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ノルド商会(2)(エフィミア視点)

正直

「何故⁉︎」

と思いました。


でも、まあすぐにわかりました。


ビッグな仔ガモが向こうからやって来たのです。

自分が、この仔ガモをこの商会の常連にしたのだという実績が皆欲しいのです。


三人の愛人達は皆同じような雰囲気のゴージャス美人です。まだ10代のお嬢様方は、目を白黒させています。私としても、まさか

「当主の愛人です。」

と説明するわけにもいきません。

どう紹介したらいいのかわからず、私も言葉を詰まらせてしまいました。


三人はそれぞれへりくだって、エーレンフロイト姫君に挨拶をされました。三人とも笑顔ですが、瞳は狩人の瞳です。

姫君が若干引いているように見えるのは気のせいではないでしょう。三人の目には、姫君を侮るような色も見えました。こんな仔ガモ、どのようにでも転がして好きなようにできるという考えが透けて見えます。


第一愛人が、まず進み出て来ました。

「お茶をどうぞ、エーレンフロイト様。」

そう言って、差し出したお茶を見て、「さすが!」と感心しました。


「東大陸の花茶ですわ。是非、鼻と舌とそして目でお楽しみください。」

そう言って差し出したのは、東大陸『先』の工芸茶です。香り高い茶葉を編み込んで花の蕾の形を作り、お湯を注ぐとその花が開くような細工になっている、とても美しいお茶なのです。美しいだけでなく、製造に手間のかかるこのお茶は希少なうえ非常に高価です。

それを出してくるとは、第一愛人は本気でエーレンフロイト姫君を絡め取ろうとしています。


このお茶は陶器のティーポットで出したのでは、美しさがわかりません。その美しさがはっきり見えるよう第一愛人は『ガラスのポット』でお茶を提供しました。花のようなお茶も美しいですが、磨き抜かれたガラスのポットも宝石のように美しいです。そこに蠱惑的な香りが重なり、夢のような美しい時間が流れました。


姫君は落ちた。


と私は思いました。


しかし。姫君の表情は全く変わりませんでした。ハイドフェルト令嬢は、その美しいお茶に目が釘付けになっていますし、レーリヒ令嬢も珍しい物を見るような目で見ていますが、姫君は完全に興味なさそうにスルーしています。


第一愛人はカップにお茶を注ぎ姫君達の前に置きました。背後に控えていた侍女がカップとソーサーを手に取り一口飲んで毒味をします。その後、姫君の前にカップとソーサーを戻し、姫君が一口飲んで言われました。


「怪しい者が店の周りをうろうろしていないか確認する為、司法省の機動課の人に巡回してもらえないか、私からも父に頼んでみます。」


お茶とポットの存在は完全にスルーされました。


「ありがとうございます。」

と私は言いました。第一愛人の方から、悔しそうな波動が伝わって来ました。


次に

「エーレンフロイト様。こちらのお菓子をどうぞ。」

と第二愛人が皿とカトラリーを姫君の前に置きました。


これは、ドライフルーツプティング!


牛脂の中でも最上級のケンネ脂とドライフルーツとお酒を混ぜて蒸し、数週間から数ヶ月かけて熟成させる高級菓子です。熟成させればさせるほどドライフルーツの発酵が進み美味しくなると言われるこの菓子は、私達の結婚式の為三ヶ月も前から用意されていました。エーレンフロイト家は美食の家として有名ですが、三ヶ月も熟成させたこの菓子を食べた事はきっとないでしょう。そのおいしさにきっと一瞬で虜になるはずです。

そしてその菓子を、我が家の家宝とも言える青磁の皿に載せています。青緑色の青磁には宝石ともまた違う輝きがあり、目を離す事ができないほどの美しさです。


エーレンフロイト姫君はその皿を手に取り、護衛の方に渡しました。びっくりしたのは、護衛の方が半分以上プティングを食べてしまった事です。しかし姫君は何も言わず、そしてご自分は食べようとされません。他の二人の令嬢は食べられたのに、姫君は皿をテーブルに置いたままお茶を飲まれるだけです。


第二愛人が焦ったような声で


「美しい皿でございましょう?」

と声をかけました


「青磁と申しますの。ああ、でも姫君でしたら今までにご覧になられた事がありますかしら?」

「はい。」


・・・。


さすがです。もしかしたらこの程度の皿エーレンフロイト家にはゴロゴロしているのかもしれません。


第二愛人は悔しそうな表情で俯きました。


「どうぞ、こちらもお召し上がりください。」

と言って第三愛人が銀の杯を差し出しました。細かい模様が彫り込まれ、瑠璃や翡翠が象嵌された美しい杯です。

そしてその中には、黄金色のスパークリングワインが入っていました。この色と香りは『飲む宝石』と称えられる最高級ワインです。

このワインの原産国は、伝染病で大変な打撃を受けました。国力や産業が復興するのに三十年はかかるだろうと言われていて、今やこのワインは同じ重さの黄金と取引されるほどです。


「姫様の領地は水晶の産地として有名ですよね。このワイン黄水晶シトリンを溶かし込んだような色だと思われませんか?是非、味わってみてください。」


ところが。

今度は誰も毒味をしないのです。そして姫君も、レーリヒ令嬢もハイドフェルト令嬢も手をつけられません。


「遠い土地からお嫁に来られて、不便や不自由を感じておられませんか?」

と姫君は私に語りかけられました。


「ええ、皆さんとても良くしてくださいますから。」

「水や食べ物は口に合いますか?」


スパークリングワインなど存在しないように無視しています。それは両男爵令嬢も同じです。


・・三愛人揃って不発なんて事あります⁉︎


レベッカは文子だった頃、工芸茶を見た事があります

青磁の皿や宝石が象嵌された杯も、お宝を鑑定する番組で見た事があります

そしてレベッカは酒が嫌いな子です


次話、もう一回プレゼン編です

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