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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第七章 聖少女達

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或る少女(4)

「エ・・エリーゼ様。」

動揺で声も震えた。

何か聞いてみたかった。でも、何を聞けば良いと言うのだろう。もしエリーゼに一周目の記憶が無ければ、迂闊なセリフを言うと気が触れたのかと思われてしまうはずだ。


「えと・・あの・・ハーゼンクレファー公爵夫人ってレティーツァ様以外にもいませんでしたっけ?」

一周目では、外国人のシモネッタ夫人が公爵夫人だった。


エリーゼはまた、遠くを見るような目をした。


「ジゼラガルト様の事?」

「誰ですか、それは?」

「アレミリューラの母親よ。ジゼラガルト様は、ハーゼンクレファー公爵と婚約しておられたから。」

「え!そうだったんですか⁉︎」


『家の格』的にはおかしな話ではない。どちらの家も公爵家なのだから。だが。


「じゃあ、何でレティーツァ殿下と公爵は結婚されたんですか?」

「レティーツァ様が、略奪したからよ。」

「んえっ?」


「婚約していた小公爵とジゼラガルト叔母様の間をうろちょろして、小公爵を誘惑して、なのに周囲には叔母様に嫌がらせをされていると噂をばら撒いて、最後には叔母様に階段から突き落とされたと言って叔母様をクレマチスの塔送りにしたの。」


悪役令嬢系異世界漫画か!!!


そういう事をやる人ってマジでいるんだ!


「濡れ衣を着せられたって事ですか?」

「叔母様は、そう言っていたわ。だいたい階段の一番上に立っていた叔母様に一番下まで突き落とされて、怪我が手首の打撲だけっておかしいでしょう。階段から落ちるって、運が悪かったら死ぬわよ。というか、むしろ運が良くなければ助からないわよ。」


その通りだっ!


階段から転げ落ちる、というのは大惨事なのだ。経験者ゆえ断言できる!怪我が手首の打撲だけで済むかいっ!


「なのに、クレマチスの塔に送られたんですか⁉︎」

「レティーツァ様は王族ですからね。」

「・・そんな。」

「クレマチスの塔送りで済んだのは幸運よ。王族を殺そうとしたのですもの。普通なら死刑だわ。でも、レティーツァ様の言い分はおかしい。と周囲が思ったから、塔送り程度で済んだのよ。お父様達も連座を免れたしね。」

「その後、そのジゼラガルト様という方はどうなったのですか?」

「クレマチスの塔の中でアレミリューラを産んで、五年後に亡くなったわ。アレミリューラは五年間毎日、子守歌代わりにレティーツァ様への恨み言を聞かされて育ったの。」


地獄!


ジゼラガルト様にとっても地獄だが、アレミリューラ様にとっても地獄だ。何でアレミリューラ様がレティーツァ様を殺したのだろう?と思っていたけど、そりゃ殺すかもしれないね。

とゆーか、ジゼラガルト様は婚約してただけで、まだ結婚はしてなかったんだよね。なのに妊娠してたってどういう事?

そして、その妊娠していた婚約者を捨てたんだよね。ハーゼンクレファーという男は!

クズ過ぎる!


マンガだったら、そんなクズ男も泥棒王女も絶対『ざまあ』されて、捨てられたヒロインは突然降って湧いて来たハイスペ男と幸せになるものなのに現実は残酷だ。

ジゼラガルト様は監獄で亡くなり、クズ男と泥棒王女は普通に幸せに暮らしているなんて、他人事ながら内臓が煮えたぎるようだ。


「お母様を亡くされた後アレミリューラ様はどうなったのですか?」

「お父様が引き取ったの。ハーゼンクレファー公は『自分の子供かどうかわからない』と言って認知しなかったから。だから、アレミリューラの身分は母親が貴族でも平民だったのよね。それで、アカデミーに行きたがったんだと思うわ。貴族社会で認められる事はないから勉強して学問の世界で認められたかったのだと思うの。アーレントミュラー公爵夫人みたいにね。とてもイーリス様に憧れていたから。」

「・・どうしてお亡くなりになったのですか?」

「病気だったの。『致死性家族性不眠症』という病気。遺伝病でね。ハーゼンクレファーの血筋に時々出る病気なのよ。皮肉でしょう。実の父親には『自分の子かどうかわからない』って言われていたのに、致死性の病気になってそれで実の父親が誰か証明できたのよ。」


その病名は文子だった頃に聞いた事がある。一切眠れなくなってしまうという病気だ。そして人間は眠れなくなると狂い死ぬのだ。21世紀の地球でも不治の病だった。


なんで、その女の子が死ななければならなかったのだろう。クズな父親が死ねば良かったのに!


「じゃあ、エディアルド様はレティーツァ様の子供なんですか?」

そう聞いたら、エリーゼは表情をわずかにひきつらせた。


「何でエディアルドの名前が出てくるの?」

「『光輝会』を作った人の一人ですよね。『光輝会』をつぶした私の事憎んでるだろうなあって、以前から気になっていて・・・。」

「エディアルドは人を憎んだりする人じゃないわよ。」


アレ?

なんか意味深な発言だな?

『エディアルド』って、名前を呼び捨てにしているし。

まさか、エディアルド様に惚れているとか⁉︎

えっ!もし、そうだったらまるで『ロミオとジュリエット』じゃない。超、仲の悪い家門同士の子供達の禁断の愛。


「エディアルドはレティーツァ様の子供じゃないわ。ハーゼンクレファー公は女性に節操の無い人だから。レティーツァ様は一人も子供を産んでいないけれど、ハーゼンクレファー公には認知しているだけで五人の子供がいるの。」

「それはまた・・レティーツァ様とやらもご不幸な事ですね。」

「優しいのね、ベッキーは。私は同情する気になれないけれど。自分が他の女から奪ったのだから、他の女に奪われても自業自得だと思うわ。そもそもそういう男だとわかって結婚したのだから。エディアルドとレスティウスは、叔母様と婚約していた頃に既に生まれていたのよ。ゴールドワルドラントの大学に留学していて、二股かけてて両方の女性に生ませたの。」


クズだ。真性のクズだ。


女にだらしなくて、庶出子がいて、しかも遺伝病の家系ってなんでジゼラガルト様とやらはそんな男と婚約してたの?ダメ男が好きというタイプだったのだろうか?

そして、そんな男の息子の事がエリーゼ様は好きだったりするのだろうか?


「アレミリューラはいつも『自分の方がお兄様達よりずっと賢いのに』って言っていたわ。」

エリーゼ様は悲しい笑顔で言った。


「アカデミーに通って、勉強して、何者かになってみたかったのだと思うの。でも病気のせいでその夢は叶わなかったわ。」

「そうですか。」


『何者かになりたい』『何かを成し遂げたい』『何かを後世に残したい』というのは、人の普遍的な願いだろう。

トイレを我慢して死んでしまった天文学者のブラーエは、「私の生涯を無駄だと思わせないでくれ」という辞世の言葉を残したという。自分の人生には価値が無かった。なんてそんな悲しい事は誰だって思いたくないはずだ。


悲しかった。

アレミリューラという少女の人生を知ってたまらなく悲しかった。物語の世界にはハッピーエンドが溢れているのに、どうして現実世界は悲しい事でいっぱいなのだろう。不幸な少女が不幸なまま早死にするなんて。どうしてこんな悲しい事が起こるんだろう。

エリーゼが言うように、それならせめて私達はアカデミーでしっかり勉強しないと。彼女の分もアカデミーでの毎日を有意義に過ごしていかないと。心の中でそう決意した。


「そろそろ戻りましょうか。」

とエリーゼが言ったので私は頷いた。


私はこの時気がつかなかった。

エリーゼ様はアレミリューラ嬢の事を「病気だったの」と言っただけで、「病気で死んだの」とは言わなかった事を。

第五章と第六章との間にある『或る日記』は、エリーゼ視点の話で、エリーゼが回想している少女の声はアレミリューラの声です。


第七章完結です。長かった天然痘にまつわる物語はこれにて終了です。長かった・・。そして暗かった。でも書き切ることができてとても嬉しいです。全て読んでくださる皆さんのおかげです。


次話から第八章『ジークレヒト事件』になります。

面白そう。何か気になる。更新頑張れよ!と思っていただけましたら、ブクマや期待を込めて☆☆☆☆☆を押してもらえると励みになります(^◇^)

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― 新着の感想 ―
物語の発端の一部がついに 或る日記の1人はエリーゼもあるかなとは思ってましたが さすがにアレミリューラの方は分かりませんでした 超個人的感想を言わせてもらえば 病気だから無理かもしれないけど、何とか…
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