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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第八章 ジークレヒト事件

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不帰川(9)

ちなみに、ジークルーネは今素肌にユリアのガウンをまとっている。この格好でふらふらすると明らかに不審者・・というより変質者だし、何より寒い。お母様はユリアに服を貸すよう指示した。

下着はストックしておいた新品を渡し、服はユリアが持っている中で一番上等な茶会服を渡した。後ろでリボンを結ぶタイプの服なので多少のサイズの違いはどうにかなるが、でもジークの方がユリアより背が高いから服がはっきり言ってツンツルテンだ。


「お嬢様の服をとって参りましょうか?」

とユーディットが言う。お母様は首を横にふった。

「時間が惜しいわ。屋敷に戻るまでの間なのだから我慢してもらいましょう。ビルギット。ローブを脱いで、ローブとタッセルをジークに貸してあげて。」


ビルギットがまとっているローブは騎士団の制服だ。エーレンフロイト家の紋章が入っている為、服の上からこれを纏えば、ぱっと見エーレンフロイト家の騎士に見える。

お母様はそれに加えて、自分がおそらく雨避けに被って来たのだろうクローシュ帽をジークに被らせた。深く被れば、顔を隠せるし、髪が短いのも一瞬なら誤魔化せそうだ。


「これでいいわ。行きましょう。ジーク、門ではできるだけ俯いているのよ。」

「ほーい。」


大人四人と小娘三人は、そろーっと廊下に出た。廊下は静まり返っている。学生達は副校長がいなくても真面目に食堂に留まっているらしい。

個室エリアを抜け医務室の前を通過し、玄関の手前まで来た時、廊下の向こうから女性の集団が歩いて来るのが見えた。

クーニグンテが一緒にいるので、きっと救急医療センターの女医さんと看護婦や薬剤師達だろう。

白衣の集団が一番年配の女性を先頭にねり歩く姿は、往年の名作ドラマ『白い巨塔』のようでかなりの迫力がありちょっとびびった。


広くもない廊下。某大学の集団行動のようにノンストップではすれ違えないから、私達は立ち止まった。どうやら女医さんとお母様は知り合いだったようだ。挨拶の内容からして、ヘンリクを妊娠した時診察してもらったお医者様らしい。懐かしそうに挨拶して来るお医者様を素気無くあしらったらはっきり言って嫌な貴族である。

そしてものすごく体面を気にする性格のお母様は、笑顔で会話を始めた。


でもまあ、逆に好都合だ。お医者様達の意識がお母様に向いている間にゾフィーがジークの腕を引いてフェードアウトし始めた。看護婦さん達の視線がジークに行かないよう、私とユリアとユーディットが人間の壁になる。ゾフィーとジークは無事、廊下を通過した。


良かった。


と思った次の瞬間、新たなる障害・・じゃなくて新たなる人物が廊下の向こうから現れた。


「アグネス・・ああ、アグネス。どこにいるの⁉︎」

半狂乱、とも言える様相でファールバッハ伯爵夫人と侍女達が、バッファローダッシュして来たのだ。


伯爵夫人とゾフィーは仲が良いし、ジーク様は面識があるし、声をかけられたら身分的に無視もできない。これはヤバいっ!

と焦ったが、ファールバッハ伯爵夫人は二人をガン無視して廊下を駆け抜けた。

貴族としては、完全にアウトな反応だが今はありがたい。ゾフィーとジークはさささっと、廊下を進んで行った。


ファールバッハ伯爵夫人は、私達の事も無視して通り過ぎようとしたので、私は大声で声をかけた。


「みんな食堂に集合していますよ!」


現在地は玄関を右折した所だが、食堂は玄関を左折した場所にあるのだ。つまり伯爵夫人は正反対の場所を爆走していたのだ。


伯爵夫人はグルンとUターン。

「ありがとうございます!不躾な態度をとりまして申し訳ありませんっ!後日必ず謝罪に伺います。」

伯爵夫人の母親、つまりアグネスの祖母がぺこぺこと頭を下げた。


別に非常の時なんだし、謝罪なんてどうでもいいけどさ。ファールバッハ伯爵夫人の慌てっぷりに驚いたよ。年齢が若い事もあって子供への対応がソルト。と思っていたがやっぱり母親なんだなあ、と思い直した。


白い巨塔軍団と別れ、私達も玄関へ向かった。


「アグネス!」

「お母様!」

という大声が食堂から聞こえて来た。副校長もおらず、食堂は表面張力ギリギリに水が溜まったコップのように緊張状態だったのだろう。

そこに、ドッポン!とファールバッハ伯爵夫人が石を投げ込んだのだ。勢いよく溢れて飛び散った水のように食堂は狂乱状態になったようだ。

女の子達の泣き声や金切り声が食堂から響いてくる。


何人かの生徒が教師の制止を振り切って廊下に飛び出して来た。その中にはコルネもいた。


「ベッキー様あああっ!」

と半泣き状態で抱きついて来る。今、それどころじゃないんだけどな!

私はジーク様の所に行かなきゃだし、でもコルネは連れて行けないし、でもコルネがしがみついて離れないし、弱った。

と思っていると


「コルネ!」

と厳しい声が背後から聞こえて来た。誰かと思ったらエリーゼ様だ。


「私はこれから、ミュリエラと一緒に国立医大病院へ行きます。アトマイザーでかけられた薬剤が何なのかわからない以上、入院させた方が良いと医師が判断したからです。」

「アトマイザー?」

コルネが首をひねった。


「貴女、新聞記者の知り合いがいたわよね。」

「デリクさんの事ですかあ?はい。デリクさんは新聞記者です。」

「人は一番最初に聞いた情報を真実だと思い込む傾向があります。貴女は今からその新聞記者の所に行って、今起きている事件を新聞に載せさせなさい。」

「え?でも、私状況がよくわかってないんですけれど。それなのに何をどう説明したら良いのか・・・。」

「貴女は事件が起きた事だけ伝えれば良いのです。記事に載せる為に調査するのも確認するのも記者側の仕事です。新聞に載せるか否か、考える事も新聞社側が決める事です。ただし、明日の朝刊に記事を載せなかったら、ブランケンシュタイン家を敵に回す事になると伝えなさい。」


それは、全新聞社員を徹夜させてでも明日の朝刊に記事を載せなくてはならないだろう。デリクの所の新聞社は。


「で・でも、やっぱり不安ですう。ベッキー様、一緒に来てください。」

「ベッキーは今から、ヒルデブラント侯爵とシュテルンベルク伯爵に会いに行って報告をするという任務があります。それともベッキーを新聞社に行かせて、貴女がヒルデブラント侯爵やシュテルンベルク伯爵の所に報告に行きますか?」

「無理です!」

とコルネは首を横にふった。


「ドリーがついているし。頑張れ、コルネ!」

と私は言った。


「私で良ければご一緒しましょうか?」

と、いつの間にか廊下に出て来ていたリーシアが言った。


「うぅっ。ありがとうございますリーシア様。」

「リーシアにはもう一つ頼みがあるのだけど。」

と私は言った。


「レーベンツァーン亭にいるクラリッサとイザークさんにも、事件について伝えてくれない?帰国した後、アレクサンドラ男爵にお伝えして欲しいの。男爵はジーク様の事をとても気にかけておられるから。」

「わかりました。」

とリーシアと、そしてエイラが言ってくれた。


「私も!」

と食堂から出て来たミレイが言ったが、私はミレイとその隣にいたヘレンに言った。


「二人はエリーゼ様の側についていて。今から医大病院に行かれるそうだから。そしてエリーゼ様の御力になって。」

「わかりました。」

「承知しました。」

と二人は言った。


「じゃあ、行こう。ユリア。」

と言って向かった玄関先で、また生徒の保護者とニアミスした。初対面だが、誰の保護者か一目でわかった。リーゼレータだ。リーゼレータと顔がそっくりだったのだ。


・・・ん?という事は、まさかこの人って?


「テレージア様!」

とお母様が言った。

「アルベルティーナ様ですか⁉︎」

と相手の女性も言った。


やっぱ、お父様の元婚約者か!


またさっきの女医さんのように挨拶から始まって、中身のない世間話をされたりしたら堪らない。


私は

「お母様早く!ヒルデブラント侯爵とシュテルンベルク伯爵に連絡入れなきゃいけないんだから!」

と母をせきたてた。


「火急の時ですので、ご挨拶もせず失礼します。お許しください。」

とお母様は言って、テレージア様の側を通り過ぎた。門の近くまで行った時


「ありがとう、レベッカ。」

と突然言われた。

何か、感謝されるような事があっただろうか?


門の側では門番が、ユスティーナのお姉様のセレスティーナ夫人とお義姉様のアウレリア夫人の二人と話をしていた。門番さんは手元の木板に何かを確認しながら書いている。身分証の提示も求めているようだ。


門の中に入ろうとする人の事は厳しくチェックしているが、出て行く人間はノーチェックだった。

私は

「通りますねー。」

と一応声をかけて門の外に出た。


アカデミーの女子寄宿舎の門は小さいので、物理的に馬車は入れない。門の外では馬車が渋滞していた。さて、うちの馬車はどこだろう?


「奥様、お嬢様!」

と声がした方を見ると馬車の小窓からゾフィーが顔を出した。私達はその馬車に乗り込んだ。


雨のせいで馬車の中もけっこう寒い。騎士団のローブを着ていてもジークは青い顔をして震えていた。

「大丈夫ですか?」

「さっきから寒気が止まらん。風邪を引いたかも。」

「屋敷に戻れば、当家の主治医もいますし薬もあります。もう少し我慢して。」

とお母様が言う。


「我慢だなんて。侯爵夫人には本当に感謝しています。助かりました。ベッキーもユリアも。エリーゼ様にもフィルにも。」

ジークは殊勝な事を言った。


雨の勢いが強くなって来ていた。

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