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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第八章 ジークレヒト事件

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或る事件(3)(エリザベート視点)

ジークが気を失ったミュリエラを横抱きにし、女子寄宿舎に助けを求めに来た時は驚きました。


そして過去の世界とはこんなにも状況は変わっているのに、邪悪な者は邪悪な行いに突き進んだ。という事を悲しく思いました。


ミュリエラは薬の影響と激しい恐怖から、口を聞ける状態ではありませんでした。

ミュリエラの名前、年齢、出身国、家族の所在などは、私自身の過去の記憶から言ったのです。


私は駆けつけて来た司法大臣達に、自分自身の主観を排除した話をしました。そして最後に一つ完全な思い込みをわざとぶっ込んでみました。

『妹も一緒に拉致されたのかもしれない』と。


こう言えば司法大臣が、男子寄宿舎の地下室を含め隅々まで調査してくれるでしょう。


ニコール・カイドツァイラーは、普通に大学に通っていましたが、他の二人の消息は調べてもわかりませんでした。まだヒンガリーラントに来ていないのかもしれませんが、もしかしたら既に拉致されているのかもしれません。


そして、ミュリエラの略取に関わった男達が逮捕されました。



今回の事件ではクラウスやジークレヒトが巻き込まれたので、国王陛下の怒りは激しく、更にこの度はガルトゥーンダウムらは免罪権を持っていなかった為、男達には非常に重い罰が下りました。


「重すぎる。」


と言っている人達が少なからずいた事を知っています。


だけど、私はそう思いません。同じ男達が過去にどれほど酷い事をしていたのか知っているからです。


ルイトボルトは、エーベルリン達の命令に逆らえなかったのだ。可哀想な奴なんだ。とか、ドアの外に立っていただけでこれほど重い罪になるのか?とか言っているやからがいたようですが、イシドールやアロイジウスに虐げられた男達の中には、自分達より弱者である地下室の女性達に言葉ではとても言えないほど酷い真似をして鬱憤を晴らしていた者もいたのです。


以前、私はミュリエラの入院していた『林檎の間』で、犯罪者をかばってミュリエラの従姉の嫁ぎ先に狼藉を働く愚か者共を(自主規制)してやれと言った事がありますが、私は本気でそう言いました。その酷刑よりはるかに酷い目に女性達は遭ったのです。その犯人を擁護する奴らは事実上犯人の共犯です。酷刑にかけられて、それを残酷過ぎると言える人がいるのでしょうか。


男達はそれだけ重い罪を犯したのです。



しかし同時に、イシドールのせいで捕えられてしまった、現在でも過去でも無実だった人達の冤罪を晴らす為、私は尽力しました。


そして、親戚であり友人でもあるヘレーネの為に、減刑を求める署名活動を人権家弁護士にお願いして、してもらいました。


更に最も大切な事として、戦争を回避する為に手を回しました。あの戦争がヒンガリーラントを破滅させ数多の人々を不幸にしたのです。



そして戦争はなんとか回避されました。


これについては、公にはできませんがヒルデブラント父子の力が大きかったのです。


ジークレヒトが死に、そのショックで侯爵の気がふれたという噂が王都中に流れ、全ヒンガリーラント国民とアズールブラウラント国民が犯人はヒンガリーラントで裁くべし!という事に納得したのです。


名家の当主の『気がふれた』というのは、とんでもない醜聞です。社交界では爪弾きにされるでしょうし、13議会などの政治家になる道も断たれるでしょう。事実上、貴族としては死んだも同然です。


そしてヒルデブラント家は、当主の八親等内親族の男系男子がジークレヒトを最後に一人も生まれていません。

ジークレヒトが死に、そして今後当主である侯爵やその従兄弟や再従兄弟達に男の子が生まれなければ、ヒンガリーラント屈指の名家であるヒルデブラント家は滅門するのです。


そうならないよう、ジークルーネを身代わりにたて、何とか家門を維持しようとしていたのに侯爵は『ジークレヒト』を殺してしまいました。


この事件では『ジークレヒト』が死んだからこそ、アズールブラウラントの犯人引き渡し要求をはねつけられ、犯人達を極めて重い罪に問えました。


その為にヒンガリーラントで最も裕福だった一つの家門が社交界を追われ、そう遠くない未来に滅門するのです。


ヒルデブラント家の人々が払ってくれた犠牲には只々、頭が下がります。



通常、人々の記憶にいつまでも残るような大事件が起こった時は、加害者の名前がその事件の名前としてつきます。

『紅蓮の魔女事件』とかです。


しかし、この度の事件は加害者の数が多く、複数の事件が絡み合っていてそれぞれに主犯がいた為、加害者ではなく最大の被害者の名前で呼ばれるようになりました。


『ジークレヒト・フォン・ヒルデブラント事件』もしくは『ジークレヒト事件』です。


「まるで、ジークレヒト様が犯人みたい。」

ミレジーナが眉を寄せてそう言いました。


ただ、それはあながち間違った事ではありません。


アカデミーの男子寄宿舎に邪悪な男達がいて『ジークレヒト』と呼ばれた少女が戦い勇気と知恵でそいつらを陥れたのです。



私は日記を机の引き出しにしまいました。

代わりに大きな封筒に入れられた書類を取り出します。


『ジークレヒト事件』の裁判記録です。それをもう一度読み返してみようと思いました。


私は大きな事件があった時いつも、『何故』そして『いつから』という点に注目するようにしています。


大きな事件という物は突発的には起きません。入念な準備の果てに成功、あるいは失敗するのです。今回の事件でも、麻薬をアトマイザーに入れて持ち歩いていたり、門番を前もって買収していたり、少なからず準備が行われています。


彼らは『いつから』あのような下衆集団に成り果てていたのでしょう。『何故』悪の道に堕ちてしまったのでしょう。


それについて知る事が、第二第三の彼らを生まない事になると私は思うのです



私は裁判記録を目で追い始めました。


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