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不帰川(8)

お父様が副校長やアーベラ達と出て行って、応接室の中には私とエリーゼ様、お母様とゾフィーとビルギット、ユーディットと司法省の文書課長さんと総務課長さんが残った。


文書課長さんは、バイルシュミット家のトルデリーゼさんだ。総務課長さんはミルティア・ギースラーという名前の女性で年齢はトルデリーゼさんと同じくらいだろう。

司法省は二千人くらいいる組織と聞いているのに、女性課長さんがいるなんてすごいね!


トルデリーゼさんとミルティアさんが『検分』の為医務室に行きたいと言ったので、エリーゼ様が二人を医務室に連れて行った。

三人の足音が遠くに消えて行った後、私はドアを開けて廊下に人がいないかを確認した。その後ドアを閉め声をひそめて言った。


「ユーディットとビルギットを信頼して告白したい事があるのだけど。絶対秘密にしてくれる?」


「お嬢様の命令なら、それに従います。」

とユーディットが答えてくれる。


「私のあるじは奥様です。奥様がお認めくださったら従います。」

ビルギットがそう言ったので、私はお母様をじーっと見つめた。


「内容によります。」

とお母様が言う。

「私にはお尋ねになりませんの?」

とゾフィーに聞かれた。


「・・ゾフィーはもう知っているから。ジーク様の事なんだけど。」

「たまたま通りかかった一介の普通の通行人、というのはやっぱりジークなの⁉︎」

とお母様がすごい剣幕で聞いて来た。


「お母様、声が大きいっ!」

「さっさと答えなさい!」

「そうだよ。運河に落ちた後、岸まで泳いで女の子をここへ連れて来たの。アカデミーの制服着てたら正体がバレるから、上着とトラウザーズは運河に脱ぎ捨てたんだって。顔はシャツを被って隠してたから副校長やカレナは気づいていないよ。」

「ジークレヒト様は本当は女性だったのですね。」

とユーディットが言った。


「そうなのではないかと以前から思っておりました。」


「んえ!何で?」

「私はお嬢様に付き添って六年前に、この寄宿舎にやって参りました。その時、ジークルーネ様にお会いして、数ヶ月の間に何度もお顔を合わせました。そして、レーリヒ商会の王都の支店の前で、従僕を連れた見るからに病弱そうなジークレヒト様にもお会いしました。その後、手紙の盗難事件を機にジークレヒト様とまた顔を合わせるようになった時、この方はレーリヒ商会の前でお会いした方とは別人では?と思ったのです。でも、お嬢様や奥様が何も言われない以上口出しをするべきではないと思って黙っておりました。」

「・・そうだったんだ。」


「それで、今それを私共にお伝えになったのは、ジーク様をここから外へこっそりと連れ出したいからですか?」

と、ビルギットに聞かれた。恐るべき飲み込みの速さ。頼りになるなあ。


「そうなの。みんなに協力して欲しいの。」

「承知致しました。ジーク様は今どちらに?」

「ユリアの部屋でお風呂に入ってる。体をあっためる為と、汚れを落とす為。」

「ちなみに、ここにいる者以外で他に誰がジーク様が女性だという事を知っておられるのですか?」

とビルギットが聞いた。


「後、知ってるのは、ユリアとエリーゼ様。カレナやコルネ達は知らない。ユリアは誰にも話してないらしいけど、エリーゼ様が誰かに言ったかどうかはわからない。あ!後コンラートお兄様。」

「それと、後ヨーゼフは知っています。私が伝えました。誰にも言わないようにときつく口止めしておきましたが。」

とお母様が言ったのでびっくりした。


「そうなの?」

「ヨーゼフにジークの事をいろいろ質問していたのです。ジークの事はやはり心配でしたから。だけど、私に聞かれるのを鬱陶しがって段々話してくれなくなったので、仕方なく教えたのです。光輝会事件があった頃の話です。それより!ジークは無事なのですか?怪我とかはしていないの?」

「めっちゃしてるよ。運河の底って岩やらゴミやらゴロゴロしているらしくて、水流にもまれてすり傷だらけ。打ち身もいっぱいだよ。」

「早く案内しなさい。連れて帰って治療します!」


私達は、応接室を出てユリアの部屋に向かった。アネモネの間にである。

「個室のあるエリアはこうなっているのね。」

と、初めてこんな奥まで来るお母様は珍しそうにキョロキョロしていた。


「ちなみに、お母様とゾフィーも今初めてジーク様の事、聞いたって事にしといてくださいね。私にもあの人との今後の人間関係というものがあるので。」

そう言ってから私はアネモネの間のドアをノックした。


「ユリア、私だよ。入っていい?」

「どうぞ。」

と声がしたので、私はドアを開けた。


部屋の中でジークは、椅子に座って髪をタオルで拭いていた。ユリアは、ジークの左腕の傷跡に包帯を巻いてあげている。

二人がぎくっとした顔をしたので、私は二人に

「お母様達にジークルーネ様の事話したの。私とユリアだけでは、ここからジーク様を脱出させられないから。」

と言った。


「そうでしたか。」

とユリアがほっとした顔をしたが、ジークは気まずそうな顔で

「どーもー。」

と言った。


「良かった。あなたが無事で・・・。」

と言ってお母様は涙ぐんだ。

「フィリックス殿下の手紙を読んで、心配で不安で胸が潰れそうだったの。」

「フィリックス殿下の手紙って何ですか?」

そういえばこの人には伝えていなかった。


ゾフィーが、コンラートやクラウス殿下の事を省いてジークに説明をした。

正解だと思う。

コンラートが殴る蹴るの暴行を受けたうえ、懲罰室に入れられたなんて事を知ったら、この人走って男子寄宿舎に帰ってしまうと思う。


「さあ、旦那様や副校長様が戻って来られる前にジークルーネ様を外にお連れしましょう。」

とビルギットが言い私達は動き出した。

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