版画とは
版画にもいろいろな種類があるけれど、有名なのはやっぱ木版画と銅版画だと思う。
木版画は凸版印刷。銅版画は凹版印刷だ。
木版画は、木の板を彫刻刀で削り、板にインクを塗って紙をペタッと押し付ける。そしたら彫刻刀で削った所が白い線になる。
銅版画は、銅の板を彫り、板にベッタリとインクを塗り込む。その後、板を綺麗に拭き上げると彫られた所にだけインクが残る。そのインクを巨大なプレス機を使って紙に写しとる。
白い紙にペンで描いたような繊細な絵ができるのは銅版画だ。しかし、お手軽なのもお安くできるのも木版画の方である。
両方説明するのもめんどくさいしなあ。
私は木版画の方だけ説明をした。
「・・・東の方の国の技術と聞いているのですけれど。」
という私の説明を、社交辞令なのだろうけれどリサが熱心に聞いてくれる。えー人だ。
「そのような技術が外国にはあるのですね。勉強になります。」
リサは、メモまでとりながら真剣に話を聞いてくれた。
「その方法でしたら、確かに同じ絵柄を何枚も印刷できそうです。ただ、色は単色という事になりますね。」
「向こう側が透けるくらい薄い紙が有れば、色彩豊かな絵を印刷できますよ。」
「まあ、どうやるのですか?」
・・・。
世間話なら、もう十分じゃね。
お客様に気持ち良くおしゃべりしてもらって、それに対して
「知らなかったー。」「凄いですー。」「物知りなんですねー。」「さすがです!」
と言って、ヨイショするのは商売人のセールストークなのだろうけれど、もうしゃべるの疲れたんです。基本、無口な人種なので。
なので、
「いえ、おっほっほ。私ったら、関係無い話を長々と語ってしまって、恥ずかしいですわあ。まあ、この本の題名とっても興味深い・・・。」
と言って話を打ち切ろうとしたのに
「複数の色を印刷する方法を教えてください!」
と、リサがくらいついてきた。社交辞令じゃない。目がマジだ。
凄いな。と、私は思った。
私はリサよりずっと年下だし、見た目も子供だし、そんな相手に
「勉強になります。」とか「教えてください。」って言える人なかなかいないよ。
むしろ、プライドが邪魔をして、知らなくても知ったかぶりをする人とかの方が多いと思う。
出会ってまだ、数十分しか経っていないけれど、私はリサの事が大好きになった。
なので、色版画、つまり浮世絵の作り方を話そうと思った。
文子だった頃、中学校の美術の授業で浮世絵を作った事があるのだ。
私はユリアに頼んで、ペンと紙を用意してもらった。その方がわかりやすく説明できるからだ。
まず一枚の紙に絵を描く。
私は3本のチューリップの絵を描いた。絵心が乏しいので、3本刃のフォークに葉っぱが付いているような絵になっちゃったけど。
その絵を、トレーシングペーパーを使って4枚複写する。
トレーシングペーパーがあるのかどうかが、ネックになると思ったけれど、植物紙ならかなり薄く作る技術はあるらしい。羊皮紙しかない世界だったら難しかったと思う。
で。
① 1枚目の絵の、『1番左の花』の花を除く全ての部分を彫刻刀で削り取る。その絵に赤いインクを塗り違う紙に写しとる。
② 2枚目の絵の、『真ん中の花』の花を、やはり花だけを残し削り取る。そこに白いインクを塗り、既に赤いインクを写しとっている紙を四隅を綺麗に合わせて重ね、白いインクを写しとる。
③ 3枚目の絵は、『1番右の花』の花だけを残して削り取り、そこに黄色いインクを重ねて以下同文。
④ 最後に4枚目の絵は、3本の茎と葉だけを削らず残し、緑のインクを、後は上記と同じ。
そうすると、赤、白、黄色に緑の茎と葉のついたチューリップの絵が出来上がるのだ。
綺麗な絵にするポイントは、インクの位置がおかしくならない様、馬連でする時、きちんと紙の四隅をずらさず揃える事。これに尽きる。
「なるほど!」
と、リサは、明らかに話を聞くのに飽きている感じのイザークの側で、熱心にうなずいてくれている。
「凄いです。ぜひ、やってみたいです!」
こーゆーセリフを言う女性は、99.9%実際にはやりゃーしないのだが、それでも別にいいや、と思えるくらいリサは真剣に話を聞いてくれた。
良い時間だった。
「お茶のお代わりをお持ちしますね。」
と、店員さんが言ってくれた。部屋に通されてすぐ、紅茶と焼き菓子が出てきたのだが、長話をしている間に紅茶を全部飲んでしまっていた。
「何をお持ち致しましょうか?ほうじ茶やコーヒーもございますが。」
一瞬、「ほうじ茶!」と思ったが、ほうじ茶は今日買って帰る予定なのだ。なので、コーヒーをお願いしてみた。
別にコーヒーも買って帰っても良いのだが、そうなるとコーヒーを淹れる為の道具も買って帰らなくてはならないので、荷物が増えてしまう。
せっかくなので、ヴァイスネーヴェルラントがどういう国なのか、若い女性が働きやすい国なのか、聞いてみたい。と思っていたところにコーヒーが運ばれてきた。
頼んですぐに出てきたところをみると、作り置きをしていたのだろう。その証拠に全く香りが無い。
熱々のコーヒーには、砂糖と泡立てられた生クリームが添えられていた。
ちょっと、感動した。
大きな街で、近くに牧場がほとんど無い王都では、新鮮な牛乳とか生クリームとかはとっても手に入りにくいのだ。
さすが大商会は違うなあ。
と、思いつつも、私はまず一口目はブラックで飲んだ。
コーヒーを飲むのは、レベッカの体に戻って来て初めてだ。
吹くかと思った。
・・・まずいっっっ!とゆーか、酸っぱい!!
中途半端なところで終わってすみません。
ちょっと、長くなりそうなので一回区切って二話連続投稿します。
次の話もぜひ、よろしくお願いします。