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五日目の来訪者(2)

私はアレクサンドラ女男爵に会うのは初めてだったのだが、びっくりするくらいヒルデブラント侯爵と顔がそっくりだった。

ヒルデブラント侯爵が女装しているようにしか見えないくらいだ。二人は双子ではなく三歳の年齢差があるらしいのだが、年齢の違いも感じさせないくらいよく似ていた。


「早かったですね。」

と私はイザークに言った。普通に船と馬車を使えばヒンガリーラントからヴァイスネーヴェルラントまでは片道四日かかるのだ。


アレクサンドラ様は今、女性秘書と一緒にヒルデブラント侯爵とジークルーネに会っている。

その間に私は、イザークともう一人のアレクサンドラ様の秘書と一緒にお茶を飲んでいた。もう一人の秘書というのは、ジークレヒトの従僕のギルベルトだ。


「行きも帰りも馬をかっ飛ばしましたから。」

そう答えるイザークは明らかに疲れ果てていた。ろくに寝ていないのか、目の下の隈もすごい。


「ところでクラリッサは?」

「えーっと・・リサはですねえ。」

私は口ごもった。


「・・司法省の前に、取材・・そう取材に行ってまして。私が様子を知りたくてお願いして!」

「抗議活動に参加しているんですね。全く。おとなしくしとくように言っておいたのに。」


そうなのだ。リサは毎日、カバのぬいぐるみを持ってシュプレヒコールをあげに行っているのである。そして夕方に帰って来ると、毎日どんな様子だったのか私に報告をしてくれるのだ。


「レベッカ様。ジークハルト様に手紙をありがとうございました。」

とギルベルトが私に言った。


「あの手紙がなければ、ジークハルト様もアレクサンドラ様も冷静さを保つ事はとてもできなかったと思います。」

そう言うギルベルトは、三日どころか三年見ても飽きそうにないほどの美青年に成長していた。


「いえ、そんな。」

という私の後方で、お茶の準備をしてくれているユーディットやオルヒデーエ夫人が明らかに心配そうにそわそわしている。

たぶん私とこんな美青年を同じ空間に居させるのが不安なのだろう。


大丈夫です。私は顔の良い男性を見ても『観賞用』としか思わない人間だから。

それにレベッカは顔の良い男性をそんなにたくさん見た事はないけれど、文子はたくさんの顔の良い男性を見てきたから。テレビの画面やらファッション雑誌とかで。だから、顔の良い男性にはそこそこ免疫があります。


「ジークハルトさんはお元気ですか?」

「はい。挿絵画家として充実した毎日を送っておられます。ただ・・・。」

ギルベルトは一瞬口ごもった。


「ご自分が今、幸福だからこそジーク・・レヒト様やジークルーネ様の事を気にしておられました。自分のせいで不幸にしてしまったのではないかと。」

「それはありませんね。」


と私は断言した。


「『あの人達』はどこまでも我が道を行く人ですからね。自分は今不幸で、幸せは遠い世界の遥か向こうにあるとか思うタイプじゃありません。いつだって目の前にある小さな幸せに自分の方が柔軟に合わせられる、そうやって幸せになれる人なんです。」


そう言うとギルベルトは、目を見張った。

私の発言が意外だったのだろう。


実際、私の言っている事は見当違いかもしれない。目の前で母親に死なれ、親戚には嫌がらせをされ、美貌や財産や強運を妬む同級生にいじめられ、本当はすごく辛い人生なのかもしれない。


だけどあの人は、他人の幸せを自分の幸せだと思える人だった。お兄さんの、ギルベルトさんの、そしてコンラートの幸せが彼女の幸せだった。

彼女はそういう人だった。

そんな彼女を、可哀想扱いして欲しくなかった。


「あの人は幸せでした。そう信じる時、あの人の人生は輝くんです。」


「・・・。」

「そうですね。」

ギルベルトの頬に一筋の涙が流れた。その側でイザークさんは引くほど泣いていた。

イザークさんは『ジークレヒト』が生きているって知らないもんね。


私は話題を変える事にした。


「ギルベルトさんのお姉さんはお医者さんなんですね。ヒルデブラント侯爵が、風邪を引いているジークルーネ様の為に呼び寄せたお医者様がギルベルトさんのお姉さんだって聞きました。・・今、クラリッサと一緒に抗議活動に出かけていて留守なんですけれど。あの二人すっかり意気投合しちゃってて。」


「姉はヒルデブラント領民ですからね。死んだ父は領地で侯爵家の主治医をしていたんです。」

「そうですか。」

としか言いようがない。バリバリの王都っ子のフローラとヤスミーンも、すっかり仲良くなって、毎日一緒に出かけているのだが・・・。


「ジークルーネ様のお具合はいかがなのでしょう?」

「もう、すっかり元気ですよ。ヒルデブラント侯爵様は『もう少し寝込んでてくれても良かったのに』なんて言ってますけれど。抗議活動には絶対行かないように、って言っておられましたが、いつまでおとなしくしてますかね。最近は毎日、うちの図書室にある国際法の本を読んで、けけけけ笑っています。何が面白いのか恐ろしくて聞けないんですけれど。」


そう言ったところで、アレクサンドラ様の女性秘書がギルベルトを呼びに来た。ジークルーネが会いたがっているらしい。


「すみません。私はこれで失礼します。」

と言ってギルベルトは部屋を出て行った。


イザークが既に何度目かもわからない大欠伸をする。

「抗議活動がどんな感じか、本当は確認に行きたいけれど、もう駄目だ。限界です。ちょっと眠らせてもらえるでしょうか?」


イザークがそう言ったので、私はメイドにイザークを客間へ案内するよう指示を出した。


私は座っていたソファーの上で伸びをした。


本当はイザークに、ヴァイスネーヴェルラントの王族達は事件について何と言っているのか?戦争が始まる可能性があったりするのか?聞きたかったが、聞くゆとりが無かった。

ヴァイスネーヴェルラントは極小の国で、人口も少なく、軍事力もしょっぼい国だが、発信力は西大陸随一だ。そして扇動された民衆のパワーはこの数日で痛いほど理解した。

ヴァイスネーヴェルラントが敵に回れば、ヒンガリーラントは内側から瓦解するだろう。ヴァイスネーヴェルラントには、それだけの力がある。


「レベッカ様。ユリアーナ様。エリザベート様が王宮から戻られました。お二人を呼んでおられるので本館に来ていただけますか?」

カレナが私達を呼びに来た。

先刻から一言も喋っていないけど、実は私の隣にはユリアがずっと座っていた。


そしてエリーゼは今日は王宮に行っていた。新たな情報を収集する為だ。

というか「戻られました」は、変じゃないの。あの人はこの家の住人ではないのだが。


「何か新しい情報があるのかな?」

と私が聞くと


「これから、国立医大病院にミュリエラさんのお見舞いに行くのでお供するように、との事です。」

「私、国立医大には行ったら駄目ってお母様に言われてるんだけど。」

「侯爵夫人の許可はエリザベート様がおとりになりました。侯爵夫人もエリザベート様の命令には逆らえませんから。その代わり、絶っっ対に騒ぎを起こさないよう、おとなしくしているように!との侯爵夫人からの伝言でございます。」


「善処するよ。」


結論を言うと、また大騒ぎが起きた。

次話は、ルートヴィッヒ王子視点の話です

ちょっと時間を巻き戻して事件の翌日の話になります


よろしくお願いします(^◇^)

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