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王宮の乱after (ルートヴィッヒ視点)

ルートヴィッヒ王子視点の話になります

王宮内はざわついていた。


近衞騎士団が駆け回っているからだ。


そして、その近衞騎士団もまた動揺していた。近衞騎士達は犯罪者を逮捕する為に駆けずり回っている。そしてその騎士団の中にも逮捕者が出ている。かつて副団長を務めていたアードラー卿を始め、何人もの騎士とその家族達が逮捕されるのだ。


逮捕される人間の数がなんといっても多い。反逆罪並みに。

というか、何人かは事実上反逆罪で捕えられるのである。


僕は、コーヒーに角砂糖を一つ入れてスプーンでかき回した。普段なら、コーヒーに砂糖は入れないが、今日は脳が栄養を欲している気分だった。この騒ぎがおさまらない限りどうせ寝る事もできない。場合によっては徹夜の可能性もある。僕の向かいに座っている弟のクラウスは角砂糖を四つコーヒーカップに入れていた。別にぼーっとしているわけでなく、これがクラウスの普通なのだ。クラウスは甘い物が大好きなのである。


僕の名前はルートヴィッヒという。ヒンガリーラントの第二王子だ。目の前にいるのは、第三王子で異母弟のクラウスである。僕達は五人兄妹で、僕達二人より幼い第四王子のレオンハルトと妹のアンゲラは、今離宮の一つである芳花宮にいる。芳花宮は信頼できる護衛に囲まれ封鎖されていた。

今はもう深夜だし、幼い二人は今頃ベッドの中で善良な夢の中だろう。


普段芳花宮で暮らしている僕は、王宮内の情報を得る為今は蛍野宮に来ていた。蛍野宮はクラウスとクラウスの母親のテオドーラ妃が住んでいる離宮だ。

蛍野宮が芳花宮と違って封鎖されていないのは、ここで働いていた王宮侍女達にも何人も逮捕者が出たからだ。


えっ?ところで、第一王子はって?そんな事は知ったこっちゃない。まあ、王宮内のどっかにいるんだろう。怪しい動きをしないよう、たぶん誰かが監視しているはずだ。


今日。そして、今。ジークレヒト・フォン・ヒルデブラント殺害事件の関係者達が一斉に逮捕され始めたのである。



始まりは外国人少女の略取事件だった。


典礼大臣の息子と元司法大臣である伯爵の甥と、そのパシリ一人の三人が性的暴行目的でたまたま見かけた少女を略取しアカデミーの寄宿舎に連れ込んだ。

それに気がついたジークレヒトと、コンラート・フォン・シュテルンベルクが略取犯一派十数人を相手に大暴れ。多勢に無勢でジークレヒトが命を落とすが、略取された少女が逃げ切った事と、僕らの従兄弟フィリックスの活躍で事件は明るみに出て、犯人は拘束された。そして五日に渡る厳しい取り調べの果てついに今日正式に逮捕となったのである。


拘束から逮捕まで五日もかかったのは、たくさんの高位貴族が関わっていた為、万が一にも冤罪を生んではいけなかったからだ。


ヒンガリーラントには連座制がある。重大犯罪が起きた場合、犯人の三親等内親族も逮捕される。


つまり、犯人の親である典礼大臣エーベルリン男爵。犯人の伯父であるガルトゥーンダウム伯爵とその夫人達も逮捕されるのだ。


更にアカデミーの校長の甥も逮捕された。事件をもみ消そうとし、その為に第三王子であるクラウスを監禁した反逆罪でだ。

そうなると、伯父でありアカデミーの校長であるヴァーグナー伯爵も逮捕される。

王都は今、混乱の坩堝るつぼにあった。



「どうか、お助けください!」

という叫び声が、少し前まで蛍野宮でも響き渡っていた。蛍野宮で働く女官達の声だった。


事件当時、女官長はクラウスも犯人の一味だと嘘をついた。嘘をついて蛍野妃テオドーラ様にクラウスとその他の犯人達のの命乞いをさせようとしたのだ。

当然そのような嘘は、王族に対する不敬罪であり反逆罪だ。女官長は一番最初に捕えられてクレマチスの塔に連れて行かれた。


女官長の命令で噂をばら撒いた者、面白がって噂をばら撒いた者も同罪だ。そして、反逆罪という罪は殺人罪より重罪だ。

嘘をばら撒いた女官達は床に頭をすりつけてテオドーラ妃に慈悲を乞うた。


「女官長の命令だったのです。私達には逆らえませんでした。」

そう言って卑屈に笑う女官達の目には、わずかに蔑みの光があった。


気が弱くおとなしく側妃だ。頼めば、なんだって聞いてくれる。今までたっぷりと脅して頭を押さえつけてきたんだ。私達に逆らえるわけがない。


そんな本音が透けて見えていた。


だが、テオドーラ妃の声は氷のように冷たかった。


「罪を犯したのなら罰を受けるべきです。罪が無いというのなら、陛下がそう裁定してくださるでしょう。わたくしから言うべき事は何もありません。」

「テオドーラ様!」

「其方達は、クラウスが性犯罪に関わっていると言いました。其方達を許すという事は其方達が間違っていなかったと認める事です。そのような事は決してできません。」

「そんな!どうか、どうかお許しください!」


間もなく女官達は護衛騎士に拘束されて連れて行かれた。



ウサギのぬいぐるみを小脇に抱えた仮面の男が、僕とクラウスの前に現れた。


「ガルトゥーンダウム伯爵とエーベルリン男爵が逃走したそうです。」

「えっ⁉︎」

「近衞騎士団が屋敷に突入したそうですが、いなかったそうです。」

「それは大変な事じゃないか!」

「そうでもありませんよ。ガルトゥーンダウム伯爵の方はもう見つかりました。屋敷内の隠し部屋に隠れていたそうですが、普段からパワハラを受けていた使用人が密告をしてくれたので、既に引きずり出されました。エーベルリン男爵の方は秘密の地下通路を通って屋敷を脱出していましたが、奴の王都内の隠れ家については情報省が全部調査済みです。そこで待ち伏せしていたらすぐ見つかるでしょう。」


僕はほっとして、ため息をついた。


「何か手伝える事とかあるか?」

「追い詰められた犯罪者に拉致られて人質にならない事が殿下方の最大の仕事ですよ。頼むから、『お菓子をあげる』とか『眠っていたはずのアンゲラ殿下が行方不明』とか言われても発言者にふらふらついて行かないでくださいね。」


「わかっている。」


「ま、しかし実のところガルトゥーンダウムもエーベルリンも所詮小物ですよ。爵位と寄親の威光がなければただの、加齢臭のキツい非力な中年男です。怖いのは・・・。」

「わかっている。近衞騎士団だろ。」

「何人か逮捕者が出ていますからね。その中で最強なのは、アードラー卿です。騎士団長ですら、一対一の勝負では勝てないそうです。彼が本気で抵抗したら死人が出ます。他の逮捕者や、彼に心酔している部下が味方についたら死体の山ができるかもしれません。」

「・・・・。」


「それと恐ろしいのが、デイム・アードラーです。王都では抜群の人気を誇る『聖少女』です。彼女が悲鳴をあげれば、王都民が彼女の周囲に人垣を作り彼女を守ろうとするでしょう。それを蹴散らすわけにもいきません。しかも今いる場所がエーレンフロイト邸です。寄親はデイム・エーレンフロイトとデイム・ブランケンシュタインです。抵抗されれば引きずり出せません。無理強いすれば王都が転覆します。」

グラウハーゼは、グッ!と握りこぶしを作った。


「その時はお二人の出番ですよ。海賊の足を蹴り折ったという、自慢の御御足おみあしを持つデイム・エーレンフロイトと蹴り合いになってでも、デイム・アードラーを確保してくださいね。」

「・・出たくない。」

「ルートヴィッヒ殿下!何をびびっていらっしゃるのですか⁉︎正義の為ならホネの一本や二本・・・。」

「怖くて言ってるわけじゃない!」

「僕はエリーゼを敵に回すのは怖いよ。」

とクラウスがつぶやいた。


その時、新たな人物が現れた。僕は警戒したが、クラウスは落ち着いていた。


「ヒュアツィント。」


現れたのは女だった。グラウハーゼとそっくりな仮面をつけている。


「森影か?」

「はい。父上がつけてくださった森影のヒュアツィントです。」


ヒュアツィント。ヒアシンスの花という意味だ。花言葉は『控えめな幸せ』だっただろうか?グラウハーゼよりは控えめな印象を与える人だ。


「アードラー卿が逮捕されました。抵抗する事なく従ったそうです。」

とヒュアツィントはクラウスに告げた。

「そうなんだ。・・良かった。」

「デイム・アードラーも先程司法省内に入りました。こちらも抵抗は一切されませんでした。司法省内広場には群衆が集まっています。何かの呼びかけを行われる事を司法省は警戒していましたが、何も動きはありませんでした。」

「ベッキーやエリーゼはどうしているんだ?」


クラウス付きの森影だが、僕はヒュアツィントに聞いてみた。


「デイム・エーレンフロイトは人権派弁護士のデイム・クリューガーの所に駆け込まれました。」

「そうか。」

友人が逮捕されて、ベッキーはきっととても傷ついているだろう。それでも、自分のできる事を精一杯行おうとしているのだ。


だが、アードラー父娘が抵抗する事なく逮捕された事で、一つの段階が終わった。


だけど、まだ何もかも始まったばかりなのだ。


いつも、読んでくださって本当にありがとうございます


次話からはテリュース視点の話になります

誰だ、そりゃ?と思われた方には是非、第六章の『エーレンフロイト邸へ』という話を読み返して頂けると嬉しいです

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