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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第七章 聖少女達

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或る少女(1)

エリザベート様主催のお茶会は、ブランケンシュタイン家の茶会室で行われた。


以前にも、ブランケンシュタイン家のお茶会に来た事はあるが、その時はガーデンパーティーだった。なので、ブランケンシュタイン家のお屋敷の中に入るのは初めてだった。

そして、ブランケンシュタイン家のお屋敷は想像した通りの、いや想像した以上の豪華さだった。以前一度行った事のある『雪白宮』にも劣らぬ豪華さだ。伝染病が流行ろうとどうだろうと、金という物はある所にはあるのだ。


お茶もお菓子もお菓子がのっているお皿も全てが一級品だ。ヘレンとミレイは慣れているのか落ち着いているが、ユリアとコルネとリーシアは、少々挙動不審になっている。


「今日は皆、私のお茶会に来てくれてありがとう。皆の顔がまた無事に見られて嬉しいわ。」

と、まずエリーゼ様が皆に挨拶をした。招かれているのは、新たにデイムになったボランティア仲間のアカデミー生達だ。


実はこの挨拶がなされる前に一つ騒ぎがあった。ミレイの母親のヴァネッサ夫人がお茶会が開かれる事を知ってブランケンシュタイン家に押しかけて来たのだ。

しかし、ミレイは会う事を断固として拒否した。


「私に会いたいんじゃない。お金が欲しいだけよ。」

と、ミレイは怒気を宿した声で言った。


三年前まで、ヴァネッサ夫人は二件の美容サロンを経営していた。しかし、伝染病が流行り美容サロンは潰れてしまった。後には大量の借金が残され、住んでいた屋敷も借金のカタとして銀行に差し押さえられた。ヒモのような夫は既に他の『女友達』の家に転がり込んでいるという。夫人と夫を繋いでいた絆は金だけである。お金を失えば、彼女は全てを失ってしまうのだ。


そんな中、娘のミレジーナがデイムになり、大量の報奨金を下賜された。それ以来、ヴァネッサ夫人はなんとか娘を手元に呼び戻そうと、あの手この手でミレイに接触しようとしているのである。

だけど、ミレイは母親を完全に無視している。

執事が屋敷の中に入れるのを拒否した為、つい先程まで玄関ドアの側でヴァネッサ夫人は金切り声をあげていた。その声は茶会室まで聞こえて来た。



「挨拶の返事は結構よ。それよりも皆の近況を聞かせてくれるかしら?」

とエリーゼは言った。

そして、質問には主賓の指名がない限り階級順に答えなくてはならない。つまり一番手は私である。


長々とした挨拶をしなくて済むのは良いが、近況と言われるのは逆に困る。話すほどの話題が無い。

ので

「つつが無く穏やかに変わりなく過ごしています。」

と言ったら


「エーレンフロイト侯爵が、司法大臣に任命されたと聞いたけれど。」

と言われてしまった。


それはそうなのだけれども、医療大臣とか教育大臣とかと違って私らの日常に全く関係無い職務じゃない?

関係してくる時があるとしたらそれは、私達か私達の家族が犯罪を犯した時だよ。


「おめでとうございます。」

「良かったですね。」

「素晴らしいですわ。」

と、皆が口々に言ってくれるが、めでたい事なのだろうか?


しかし、ここで

「何も素晴らしい事などではありません。面倒なだけです!」

と答えるほど大人気ない性格はしていない。

私は


「ありがとうございます。」

と、一応答えておいた。


その後。

自分の領地で伝染病が流行った人達は、領地のその後を話し始めた。

まだまだ、どこの領地も復興とは程遠そうだ。『復興税』に大きな期待を寄せている人もいた。

それでも生き残った人達皆で力を合わせて頑張っているようだった。


新しく平民から貴族になった人達は、貴族の流儀のお勉強が大変らしい。私が家庭教師になってやろう、と自分を売り込んで来る人達もいるらしいが、中には明らかに詐欺師!みたいな人も混ざっているそうだ。


「皆、ハニートラップや結婚詐欺には気をつけてね。身分とお金を手にすると、親戚と求婚者が一気に増えるわよ。」

エリーゼがそう言うと、何人かの女の子達が半笑いを浮かべた。思い当たるフシがあるのだろう。どちらも私には縁が無いが。


「でも、私達もいつかは結婚する事になりますよね。『良い男性』ってどういう人なのでしょう?」

と、アグネスが言った。アグネスにはまだ婚約者がいない。ふと、一周目でアグネスは誰と結婚したのだろう?と考えた。

幸福な結婚生活を送ったのだろうか?

他の子達も幸せな生活を送ったのだろうか?


「相手の男性の『良い』ところを探すよりも、『悪い』ところを探した方が良いと思うわよ。そして、それを許せるか許せないかで考えるの。愛は簡単に変化するけれど、許せない事は結局絶対に許せないから。」

エリーゼがなかなか深い事を言った。

だけど私も全く持って同感だ。


結婚は生活を共にする相手だ。愛が無くても生活はできるが、許せない相手とは一緒に暮らせない。

と、児童養護施設で18年暮らした文子さんは思う。

結婚相手は『愛している』人ではなく『許せる』人を選ぶべきだというのは正しいと思う。


私にとって、ルーイ王子は『許せる人』だろうか?お茶を飲みながら私は考えた。


「でも、どちらにしても、結婚はアカデミーを卒業してからの話よね。」

「私、卒業できるかしら?」

「私も心配ですわ。元々勉強が苦手なのに、三年間もブランクがあるのですもの。」

「ユリアーナ様やレベッカ様には無縁の悩みね。ツェツィーリア様も。」

と、エリーゼの親戚のクリームヒルト嬢が言った。


切り返しの難しい話題に困ってしまう。そうですねー。とか言ったら、きっとカチーン!とみんな、なるだろうし。


ここは年長者のツェツィーリア様に返事をお願いするか。と思って黙っていたら、ツェツィーリア様が寂しそうな微笑みを浮かべて言った。


「この場を借りてお伝えさせて頂こうと思っていたのですけれど、私アカデミーを辞めようと思っているのです。」

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