司法省改革(3)(フランツ視点)
『身代わり屋』
嫌なフレーズだ。
司法の場で『身代わり』など、ろくな物であるはずがない。
案の定調べてみると『身代わり屋』とは、罪人の身代わりになって罰を受ける人を調達する、人材斡旋業者だった。
ある人物が罪を犯し、懲役一年になったとする。だけど、監獄になんか行きたくない!という場合。お金を払って、自分の身代わりを用意してもらうのだ。そして、身代わりになった人間が監獄に行き、罪人は服役期間が過ぎるまで、人目につかない場所でまったりと暮らすのである。
身代わり屋は全て反社組織だ。体を壊して働けず、自分の意思で身代わりになるという人もいる。だがほとんどの人が、借金のカタなどで反社に無理矢理身代わりをさせられた人達だった。
身代わり屋は複数ある。だからそれぞれの身代わり屋が競うように賄賂を司法省に贈って来ていた。
もし罪人が、身代わりを希望したら司法省が身代わり屋に連絡する。そして案件が成立するたび、司法省にも手数料が入っていたのだ。入る手数料は罪の重さや拘束期間で変わる。中には、終身刑の身代わりにさせられていた人さえいた。
何をやっていやがる!私は怒りに燃えた。
貧乏人は罰を受けるのに、金持ちは罰を受けないで済むなんてそんな不公正な事があって良いものか!
罪を犯しても金を払えば罰を受けずに済むとわかっていたら、誰が罪を犯す事を躊躇するだろうか!
そんな悪事の片棒を司法省が担ぐなど、あって良いわけがない!
身代わり屋は、騎士団の力を借りてでも全て潰す。身代わりにさせられ今も監獄に入れられている者や、ガレー船で働かされている者は保護し、金で罪を免れていた者は必ず見つけ出して罪の罰を受けさせる。
大変な手間と労力と時間とそして金がかかるだろうがやらなければならない。
ガルトゥーンダウムめ!
あいつが12年もの長きに渡って、こんなふざけた真似をしていたから、私がしなくても良い苦労をしなければならないのだ。せめて裏金がもう少し残っていたら、民間の人探し専門業者を使って罪人を探したりとかできたはずなのに。
私はイライラとしながら、帳簿をめくった。
ガルトゥーンダウムはニワトリよりも低脳な男だが、入れ替わった罪人の実名はさすがに書いてはいなかった。全てイニシャルである。
だけど、有罪判決が出た時期とイニシャルがわかれば、いったい誰の事なのかは調べればすぐにわかるだろう。
そんな私の手があるページで止まった。
それは五年前の十月の記録だった。八人の人間のイニシャルが書いてある。手数料の数字を見る限り相当重い罪に問われた人々だ。そのうちの一人のイニシャルが『X・Z』だった。
イニシャルがXの人間は珍しい。
・・・クサーヴァー・フォン・ツァミューレン。
五年前の秋、人身売買に手を染めていた孤児院を司法省ではなく情報省が摘発した。司法省のメンツは丸潰れだ。
情報省が司法省より早く悪行に気がついたのは、勘づいた人間が、司法省ではなく情報省に密告したからだ。
我が娘レベッカである。
悪逆非道な犯罪は、国王陛下の逆鱗に触れ孤児院長と孤児院を支援して収益を得ていた貴族達が死刑判決を受けた。
そのうちの一人が、クサーヴァー・フォン・ツァミューレンだ。
まさか、奴が生きているというのか⁉︎
『身代わり』をたてて罪を免れたというのか?
ならば、その身代わりはどうなったんだ?
動揺と怒りで体が震えた。
まさか、司法省はそこまで腐りきっていたのか。いくら何でも信じたくない。
私は他の七人のイニシャルを見つめた。五年も前の事件だ。他の死刑囚のフルネームが思い出せない。でも、八人以上は死刑判決を受けた者がいたはずだ。処刑された者とされなかった者がいるという事だろうか?処刑されなかった者達は今どこにいる?
そいつらはガルトゥーンダウムに感謝しているだろう。その反面、情報省とレベッカを憎んでいるはずだ。
身代わりをたててどこかに逃げたのだというのなら、一刻も早く見つけ出さなくてはレベッカが危険だ。
国際法では、罪人を逃した場合逃した者がその罪人の罪を負う。
ガルトゥーンダウムとその協力者である部下達には、必ず逃した罪人の罪を負ってもらう。絶対に許せなかった。
第二章の『孤児院改革・2』に出て来た孤児院の話です。
もう忘れた。という方は良かったら読み返してください。読み返して頂けますとpv が増えて作者が喜びます。
(^ν^)




