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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第七章 聖少女達

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大陸歴317年春(2)

前話に引き続き、残酷描写があります。

ブラウンツヴァイクラントでも、天然痘は大変な数の死者を出した。

農民が死ねば、農作業が行われず耕作放棄地が増え作物の収穫が減る。商人が死ねば商品の流通が止まり、生きていくのに必要な物資が手に入らなくなる。物資が不足すると物価は上がっていく。

ヒンガリーラントでもそうだった。だが、ブラウンツヴァイクラントの被害はそれ以上だった。


食料や燃料や薬が不足し、国民は飢餓に苦しんだ。栄養状態が悪くなると他の病気も流行るようになる。人々は一切れのパンの為に犯罪に走った。命は軽視され道徳は崩壊した。弱い立場の人達から飢えて死んでいった。


そんな中で、ついに苦しむ民衆が放棄し革命が始まった。



原因は『麦角』だった。


『麦角』って何?と思われた方には第六章の『収穫の秋』を読み返して頂きたい。


Aという農業の盛んな領地があった。AはBという商業都市に麦を売った。その麦から麦角が発生した。何十人もの人々が苦しみ、五人の人間が死んだ。

Bは麦を返品するから金を返せ!とAに詰め寄った。更に莫大な慰謝料を要求した。


だがAに返す金は無かった。元々、税金を払えば生活必需品を満足に手に入れる事もできない貧しい地域だったのだ。

なのでAは、自分達は悪くない!自分達からカネをむしり取る為Bの街の人々が、自分達で麦に毒を混ぜたのだ。と言い張った。


怒ったBの人々は、中央に訴え出た。Bの街の執政官は国王の寵姫の親戚だった。親戚の権力を利用し執政官は軍を動かす事に成功した。

国軍はAの村の人々に、カネを払わないなら村を焼き尽くすと言った。村人は武器を手に取り抵抗した。そして国軍が負けた。


伝染病のせいで軍も飢えていたのだ。そのうえ給料も満足に払われず軍の人間にも不満が溜まっていた。ろくな訓練も行われてはいなかった。しかもそんな自分達をアゴでこき使うのは、王宮で贅沢な生活をしている王の寵姫の身内だ。忠誠心もやる気も最初から軍には無かった。


対して農民達は死に物狂いだった。貧しくとも農民は肉体労働者でそれなりに体が鍛えられている。鎌やナタなどの凶器も扱い慣れていた。勝負はあっけないほど簡単についた。国軍は尻尾を巻いて逃げ出し、農民達はBの街の執政官を同じ街の人間に毒を盛った犯人として、公開処刑にした。


一瞬の勝利に沸いた農民達だったが、自分達が国家と王家の敵になった事はわかっていた。彼らは国に逆らう事に決めた。自分達から飢え死に寸前なほどの税を搾取し、贅沢に暮らす王室に従うつもりはもはや無かった。彼らは武装蜂起した。そして周辺の街々に協力を呼びかけた。

その呼びかけ方は残酷だった。街を包囲し、自分達の仲間になる事を強要する。喜んで仲間になる人達もいた。だがなりたくないという者もいた。そのなりたくないと言った者を街の公共広場に集め、見せしめとして皆殺しにした。


その噂が広まると、他の街の人々はNOとは言えなくなった。反乱軍は右肩上がりで人数を増やしていった。

中央が再び軍を動かしたが、軍が完敗した。

そして反乱軍は冬の王都を包囲した。するとすぐさま国王は、お気に入りの寵姫達を連れ王都から逃げ出した。反乱軍は王都を蹂躙し、置き去りにされた王の側室や側室の子供を処刑した。


ブラウンツヴァイクラントの国王は暗愚な王だった。政治に興味が無く大臣達や王太子に政務を丸投げし、自らは何十人もの側室達と自堕落な生活を送っていた。とにかく女性、しかも10代の若い娘が好きで庶出子も三十人以上いる。国民が飢え死にしていく一方で、王と王の寵姫達は贅の限りを尽くした生活を送っていたのだ。


しかし、だからといって反乱軍が『正義の味方』なわけではない。彼らは烏合の衆であり政治的信念を持つリーダーも、国をこうしていきたいというイデオロギーも無かった。ただ、今まで頭を押さえつけられていた事に反発し、怒り、暴れ、盗み、犯し、殺す。それに夢中になっていた。彼らは統率のとれていない暴徒であり、醜悪な犯罪者集団だった。


そんな連中の仲間になどなりたくない。けれど、殺されたくもない。という人々は国を捨てて逃げ出した。国境を接した国々に身一つで亡命して来たのだ。ヒンガリーラントは、ハーゼンクレファー領とディッセンドルフ領が、ブラウンツヴァイクラントと国境を接している。この二つの領地には、数え切れないほどの難民が押し寄せているらしい。だが私の家はこの二つの家門と仲が良くないので、ぶっちゃけ仲が悪いので、具体的な事はよくわからない。


貴族だろうと平民だろうと、ブラウンツヴァイクラントに親戚や友人がいる人達は皆大切な人達の事を心配している。

私のお母様もその一人だ。お母様には三人の兄と二人の姉がいたそうだが、下のお姉さん以外の兄弟は皆死んでしまった。その下のお姉さんは、ブラウンツヴァイクラントの人と結婚し、息子が一人と娘が二人生まれたらしい。


実家であるシュテルンベルク家へ戻って来てくれたらいいのだけど。とお母様は心配している。だが、ブラウンツヴァイクラント国内が大変な混乱状態で連絡のつけようがないそうだ。ほんと、こういう時『スマホがあれば!』って思ってしまう。


胸の悪くなるような話ばかりしたので、ここら辺でいい話も一つしようと思う。ヒンガリーラントの南東にある小さな山国、ヴァイスネーヴェルラント。この国にはついに天然痘患者が出なかった。

小さな国ゆえ食料自給率が低く、完全に鎖国してしまうと国民が飢えてしまう。なので普通に国境を開放していた。入国審査を厳しくし過ぎると商人が寄り付かなくなるので検疫も割とぬるかった。ヴァイスネーヴェルラントはヒンガリーラントを含む六つの国と国境が接しており、その全ての国で天然痘が流行したのにヴァイスネーヴェルラントには入り込まなかったのである。


その最大の理由は、早い段階で国民のほとんどが種痘を接種したからだろう。特に国境周辺で働く人達の種痘接種率は100%だった。

ヴァイスネーヴェルラントは種痘の専売権のうち一割を持っていた。それと引き換えにヴァイスネーヴェルラントはたくさんの食料を輸入した。ヴァイスネーヴェルラントでは辺境の小さな村も含めて、三年の間餓死者ゼロだったらしい。


ヴァイスネーヴェルラントは、『文化を売る国』で、その中でも特に本の出版に力を入れている。そして引きこもりの隔離生活が続くと人は本を買うのだ。この三年間で過去十年と同じほどの数の本が売れたという。

飢えて犯罪に走る人がいる一方で、お金に困っていない人、社会の混乱の中でお金をますます儲けた人もいる。例えば、製薬業で有名な某家門とか・・・。

そして天然痘が収束した時、ヴァイスネーヴェルラントも三年前よりお金のある国になっていたのだった。


製薬業で有名な某家門とは、ヒルデブラント家の事です。

ヒンガリーラントで一番お金持ちの貴族家はますますお金持ちになりました。

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