ボランティアの記録(1)
そんな、いろいろな事があった日々。
私が何をやっていたかというと、あちこちの領地で医療ボランティアをしていたのである。
フェーベ街から自宅へ戻った一週間後。ボランティア仲間のユスティーナの実家の領地でクラスターが発生したという情報が入った。
私はすぐさま荷物をまとめ、仲間達とツァーベル領へ向かった。
ツァーベル領は、王都のすぐ近くにある。ゆえに領民は通院や買い物を王都に来てする習慣があり、病院や医者の数がものすごく少なかった。消毒薬や解熱鎮痛剤なども以下同文である。
私は食料や薬を持って、ツァーベル領に駆けつけた。
製紙業が盛んなツァーベル領の製紙工房を一度見学してみたかった。とか、我が家の天使ヘンリクと同時期に生まれた赤ちゃんの顔を見せてもらって、抱っこさせて欲しかった。とかいう理由ではない。断じて、そういう理由からではない!
まあ、天然痘が収束した後、工房で紙漉き体験をさせてもらったし、笑顔の可愛いエメリヒァルト君を何度も抱っこさせてもらったが、それは結果論だ。私は純粋に友人のユスティーナの実家の力になりたかったのである。
でも、エメル君マジ可愛かった。
その後、友人のアグネスの実家ファールバッハ領でクラスターが発生。ユスティーナの実家には行ってアグネスの実家には行かない。というわけにはいかないので、ファールバッハ領へ向かった。今回は弟のヨーゼフもボランティアに参加した。
ファールバッハ領は豊かな土地だった。見た事の無い野菜や花卉がたくさん作られていて、畑はふかふかで柔らかい土をしていて、肥料や安全な農薬の話など参考になる話をいろいろ知れた。
と言っても、王都の別邸で作っている畑はリーバイとニコールと孤児院の子供達に丸投げ状態だ。今年はほとんど畑作りに参加できていない。申し訳ないので、お金を払って雇う農学科生の数を増やした。困窮している大学生が何人も志願してくれた。
ファールバッハ領では、農作物が大豊作だった。しかしたくさんの農民が天然痘を発症したせいで収穫ができずにいた。
なので、ファールバッハ領でしたボランティアは農作業が中心だった。去年農業の勉強をした事は無駄ではなかった。イモを掘りながら私はしみじみ思った。
その後、ブランケンシュタイン公爵領で天然痘が発生した。
ここは絶対に行かなければならない。無視をすれば友人達とみんなまとめて石を抱く運命になるだろう。
ただこの地には、患者の数を遥かに超えるボランティアが集結した。ボランティアに行く場所はボランティア自身が選べるので、諸々の理由からここにはたくさんのボランティアが集まったのだ。
当然、ボランティアがまるで集まらない領地もある。本来は医療省かどっかがボランティアを管理して、公平に行き渡るよう配分すべきなんだと思う。だけど本当にそういうシステムになって
「ではエーレンフロイトさんは、ガルトゥーンダウム領に行ってください。」
とか言われたら超困る。王妃派貴族の貴族領の領民には罪は無いが、真摯に誠実に救援活動を行えば、自分達を嫌っている人が改心して感謝され仲良くなれる。という幻想を持てるほど私はオプティミストではない。
残念ながらボランティアに力を注げば注ぐほど、気付かされるのは、世の中には分かり合えない奴がこんなにもいるという現実だ。
それでもボランティアを続けられるのは、ささやかな喜びや感動で胸が震える。そんな瞬間が時々あるからである。
結局ブランケンシュタイン領でもやったボランティアのほとんどは農作業だった。
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