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《180万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第二章 アカデミーへ

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コーヒーと豆乳

正直言って、心の中では無ければ良いな、と思っていたのだが。あった。

粉と化す前のコーヒー豆が。


コーヒー好きの(こんなコーヒーがかっ!)とあるお金持ちが、粉になる前のコーヒーを見てみたいと、言ったとかで、コーヒー豆をいくらか輸入していたんだって。


「そのコーヒー豆を少し頂けませんか?」

「かまいませんが、どうしてでしょうか?」

「先程飲んだコーヒーが、私の知っているコーヒーとあまりにも違ったので、自分で淹れて飲んでみたいのです。」


そう言うと、激しく動揺し始める従業員さんとユリア。


「どう違ったのですか?」

と、イザークも聞いてくる。


「バウアーさんが飲んでいるコーヒーもあの味ですか?」

「ええ、普段飲んでいるものと同じ味です。」


お腹が丈夫なんですね。という言葉は、さすがに飲み込んだ。


私は、ユリアに頼んで台所に突撃させてもらった。お湯を沸かす為だ。

コーヒー豆は台所に持って来てもらう。コーヒー好きの某金持ちの為に、豆を挽くミルも南東諸島から輸入していたらしい。それで、コーヒー豆を挽かせてもらった。ゴーリゴリ。


厳密に言えば、豆は収穫した時から酸化する。

だから、本当にこだわる人は、コーヒーの実から果肉を取り除いた状態の白い種子を買い、自分で飲む直前に焙煎して粉にする。

ただ、そこまでこだわる人、つまりおうちに焙煎機がある人は滅多にいないので、コーヒー屋さんでは焙煎済みの豆を売っていて、売る時粉にする。それだけでも酸化がずいぶんと抑えられているからだ。


そうやって、コーヒーを粉にしている私の目に、素敵な物が飛び込んできた。

水を張った桶の中に浸けられた大豆だった。


「この大豆は何に使うの?」

「・・・えっと、それは、従業員の食事に使うのですけれど。」

「少し分けてもらえます?」

「・・えっ⁉︎・・・え?」

「お願いします。」

と言って、笑顔でゴリ押し。


もはや、ずーずーしい奴と思われる事を恐れている場合ではない。

生クリームが、もうほとんど残っていなかったので、豆乳を作ってみようと思ったのだ。そして、ソイラテにするのだ。


私は、手作りの豆乳を作るのを手伝った経験がある。


私が文子だった頃、高校の経済学の授業で『地元の商店街へ行って販売実習をしよう』というカリキュラムがあった。

生徒が向かう商店は「受け入れます。」と、言ってくださったお店の中からクジで選ぶのだが(ちなみに、ケーキ屋と花屋が人気のツートップだった。)私は『豆腐屋』を引き当てたのだ。


なので、私はお豆腐屋さんへ行き、製造からお手伝いをした。

豆乳を作り、湯葉を作り、豆腐を作り、厚揚げと油揚げを作り、それを売って、たっぷり試食もさせてもらった。

おいしかった。いつも食べていた、スーパーで最安値で売っている豆腐とは、もはや別物だった。お値段も別物だったが。


そもそも、豆乳の作り方が普通と違っていた。


通常の豆乳は、大豆を水でふやかして潰し、それを煮こんでから漉して作る。

しかしその豆腐屋さんの豆乳は、大豆を潰した後、おからと豆乳に分け、豆乳を煮こんでいた。

その作り方だと、皮を取る手間がかかり、生産効率は悪いが皮を煮た苦味が出ないので、大豆の甘味や旨味を十分に味わえるのだそうだ。


で、今現在、豆乳作製中。どっちの方法で作っているかって?

もちろん手間がかからない方です。わたしゃ、豆腐屋でも豆乳屋でもないもんで。


手回しできる小型の臼を借りて豆を潰し、清潔な布で豆乳を漉す。

手間がかからないと言っても、それなりにはかかるし、時間もかかるし、周囲の人達も呆れていると思うけれど、でもおいしいコーヒーを飲んでほしかったの。そして、私のやり方を真似してほしいの。

そうでないと、いつか絶対食中毒が出るから。食中毒は怖いから。それで、人が死んだら、本当の本当に悲しいから。


文子だった頃、児童養護施設で一番仲良くしていた友達は、両親を食中毒で亡くした子だった。

その頃まだ、焼肉屋では生レバーが提供されていた。


どこも悪いところの無い、健康そのものな人間が前触れもなく突然死する。それが食中毒だ。


病死と違って、運命だったと諦められない。殺人ほどには加害者の事を憎めない。

どこにも行き場のない苦しみに友人はずっと苦しんでいた。

あんな苦しみや悲しみを誰にも経験してほしくなかった。


そして、泣きながら友人に土下座していた、焼肉屋の店長さんのような思いを、ユリアの店の人達にしてほしくなかった。



「凄いです!本当に牛乳そっくり。」

と、ユリアが出来上がった豆乳を見て目を丸くしている。


豆腐を食べない文化圏の人は、豆乳とか知らないよね。

そもそもこの世界では、大豆は『家畜の餌』と考えられていて、すごーい貧乏な人くらいしか食べないそうなのだ。栄養あるのになあ。

ユリアの店で、大豆がふやかされていたのは、使用人さん達の賄いのスープに入れてかさましする為だったんだって。


「飲んでみる?」

と聞いて、私はユリアに豆乳を差し出した。ついでに私もグビっと味見する。

うん。豆の風味がしっかりしている。


スーパーで売っていた調整豆乳に比べて、がっつり豆の味がするから、豆乳嫌いの人には厳しいかもだけど、この世界牛乳があんまりおいしくないからなあ。

なーんか微妙に獣臭がするし、冷蔵庫が無いからすぐ酸っぱくなるし、それに比べるとほのかに甘味があっておいしいぞ。


「とってもおいしいです!大豆がこんなにおいしいなんて。」

とユリアがキラキラした笑顔で言ってくれたのもお世辞じゃないと思う。


豆乳が無事出来上がったので、私はコーヒー作りを再開した。


ポットの上に茶漉しを置いて、それだけじゃコーヒーの粉が下に落ちるから清潔な布を置いて、その中に入れたコーヒーにお湯を注ぐ。

最初、湿らせる程度にお湯をかけると、細かい泡のような物がコーヒーの上に盛り上がった。

よし、これならOKだ。お湯をかけて、そういう状態にならなかったら、そのコーヒーは消費期限が過ぎているのである。


少しずつお湯を注いでいくと、台所中がコーヒーの良い香りでいっぱいになった。

私のやる事を側で見ていた大人達も、目をまん丸にしている。


台所で立ち飲みをするのはお行儀が悪いので、コーヒーと豆乳は先刻までいた部屋へ持って行くことにした。

なので、ワゴンに載せて運んでいたら、支店長さんが凄い顔をしてすっ飛んで来た。


・・・さすがに、人の家で好き勝手をやり過ぎてしまっただろうか?

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