地下室の噂(2)(ルートヴィッヒ視点)
「三日前の事です。」
とヨーゼフは言った。
「ジークレヒトが僕とエリアスに『今から地下室の調査に行くからついて来い』って言ったんです。で、『何の調査?』って聞いたら、『アカデミーの男子寄宿舎の地下室に女の子が監禁されているという噂があるらしい』ってジークが言ったんです。」
「監禁!」
「本当にそんなの発見しちゃったら怖いなあ、と思って『コンラートに頼んだら』って言ったら、『司法大臣と情報大臣の息子が行かなくて誰が行くんだ!』って怒られちゃって、ま、その様子をコンラートに見られて結局四人で地下室を見て回ったんですけどね。」
ヨーゼフとエリアスが同行を頼まれたのは、確かに親が大臣だからだろう。
だが、最大の理由は仮に『監禁事件』があったとしても、二人は絶対に犯人ではない。とジークに思ってもらえたからではないのか?と思う。
「まあ、僕らが見て回れる『地下』って言ったら、半地下の懲罰室と食糧庫だけですけどね。後もう一箇所地下室への扉があるんですけど錆びた南京錠がかかっているしドアノブにもホコリが積もっていたから、ここはまあ、ないかな。って。とにかく、監禁されている女の子なんてのは探した範囲にはいませんでした。ジークは、『何処かに地下に続く隠し階段とかないだろうか?』って言ってたけれど、仮に先生方の個室にあったとしたら僕らじゃわかりませよね。」
「それはまあそうだな。」
「でもまあコンラートが『人を誰にも気がつかれないよう監禁するというのは至難の業だ』って言って、ジークも一応は納得したみたいです。監禁を成功させるには、逃げないよう鎖とかに繋いで、他の人にバレないよう物音を遮断しないといけないでしょう。で、毎日食べ物と水を持って行って、そしてこれが一番大変な事だけど、汚物を運び出さないといけないって。でないとすぐに臭いでバレちゃいます。体を拭いたりお風呂に入れたりとかもしないと人間はすぐ臭くなるし、アカデミーの寄宿舎みたいな所で監禁とか絶対無理!ってコンラートが言ったんです。懲罰室以外の地下室にはトイレがありませんから。」
「なるほど。」
「でも、ジークはまだやっぱり気になったみたいで、親しくしている使用人に探りを入れて回ったんですよね。そのうえ『もしも、女の子を誰かが連れ込んだりとかしたら自分に報告に来てくれ』って言って。その時は『何、言ってんの』と思ったけれど、たった三日でこの事件でしょう。今思うといろいろ不思議というか、不気味だなあ、と思って。」
「噂の方が先行していたって事か?」
と僕は言った。
「だとしたら、それは『噂』なんかじゃない。『予言』だ。」
とフィリックスが言う。
『予言』とは、未来を知っている者がそれを予告する行為だ。
『夕焼けが綺麗だから明日は晴れるだろう』
『狂犬病を発症したので、あの人は数日以内に死ぬだろう』
など、ある程度の科学や医学の知識があれば確実に当てられる未来もある。
だが、今回の事件は知識や経験則で当てられるモノであろうか?
「ジークは誰からその噂を聞いたんだ?」
と僕はヨーゼフに聞いてみた。話の流れからしてヨーゼフやコンラートではないだろう。
「教えてくれませんでした。くれなかったけれど、なんとなく娼館のお姉さんかなあ、って。」
「何故、そう思うんだ?」
「前の日にジークは『歓びの館』に行きましたから。」
それなら100%そうだろう。
「『歓びの館』か。ああいう所って守秘義務が厳しいんだろう。『誰がジークに地下室の噂を話したのか?』と聞いても、誰も絶対何も言わないよな。」
と僕が言うとフィリックスが
「その『守秘義務』の厳しい娼館内で誰かがその情報をジークに話したのか?というのが不思議だけど。他の客が話した事を別な客に話すのは厳禁なのだから。」
と言った。
そうかなあ?と僕は思ったけれど。
僕はそーゆー所に行った事がないからよくわからないけれど、何も向かい合って無言で茶を飲んで、その後口も聞かずに寝室に・・ってわけじゃないんだろう。世間話くらいするだろうし、真偽不明のホラーな噂なんてある意味一番盛り上がる話じゃないのか?
そう思っていたら、ドアをノックする音がした。不気味な話をしていた時だから正直ちょっとギクっとした。
「入るわよ。」
と言ってエリーゼが入って来た。
「お!エリーゼ。入れ入れ。話を聞きに来たんだ。」
と言うと
「知ってる情報は全部司法省に話したわよ。私の方がむしろ続報を聞きたいのだけれど。」
と言われた。
「ヒルデブラント侯爵とジークルーネ嬢に会ったって聞いたけど。」
「会ったけど、語るほどの事は何も無いわよ。ピンクのカバが・・・いえ、何でもないわ。気にしないで。」
「気になるんだけど。そもそもカバはピンクだろ。」
「あんた、意外にベッキーと指向性が一緒なのね。」
と言った後エリーゼは
「男子寄宿舎での捕物の様子を教えてよ。」
と言って来た。なので、フィルが事細かく説明をした。




