表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第八章 ジークレヒト事件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

436/561

不帰川(3)(フランツ視点)

レベッカのお父様視点の話になります。

夕食会を始めた時、西の空に稲光が走った。

どうやら、雨も降り出したようだ。その為、冬に戻ったかのように寒い夕暮れになった。食堂の暖炉には火を入れている。

私は

「あいにくの天気だが、皆集まってくれてありがとう。」

と皆に伝えた。


私の名前は、フランツ・フォン・エーレンフロイトという。つい先日大臣に就任したばかりの新人司法大臣だ。

今、テーブルを囲んでいるのは、司法省の13人の課長達とその妻達だ。ようするに自分の新人歓迎会を、自分の家でやっているのである。


私はテーブルを見回した。13人の課長達のうち3人が女性だった。『総務課』『文書課』『機動第五課』の課長である。


『機動課』は、事件の捜査や犯人の逮捕を行う課だ。今までは四課までしかなかったが、私が五課を新設し女性課長を任命した。

新しくできた五課は、家庭内暴力や性的暴行など、女性が被害に遭う犯罪に特化した捜査をしてもらう。なので五課の職員全員が女性だ。


『妻達』は招待しているのに『夫達』は招待していないのか?と思われそうだが、総務課と文書課の課長は独身だ。機動第五課の課長の夫は機動第一課の課長なのである。


課長達には、貴族もいるが平民もいる。

平民の課長達がテーブルマナーで戸惑ったりしないような料理を妻は選んでくれた。

メインのトンカツと鶏の唐揚げは、フォークで刺して二口で食べられるサイズだし、焼き野菜と揚げ芋は一口で食べられるサイズだ。

スープはスープ皿ではなく、ミニマグカップでポタージュスープを出している。ザリガニと餅のドリアはスプーンですくって食べられる。


領地に戻れば、領地の役人や村長達と食事をする機会もある。なので、貴族と平民が一緒に食事をしても気まずくならない料理や出し方を妻はよくわかってくれている。ありがたい事だ。


最初は、見慣れない料理と侯爵家の食堂に緊張していた客人達も、料理を食べると一様に笑顔になった。

酒の勢いもあって皆が饒舌になって来た頃、慌てた様子で執事が食堂に入って来た。


「ユーディット夫人が、お嬢様からの手紙を届けに来られました。今すぐに読んで欲しいそうです。三回繰り返してそう言われました。」


レベッカから手紙とは珍しい。こんな時間に届いた事といい、何か余程緊急な事があったのだろう。


「お嬢様からお手紙ですか?仲がよろしいんですね。羨ましいです。」

秘書課長に新しくなったクリシュトフが酒で赤くなった顔で言う。


「本当に素敵なお嬢様ですものね。」

と文書課長のトルデリーゼもよいしょを始めた。


単純な私はちょっと良い気持ちになり

「手紙をここに持って来てくれ。」

と執事に言った。ユーディットが二通の手紙を持って食堂に入って来る。

「こちらがお嬢様の書かれた物です。」

と言われたので、そちらをまず開いて中を読み、一気に酔いが覚めた。


『お父様。たまたま通りかかった一介の普通の通行人の女性が、運河に浮かんでいた女の子を飛び込んで救出したと言って、女子寄宿舎に助けを求めに来ました。女の子はアズールブラウラントからの旅行者で、アカデミーの男子生徒に暴行目的でかどわかされ、逃げようとして男子寄宿舎の屋上から運河に転落したようです。お父様、すぐに来てください。とても怖いです。お母様とゾフィーと一緒に来てください。家に帰りたいです。お願いだから今すぐに来て、悪い人を捕まえてください。お母様を絶対連れて来てください。私達を助けてください。レベッカ。』


私の顔色が一瞬で悪くなったからだろう。

「旦那様。レベッカに何かあったのですか?」

とアルベルが聞いて来た。アルベルに手紙を渡そうかと思ったがやめた。むしろ、この手紙の内容は客人達と共有するべきだ。客人は司法省の省員とその妻達なのだ。

私は執事に手紙を渡し

「朗読してくれ。」

と頼んだ。


執事が朗読をする間、私はもう一通の手紙を読んだ。その手紙はフィリックス公子がエリザベート公女に当てて書いた手紙だった。


レベッカからの手紙の内容を聞いて、数人の課長達が立ち上がった。一番最初に立ち上がったのは、機動第五課長だ。

私は、フィリックス公子の手紙も朗読した。朗読し終えた時は全課長が立ち上がっていた。


「すぐに参りましょう。ご一緒します!」

と機動第五課長のナターリエ・カーラーが言った。


「ああ、他の機動課長と文書課長も来てくれ。後は任意とする。」

文書課は、被害者や犯人から聴取した内容を文書にまとめる課だ。被害者から聞き取った情報が後の裁判で重要な証拠となる。


「ご一緒します。」

「自分も。」

「自分も!」

全課長がそう言った。


「・・経理課長は、司法省に戻ってくれ。夜勤で残っている機動課全職員をアカデミーの寄宿舎へ向かわせて欲しい。」

総務課長とどっちに頼もうかと悩んだが、経理課長に頼んだ。被害者は女性だ。現場には一人でも多くの女性課長が向かった方が良いと思った。


私はアルベルを見つめた。アルベルは悩んでいるようだった。娘の頼みは無碍にはできないが、女主人として客人を放置するわけにもいかない。

だが、刑務課長のアルミン・フィッシャーの妻が

「奥様。どうかお嬢様の所へ行って差し上げてください。お嬢様は恐ろしい思いをしておられるはずです。」

と言ってくれた。


刑務課は、監獄での罪人の監視をする課だ。今は特に重要な職務として『身代わり屋』に身代わりにさせられた人達の調査がある。身代わりをたてて逃亡した犯人の捜索も刑務課の仕事だ。


アルミンの妻は顔もスタイルも美しいが心も美しい人のようだ。ただ、特に美しいと評判の胸元は、あまり目立たないようなデザインのドレスを着ているので正直サイズがよくわからない。


そして、私達はすぐに出発をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どうか正義がなされますように レベッカがジークについて手紙に書いていないのはこのまま ジークは運河で行方不明になったことにして遠くに逃がすつもりなのかなと思いました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ