五日目の来訪者(6)
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皆様、ありがとうございます!
とっても嬉しいです。心から感謝します!
「で、今更言うのも今更なのだけど、ご機嫌はいかがかしら?」
とエリーゼは微笑んで言った。
「申し訳ありません!」
とミュリエラはベッドの上で頭を下げた。
「父が無礼な真似を致しました。本当に・・申し訳ない事を・・・。」
「まあ、ほほほ。謝らなくても良いのよ。謝られても絶対に許さないから。」
「・・はい。許して欲しいとは申しません。私自身・・許せませんから。」
ミュリエラの声は震えていた。
「そんな顔をしないで。貴女には笑顔でいて欲しいの。その一助になればと思って、果物とフラワーボックスを持って来たわ。受け取ってくれるかしら。」
その言葉と同時にミレイがフラワーボックスを、クーニグンテが果物の入ったカゴを渡した。
・・ちょっとびびったよ。カゴの中にはサクランボとアプリコットが入っていたのだもの。どうしたんだ、この果物!
サクランボもアプリコットも今やっと花が咲き始めた頃なのに。
「どうしたんですか、そんな珍しいモノ?」
「まあ、ベッキーったら何を言っているの。果物は貴族の贈り物の定番ではないの。毒を仕込みにくいから。」
「・・・。」
「我が家の温室で実った物なの。良かったら食べてね。」
「ありがとうございます・・。何度も助けてくださって・・優しくしてくださって、ありがとうございます!」
ミュリエラが咽び泣く。エリーゼはその背中をそっと撫でてあげていた。
その後お互いに自己紹介をした。
ミュリエラは私の名前を知っていた。
「漆黒のサソリ団を倒した御令嬢ですよね!」
「・・・。」
「道理でお父様如きが手も足も出なかったはずです。とても、かっこよかったですわ。」
あの黒サソリ共は私の中では黒歴史なのだ。もう四年も前の出来事なのだし適当なタイミングで世間の人達にも忘れて欲しい。
私は話題を変えた。
「私の家には『この非国民!』とか『売国奴め!』と書かれた匿名のホットなお手紙が届いたりするのだけれども、ミュリエラさんは何か嫌がらせとかされていない?」
「病院のスタッフの方達は皆とても親切です。向かいの部屋のドアの前に騎士様が立っておられるので、この部屋にも不審者は現れません。ただ・・・。」
「ただ?」
「いえ、何でもないです。」
「えー、気になる。何かあるのだったら言って?」
「エフィミア姉様の嫁ぎ先のノルド商会の方では嫌がらせがあるらしくて、今朝なんかは投石でガラスを割られたらしくて、私申し訳なくて・・・。」
「貴女が申し訳なく思う事ではないわ。」
とエリーゼが言う。
「ただ、犯人の事は許せないわね。司法省員に捕まえさせて(自主規制)してやりましょう。」
それ、グリム童話の『ガチョウ番の娘』に出てくる処刑方!
初めて『ガチョウ番の娘』を読んだ時は脳貧血を起こしかけたものだ。
言っておくが『ガチョウ番の娘』自体は素晴らしい物語だ。勧善懲悪のざまあ系でクライマックスはスカッとする・・はずなのだが、処刑法の残酷さが全ての良い所をシュレッダー送りにしてしまうのだ。
ご存知ない方の為に、ごくごく簡単なあらすじを紹介しようと思う。ご存知の方は飛ばしてくださってかまわない。
ある国の王女様が隣国の王様の所にお嫁に行く事になる。その際、侍女一人だけを連れて行くのだが、旅の途中で侍女が剣で王女様を脅し服を取り替えさせ、侍女が王女様と入れ替わってしまう。王様の国についた侍女は王女様にガチョウ番の仕事をさせ自分は贅沢を満喫する。
いろんな事があって、王様はガチョウ番の娘こそが王女である事に気づく。王様は王女に化けた侍女に
「自分の女主人を陥れて不幸にした女にはどんな罰が相応しいだろうか?」
と質問する。残酷で傲慢な性格の侍女は、身の毛のよだつような残酷な方法での処刑を提案する。すると王様は侍女に言う。
「その女とはおまえの事だ!自分が言った通りの刑を受けるがいい!」
勧善懲悪、因果応報だし、他人に優しく振る舞う者は優しくしてもらえるし、他人に残酷に振る舞う者は自分も残酷に振る舞われる。という話だ。話なのだけど、確かに侍女はクズなんだけど、でも一番ビックリなのは残酷に振る舞わなくてはならない局面できっかり残酷になれた王様だよ。
私は孤児院とか病院とかで、グリムやペローの童話を子供達に話して聞かせたりしてるのだけど、この話だけは子供達にする気になれない。
中世ヨーロッパにはこんな酷刑があったのか。と震えたものだが、エリーゼ様がそれを今言ったって事は、まさかヒンガリーラントでもあるの?怖すぎるんですけどっ!
ミュリエラさん達ファミリーもドン引きしてるし!
微妙な空気の流れる中
「じゃ、次の予定あるんで。ゆっくり休んでね。ミュリエラさん。」
と言って私達は『林檎の間』を出た。
次の予定、とはコンラートの見舞いである。
シュテルンベルク伯爵はお姉様と談話室へ行っているので、コンラートはベッドの上で起きていた。
「何か騒ぎがあったみたいだな?」
と聞かれたので、何があったか一応説明した。
「いろんな父親がいるんだな。」
「そうだねー。」
「ヒルデブラント侯爵はどうしておられる?」
「この前、娘に『頼むから燃やしてくれ』って言われてたよ。」
「・・相変わらずだな。」
どっちが?
と思ったが聞けなかった。
見舞いを終えて私達は病院の外に出た。
「私とミレイはこれからオーベルシュタット公爵家へ行くけど一緒に行く?」
「遠慮します。」
エリーゼに聞かれて私は即答した。
オーベルシュタット公爵夫人は国王陛下の妹だ。そんな方に会うにはいろいろ準備がいる。特に心の。
というか、後ろでミレイが顔を引きつらせているけれど、ミレイも今知ったのではないの?
「公爵夫人、王都にいるの?」
「領地から急いで戻って来たのよ。領地の防衛に忙しい夫の代わりにね。どうか、戦争だけはしないでください。オーベルシュタット領はまだ伝染病の影響から立ち直れていないのです。だから戦争だけは!と国王陛下にひざまづいて請願されたそうよ。
アズールブラウラントと戦争になったら最前線に立たされるのは、領土が接しているオーベルシュタット領だからね。」
「それで、王様は何て?」
「別に何も。ただ女官長とかの口の回転はすごかったみたいだけど。戦争が嫌だなんて臆病だ。とか、愛国心が足りない。とか、こんな時に国民を守る義務があるから、普段権力や地位を与えられて皆に敬われているはずなのに。とか、これだから劣り腹の王女は駄目だ、責任感というものがまるでないのね。とか。」
「だったら、自分が戦争に行ったらいいじゃん!」
「行くわけないでしょ。口しか動かさない連中が。だから、もっと不幸な末路を口だけ集団がたどるよう、ヴィクトリア叔母様と打ち合わせに行くの。」
これは巻き込まれたら絶対アカン奴だ。
「じゃあ、頑張ってください。」
と言って私とユリアとコルネはフェードアウトした。頑張れよ、ミレイ!
「屋敷へ戻りますか?」
とアーベラに聞かれたので、少し悩んだ。
「フェーベ河西岸の第一地区へ行く。」
投石とかされているという、ノルド商会の事が気になったし、投石している人がエリーゼに拉致られたらと思うと、それも気になった。
もしも私にできる事が何かあるのならしてあげたかった。
インターネットをポチッとすれば『ガチョウ番の娘』のラストがわかると思うのですけれど、残酷な事が苦手な方には検索はお勧めできません(>人<;)
次話はミュリエラの従姉のエフィミア視点の話になります。どうか、よろしくお願いします。




