ってない!」


秒で答えてしまい後悔した。少しくらい悩む演技をするべきだった。


僕の望みはただ一つ。父上の跡を継いで玉座につく事だ。ヒルデブラント家がどれだけ金を持っていたとしても、臣下の地位に興味は無い。だけど、自分の野望はまだ限られた人にしか伝えていない。グラウハーゼには言っていないので、勘づかれるような言動と挙動は避けるべきだった。


「国王陛下が一番最初にクラウス殿下に話を持って行って、殿下は話を受ける。と即答されたそうです。」

「良い話だものな。」

「ただクラウス殿下は、後継者になるうえで一つ条件を出されたそうです。」

「どんな?」

「もしも、ジークレヒト卿が生きて戻って来たら、爵位も財産も全て彼に返すというものです。」

「・・・。」

「その為にクラウス殿下は引き受けられたようですよ。ルートヴィッヒ殿下やレオンハルト殿下が爵位を継いだら、ジークレヒト卿が生きて戻って来ても爵位は返さないでしょう。だからご自分が爵位を一旦引き受けられるという事にしたのです。クラウス殿下はジークレヒト卿が生きて戻って来るのを心から望んでおられます。」


何と言って良いのかわからなかった。優しい弟だ。本当に優しい子なのだ。そして、ジークレヒトの事が本当に好きだったのだ。


「・・ふと思ったのだが、クラウスはジークルーネ姫君と結婚・・って事になるわけじゃないよな?」

「それはあり得ないでしょう。ジークルーネ姫君の姿を見たコンラート卿が怪我をおして病院の階段を駆け下り、花園で熱く抱き合っていたというのは、王都にいる者なら裏通りを縄張りにしているネコでも知ってますからね。」

「そうなんだよなあ。ヒルデブラント家って他に独身の若い娘っているのか?」

「ジークレヒト卿の再従兄弟に、男性にだらしない事で有名な女性が一人いますね。それとその女性の生んだ私生児が二人、七歳と五歳の女の子がいます。」

「却下だ。たとえ父上が許しても僕が許さん!」


僕はそう言ってから

「叙勲式までに一度、クラウスとお茶会をしてゆっくり話したいな。クラウスの負担にはなりたくないから、クラウスにそういう時間があるかどうか調べてくれ。」

と言った。

「承知致しました。」

とグラウハーゼの持っていたパペット人形が言った。


ヒルデブラント家は大蛇のような一族だ。と、父上が以前に言っておられたのを思い出した。

財産が多過ぎる家に養子に行くのは苦労も多い事だろう。


それでも、クラウスには幸せになって欲しかった。


今回は式の準備中のお話です

次話から式の話になります

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