ジークルーネの叔母の話
「えっ⁉︎ジークルーネ様の叔母さんって、小説家なの?」
「はい、そうです。」
「知らなかった。会った事ないし。・・・たぶん。」
「小説家という職に就く事を一族の方達に反対されて、縁を切られているそうです。10年以上前にヴァイスネーヴェルラントに移住して、ヒンガリーラントには一切戻って来てないそうですよ。」
「そうなんだ。どういう本を書いているのか知ってる?読んだ事ある?」
「ありません。20歳以下は読んではいけないと、指定されている本ですから。」
・・・。
R指定かいっ!
そりゃ、貴族社会からは縁を切られるかもなあ。
「でも、ヴァイスネーヴェルラントでは、とても人気の作家なのだそうですよ。デビュー作で、いきなり大きな賞をとったそうですけれど。確かに、その作品はとてもドキドキハラハラして、すごく面白かったです。・・・と、その本を読んだ私の伯母が言っていました。」
「・・・どんな内容かあらすじ知ってる?」
「・・・はい。伯母が教えてくれました。」
「私にも教えてくれない?」
「いえ、でも・・。それを知ってしまうと、将来その本を読む事になった時、面白さが失われてしまいませんか?と言いますか、失われてしまうような内容の本なのです。」
「私は、好きな本は何回でも読み返す派だから、それは大丈夫?将来その本が手に入るという確証はないし、今すごく内容が気になるんだもの。」
というか、もし今回も18歳で死んでしまったら、R 20の本読めないもんな。
「わかりました。題名は『六花荘事件』と言います。六花荘と呼ばれる館で、その・・・。」
ユリアは、雪のように白い肌を、わずかに赤くさせて咳払いをした。
「・・ご・強姦殺人事件が起こるんです。」
そう言って、ますます顔を赤くさせた。
うん・・それは、なるね。R指定に。
「六花荘は、人里離れた山中にある貴族の別荘です。主人公の『私』は、小説家で六花荘を所有している貴族の友人で、冬の間別荘を借りて、館内に閉じこもって仕事をしています。そしてある吹雪の日、道を見失った人達がたくさん助けを求めて六花荘にやって来ます。観光中の夫婦、行商中の姉弟、旅先で病気になった夫を見舞いに向かっていた継母と義理の息子、野鳥愛好家、雪氷学者、正体不明の人などなどです。そうして、見ず知らずの人達が次々と集まる中で、身の毛のよだつような事件が次々と起こるのです。」
ようするに、これはミステリー小説って事だろうか?この世界にも、ミステリー小説というジャンルがあるんだ。正直、とても嬉しい。
「六花荘は、本館と東館と西館から成っていて、男性が東館、女性が西館に宿泊します。そして、事件が起こった後『私』は、貴族家の当主と一緒に、時には別々に犯人を探します。事件の状況や証拠、登場人物の行動などは全部作品内に書いてあるので、注意深く読むと誰が犯人なのかは読み手にもわかります。わかるのですが・・実は私、読んでいても全然わからなくて、なので、作品は『私』の一人称小説なのですけれど、『私』の言う事は本当に信頼できるのかな?もしや、『私』が犯人なのでは、とか思ったんです。実際、『私』の行動には妙なところがちらほらとあって、とても気になるんです。」
・・・そうか。それは気になるね。だけど私は、今君が言った『実は私、読んでいても全然わからなくて』というフレーズの方が気になるよ。
もしかして、君、読んだの?R 20の作品を。
「だけど、最終章を読んだ時、世界観がひっくり返るんです。そこで私は、最初からまた読み返してしまいました。」
そーかー。読み返したのだね。
「実は、事件の被害者は、全員男性だったんです。」
「・・・。」
「・・その、性犯罪ですから・・私、当然のように被害者は女性だと思っていたのです。なので、事件は西館で起こったものだと思っていました。でも、事件は東館で起こっていたんです。被害者の名前は、苗字しか書いてなくて、そして夫婦や姉弟、義理の母子と、異性で苗字が同じ人達が何組も出てくるので、気付けなかったんです。事件が起きたのが東館で、その時刻に東館にいた人が犯人となると、誰が犯人なのかは読み手にもわかるんです。小説だからこそ、読者が騙されるというか、演劇ではできない内容なんです。『私』も、男性なのだとばかり思ってましたけど・・友人である貴族の当主が男性なので、でも実は女性だったんです。」
それはすごいな。確かに、知らずに読んだら、えーっ!てなると思う。
そして、ただようBL臭。お子様が読むのはアウトだね。むしろ21歳以上ならOKというのにびっくりだよ。それを既に、読了している君にもびっくりだよ。
いろんな意味で衝撃的な物語だ。そして、それを書いたのが、知り合いの叔母さんというのが最大の衝撃だ。
「他にも、犯人が人を殺すシーンから始まって、主人公が犯人がしていた偽装工作を一つ一つ見抜いていく話とか、10年以上前の未解決の殺人事件を、被害者の妹の話を聞くだけで主人公が解決してしまう話とか、そんなちょっと怖いけれど、でもとてもドキドキする素敵な話を書いておられるんです。・・・・と伯母が言っていました。」
急に戻って来たな、伯母さんが。
「確かに面白そうだけど、私がその本を買うのはダメなんだろうね。」
「シュトラウス先生が、一緒にいるのでは無理だと思います。」
「いらっしゃらなくてもダメですよ。お嬢様!私が許しません!」
ずっと、側で話を聞いていたユーディットにそう言われた。
でも、いつかジークルーネ様の叔母様の書いた話を読んでみたい。
その為にも絶対21歳まで生き残ってやる!
絶対、絶対長生きするぞー、おーっ!と思ったけれど。なんか、ユリアがミステリー小説マニアな事や、自分の好きな事の為なら、ルールをわりと平気で無視する事とかが、将来私が殺される殺人事件のフラグのような気がして怖い。
バッドエンド回避の為に、フラグをポキポキ折りつつ、準備を重ねていかなくては。と、私は決意を固め直した。