林檎の間(6)(ミュリエラ視点)
「いやー、すごいものを見たね!」
「素敵だったわね。」
と私とエフィミア姉様が50回くらい言っていたら、お母様とお兄様が戻って来られました。ヘルミーネ弁護士も一緒です。
出かけてまだ二時間くらいしか経っていなかったので、随分と早いなと思いました。
「詳しい調査は司法省がして、国王陛下に報告を日毎にあげていたから裁判が始まる前からもう結論は出ていたのでしょう。」
とヘルミーネさんは言いました。
「いやー、それにしてもびっくりしました。」
「何がですか?」
「ヒルデブラント侯爵と妹のアレクサンドラ様です。双子のように瓜二つだったんですよ。二人が並んで座っていたのですけれど、ドッペルゲンガーかと思いました。」
「へー。」
そういう家系なのかしら?と私は思いました。
被害者親族席には、侯爵と妹さんと妹さんの秘書だけがいて、継母や継母の姉妹達、それに他の親族はいなかったそうです。
シュテルンベルク家の方も伯爵と伯爵の姉妹達が傍聴しに来ていたそうですが、お母様とお兄様はその二つの貴族家に挟まれる場所に座っていたそうです。
「気疲れされましたでしょう。あの二家門、仲が悪いから。」
「いえ、そんな。」
と、お母様が答えます。そんなに、仲の悪いおうちなのか、と私はジークルーネ様達の事が心配になりました。
「それで、裁判はどうなったのですか?」
とエフィミア姉様が聞きました。ヘルミーネさんは姿勢を正し私の目を見て答えられました。
「ミュリエラさんを略取した三人には、死刑判決が出ました。未成年者略取、暴行未遂、違法麻薬所持、殺人、全てが重罪だからです。更に事件を見過ごした門番二人とアカデミーの校長の甥とその日寄宿舎にいた男性教師三人、寄宿舎の管理を担っていた従僕五人に死刑判決が出ました。世間を大きく騒がせた事件の為処刑は公開で執行されます。」
「門番にもですか⁉︎」
とエフィミア姉様が驚きの声をあげました。
「門番には、アカデミーの生徒と無関係な者を中に入れないという責任があるのです。意識の無い若い女性が中に連れ込まれればどうなるか、わかっていて中に入れたのですから、事実上性犯罪の共犯だという判断でした。しかもミュリエラさんは門番に助けを求めたのに無視をしたのです。同情の余地はありません。」
正直、私は同情する気になれませんでした。お母様にもヘルミーネさんにも言わなかったけど、あの門番達は私を見てにやにや笑いながら『お楽しみですか。ごゆっくりー』と言ったのです。
「教師達や従僕には、事件をもみ消そうとした事や小伯爵及び第三王子殿下の監禁の罪で重い刑が降りました。そして、死刑判決が出た人達の三親等内親族のうち、13歳以上の人間に連座による死刑判決が出ました。」
「どうして13歳なんですか?」
と私は質問しました。
「廊下で『順番待ち』をしていた男達の最年少が13歳だったからです。13歳なら、もう子供ではない。責任を問われるべき年齢だ。という判断になりました。12歳以下の者は修道院に送られ、そこで生涯を過ごす事になります。そして『順番待ち』をしていた11人はヴィンター高原に流刑にされる事になりました。」
「ヴィンター高原?」
「五千メートル級の山を二つ超えた先にある流刑地です。そこに終身刑です。」
「甘くないですか⁉︎その11人がミュラ達を突き落としたり、シュテルンベルク小伯爵を殴ったりしたのでしょう!」
エフィミア姉様が怒りの声をあげました。
「状況がよくわからないまま、廊下に呼び出され、何の為に集められたのか知ったけれど、仲間内での上下関係や同調圧力からその場を離れられなかった。という者も半分くらいいたのです。『そんな事に関わるのは僕は嫌だ』と言って逃げ出そうとしたら、自分が私刑にかけられてしまうから、逃げ出せなかったと言っていました。アロイジウスとイシドールが派閥のトップで、下級貴族達は二人には逆らえな状況だった、という事で情状酌量されたようです。とはいえ、流刑というのも厳しい罰ですよ。正直私なら、スパッと死刑になった方がいいです。」
「そんな厳しい場所なのですか?」
「そりゃあ、もう。流刑地では自給自足の生活ですが、痩せた土地に王都より遥かに寒冷な気候で衛生環境も劣悪、病気になったって病院も医者もありません。でも、一番恐ろしいのは、流刑地は法の対象外だという事です。殺人、傷害、強姦などの罪を犯しても罪に問われる事はありません。」
「だったら、犯罪者にとってはむしろ天国なのではありませんか?」
とエフィミア姉様が言いました。
「自分が被害者になっても、加害者が裁かれない。という意味ですよ。温室育ちの貴族のボンボンが、生存競争を生き抜いて来た流刑囚相手に勝ち上がれると思いますか?」
私はぞっとしました。私やヒルデブラント小侯爵の身に起きた事が絶え間無く、それこそ死ぬまで続くなんて確かに死んだ方がマシかもしれません。それでも、罪を犯した若者にとっては自業自得でしょう。しかし、それに連座させられる家族の事を思うとさすがに胸が痛みました。
「そちらも、三親等内親族が連座なのですか?」
と私は聞きました。
「連座ではありますが、流刑かもしくは身分剥奪のうえ国外追放かを選べる事になりました。」
「そうなんですか?」
「温情が示されたのは、連座される人の中にデイム・アードラーがいらっしゃったからです。デイム・アードラーは天然痘流行時、王都民を飢えから救う為自ら畑を耕し家畜を育て、野菜や卵を無償で王都民に配りました。感染が広まると、国中の隔離区域に赴き治療の補助を行われ『聖少女』と呼ばれて崇められた方なのです。彼女の減刑を求める嘆願書が王都民達から大量に出ていたのです。」
「すごい方がいらっしゃったのですね。」
と私が言うと、ヘルミーネさんが言いました。
「奥様はお会いになっておられるはずですよ。デイム・アードラーはエリザベート公爵令嬢の側近中の側近で、事件の日もエリザベート様と共にずっとミュリエラさんに付き添っておられた、と聞いています。」
「そういえば、エリザベート様以外に二人女の子がいましたわ。あまり、じっくりお顔を見なかったのですが。」
とお母様が言いました。私は意識が朦朧としていたのでよく覚えていません。
「お嬢様に付き添い支えようとした事も減刑の一端になったそうです。元々、腹違いで交流の無い不仲な姉弟だったらしいので、彼女もまた愚かな弟の被害者であるといえますね。」
全く持ってその通りです。彼女は、どのような選択をするのでしょうか?もしも、アズールブラウラントに来る事を選択されたなら力になって差し上げたいと思いました。
「引き渡し請求についてはどうなったのでしょうか?」
と私は聞いてみました
「それについては、今日国から返答が来ました。元々、引き渡し請求をしたのは凶悪犯共をアズールブラウラントで厳しく裁く為で、ヒンガリーラントで厳しく裁くというならば、必要無いとの事でした。その代わり裁判や刑の執行についてしっかりと見届けるようにとの事です。ヒルデブラント小侯爵が亡くなられた事で流れが全く変わりました。」
弁護士さん達は亡命しなくても良いようです。それについては良かった。と思いました。
日本とは比べようがないほど厳しい判決がおりました。
君主制国家ですから・・・(~_~;)
ヴィンター高原がどんなところかについては『司法省改革(4)』で紹介しています。
ミュリエラ視点の話は次で終わりです。ある人が彼女を訪ねて来ます。




