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地下室の噂(3)(ルートヴィッヒ視点)

「王宮内はどんな感じ?」

と聞かれたので、今度は僕が説明をした。エリーゼも激怒するのではと思ったが、むしろ淡々とした様子で

「ふむ。」

と言っただけだった。


「これで全体像が見えて来たわね。後は、アズールブラウラントの大使館の情報が欲しいなあ。」

「さすがにまだ知らないだろう。」

「知ってるに決まっているじゃないの。あんた大使館を舐めるんじゃないわよ。こういう事件をいち早く知る為に大使館という物は存在するのよ。」

「でも、全てのアズールブラウラント人の犯罪被害に対処するわけではないだろう?それとも、ミュリエラ嬢って人はそこまでのアズールブラウラントにとっての要人なのか?」

「要人よ。未成年で女で、ヴァールブルクの市民権を持っている。ブリュンヒルデ王太女が激怒する全要素を備えているわ。」


「ブリュンヒルデ王太女は、ヒンガリーラントが嫌いだもんな。」

とフィルが言った。


「そうなんですか?」

とヨーゼフが言う。僕も初めて知った。


「そもそも、ヴァールブルクの市民権を持っているとどうしてブリュンヒルデ王太女が激怒するんだ?」

「王太女の政治基盤がヴァールブルクに本拠地を持つ『アルト同盟商人連合』『海軍』そして『女性』だからよ。」

「何でヒンガリーラントが嫌いなんだ?」

「クラウディア叔母様のせいよ。」

とエリーゼは言った。


クラウディア叔母様というのは、父上やフリードリア叔母様の異母妹だ。幼い頃に何度か会った事があるが、容姿もスタイルも身なりも派手な人。というイメージがある。確か祖父の第三妃の娘だった。


「アズールブラウラントの王弟と結婚したんだよな。ブリュンヒルデ殿下とは義理の叔母と姪じゃないか?」

「クラウディア様は底意地の悪い方だから、幼いブリュンヒルデ殿下やブリュンヒルデ殿下の御母上を随分といじめたそうよ。」

「ブリュンヒルデ殿下の御母上って王妃をか?」

「王妃様はヴァイスネーヴェルラントの王女様だったからね。対して自分はヒンガリーラントの王女。自分の故郷の方が大国だってんで、マウントとって、いじめ抜いたの。」

「国際結婚をしておいて、国際関係を悪くしないで欲しいなあ。」

「クラウディア叔母様は頭は回る人だから、王妃の二人の息子には優しくして籠絡していたのよ。二人そろってバカ息子だったからね。良識的な母親は息子達を何とかマトモに教育し直そうとして口うるさくしてますます嫌われる。叔母様はそこにつけ込んで息子二人を自分の派閥に入れていたわけ。そして、自分の派閥を大きくして派閥全体で王妃を迫害して派閥の結束力を高めてたのよ。王妃を貶めて、自分が社交界の頂点のように振る舞って、可哀想な王妃様は息子のどちらかが国王になったら、追放か幽閉かされていたのでしょう。

まさか伝染病が大流行して、王子二人と自分の夫が死んで、自分が散々いじめてきた王女が王太女になるなんてクラウディア叔母様は想像もしていなかったでしょうね。」


「やっぱり国際関係悪くしてるんじゃないか!」

「今、王族同士の仲は史上最悪に悪い、と言えるわ。クラウディア叔母様と仲の悪かったうちのお母様は、責任とってクラウディア叔母様にアズールブラウラントで死刑になって欲しい。とか言ってるわよ。」


「戦争とか起きないよな。」

とフィルが言った。


「私は五割以上の確率で起きると思ってる。」


「叔母様のせいでかよ!」


「ミュリエラ嬢を攫ったバカ共のせいよ。」


嫌な沈黙が流れた。たとえ身内であってもクラウディア叔母様がした事は擁護できない。いじめられていた王妃とブリュンヒルデ王女には同情する。

僕自身、王子でありながら王妃派の女官長とその手下にいじめられてきたから、痛いほど王女の気持ちがわかる。僕は女官長達が憎い。そいつらに好き勝手をする事を許している王妃派貴族達が許せない。


同じ理屈で、ブリュンヒルデ王太女はヒンガリーラント人とヒンガリーラント王室を憎んでいる。その火種に王妃派の貴族子弟共が更なる油を注いだのだ。


「そういえばエリーゼ。」

とフィルが口を開いた。


「アカデミーの男子寄宿舎の『地下室の噂』って知ってるか?」


「・・・知らないわ。」


嘘だ!と思った。本当に知らなかったら「何、それ?」と聞いてくるはずだ。


何で嘘をつくんだろう?そう思って、エリーゼの顔を凝視していると


「何?」

と不機嫌な声でエリーゼが聞き返してきた。


「いや・・・おまえ、ジークレヒトとすごく仲良かったのに全然悲しんでいるように見えないなー、と思って。」


「はあ?」

と、エリーゼはひっくい声で言った。


「あんたの目には、私が心を傷めていないように見えるの?」


見えてるから言ったのだが、怖くて反論できなかった。


そこにドアをノックする音がした。


「エリーゼ様、ヨーゼフ様。よろしいでしょうか?」

ユリアーナ・レーリヒの声だった。

この女がいるという事は、もしかしたらベッキーも?と思ったが、ユリアーナ・レーリヒは一人だった。

肩を落とす僕の横でフィルが嬉しそうな顔をした事に、なんか腹が立った。


「どうしたの、ユリア?」

「救急医療センターに行っておられた侯爵夫人から連絡がありました。コンラート様、意識を取り戻されたそうです。」


「良かった〜。」

とヨーゼフが言った。僕も心から思った。嫌な話ばかり聞いていた中で、唯一の良いニュースだった。


「本当に良かった事。もしも、コンラートが死んでいたらジークルーネが剣と燃える松明を持って司法省を焼き討ちに行ってたわよ。」

「ひー、本当に良かったー。」

ヨーゼフが震えていた。


「私、ジークルーネの所に戻るわ。じゃあね、ルーイ、フィル。新しい情報が手に入ったらまた報告に来てね。」

「おまえが王宮に来いよ。」

「私、忙しいの。」

エリーゼの返答はにべもなかった。


僕だって決して暇ではない。それに、一応僕は王子様なのに。何で年下の従妹にここまで上から目線で指示されているのだろう?

しかし、さっき失言してエリーゼの逆鱗に触れかけてしまったので、余計な事はとても言えなかった。


「僕達も一度王宮に戻ろう。陛下に報告して。クラウスにもコンラートの意識が戻った事を伝えてやろう。」

とフィルが言った。


「玄関までお送り致します。」

とユリアーナが言い、フィルと微笑み合った。

一瞬

「必要無い!」

と言ってしまいそうになり、理性の力を総動員して耐えた。



コンラートの命が助かった事で、ジークルーネ嬢が司法省の前で暴れるという事態は起こらなかった。


だが、別の騒ぎが起こった。あるグループの人間達が、プラカードを持って司法省前広場で騒ぎ立てたのである。

いつも読んでくださり感謝です


次話からまた、レベッカ視点の話になります

司法省の前の広場で騒いでいるのは、剣と松明を持ったジークではないし、ヒルデブラント侯爵が泣きながら転げ回っているわけでもありません。

いったい誰が騒いでいるのか?騒動はどういう方向に転がっていくのか?頑張って書いていこうと思っています。

応援よろしくお願いします^ ^

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