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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第七章 聖少女達

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死と生と(2)

感染症の隔離区域内で死んだレントの遺体は、感染症患者と同じ仕方で葬られた。

亡骸は小舟に乗せられて火葬場に運ばれ、全てが灰になるまで焼かれる。その灰は、王都の外の深い谷に捨てられるのだ。だから墓を建てることはできない。


「その谷には『死刑囚の灰』も捨てられているんだ。つまり、レントの兄貴の灰もあるって事だ。だからレントは寂しくないよ。」

とデリクがコルネに言った。


「『紅蓮の魔女』の灰とかもそこにあるの?」

と私が聞くとデリクは首を横に振った。


「信奉者共が、谷を聖地化したら困るから、彼女の灰は海に捨てられたんだ。」

「なら良かった。」


レントは遺言証を残していたらしい。それによると『アンネリエの肖像画』だけはコルネに譲り、残りの絵や私物は全てマルテに譲るという事だった。捨てても売っても良い。好きに処分して欲しい。との事だった。


「欲しい物があったら、コルネリア様が持って行ってください。絵や画材を是非とも遺品として。」

とマルテは言った。


「レントさんの描く絵はどれも美しかったけれど、最後まで筆を入れ続けた絵はことほか素晴らしい絵だったんですよ。あの絵はできる事なら、たくさんの人に見てもらいたいです。」

「色は暗いけどな。」

とデリクが言った。

「何言っているんだい!ああいうジャンルの絵があるんだよ。『水墨画』と言って、黒いインクだけで描くんだ!」

とマルテが言った。


「何を書いた絵なの?」

と私は聞いた。


「レベッカ様達がフェーベ街で働いている姿ですよ。どうして黒い色しか使わないのか聞いたら『真実を美化しない為』とレントさんは言ってましたよ。

だから、美しい絵なわけではないんです。ただ、とにかくすごい絵なんです。レントさんの命が込められたような。迫力のある絵ですよ。」


なるほど。だからレントは、いつも向かいの宿屋からこちらを見ていたのか。


別に私達はレントの前で、止まってポーズをとった事は無い。レントが自分の目で見た一瞬一瞬を、頭の中で再構成して描いた絵なのだろう。


見てみたいような、ちょっと見るのが怖いようなそんな気がする。私が働いている絵って、私が何をしているところ?と聞いて

『斧で薪を割っているところ』

と言われて尚更見るのが怖くなった。


まあ、どちらにしてもここを出た後の話だ。私もコルネもマルテも伝染病が収まるまで隔離区域からは出られないのだから。


レントの遺体が小舟に乗せられ岸を離れて行った時。見送るコルネの友人達は皆泣いていた。

レントは33歳のおっさんで、顔色が悪くやつれていたけれど、顔は良かったし声が抜群に美しかった。一応独身だし、友人達の中にはけっこう本気で憧れていた人もいたようだ。本音を言うと私も彼がけっこう本気で好きだった。私の作ったチャーハンを美味しそうに食べてくれていた時の事を思い出すと涙が後から後からこぼれて来た。


二日後。教育的指導の旅に出ていたエリーゼ様と側近達が戻って来た。

もう泣いている人はさすがにいなかったし、コルネも普段通りにせっせと働いていたがエリーゼ様は何かを察知したらしい。


「何か事件でもあったの?」

「エイラがリーシア様の義妹に暴力を振るわれて怪我しました。後、ベッキー様が三人のクソジジイとクソオヤジを半殺しにしました。」

「何を言っているの、ミレイ!」

私は抗議した。


「四分の三は生きていたわ!」

「五分の二くらいしか生きていなかったぜ。」

とデリクが言った。


「この人どなた?」

とエリーゼに聞かれたので、コルネの父親の友達の新聞記者で、コルネの父親が死んだ事を説明した。


「コルネは大丈夫?働かせないでゆっくり休ませておいた方が良いのではなくて。」

とエリーゼがコルネを気遣う。

「んー、でも本人が、動いていた方が気が紛れるって言うんですよ。休ませても、鬼気迫る感じで絵を描き続けているし。」

「そう。あなたは大丈夫?」

「ええ、まあ一応。覚悟はしてましたし。でも、ちょっと人生感は変わりましたね。」

「どんなふうに?」

「私の夢は、曾孫や玄孫に『やっとくたばってくれた』と思われるくらい長生きする事だったのですけれど、やっぱり自分が死んだ時は周りの人に泣いて欲しいなと思いました。お葬式にもいっぱい人が来て欲しいです。」

「くだらない話を聞いて時間を無駄にしたわ。食料の備蓄に問題はなくって?」

「くだらないって、ひどくないですかっ!」


河を流れて行くレントを見ながら、皆が泣いているのを見て、ちょっと思ったんだ。


文子が死んだ時泣いてくれた人はいたのかなあ?って。


お葬式にはどれくらい人が来てくれたのだろう?お金がもったいない、って思われて葬式も開いてもらえなかった、とかならちょっとへこむなあって。


一番の親友が生きていたら、親友くらいは泣いてくれたかもしれないが、彼女は私と同じバスに乗っていたのだ。彼女は、声優のコンサートへ行く為に。バスでの席が隣同士であった為、彼女も死んでしまった可能性が高い。お金の節約の為に親友と二人合同葬にされていたりして。いや、そもそも大規模交通事故は、被害者全員が合同葬なんて可能性が高い。


「それより、盗みを働いていたボランティアとかはどうなったんですか?」

「聞きたい?」

空気が、事故を起こした毒ガス工場の風下くらい悪くなった。いつも、アルカイックスマイルを浮かべているエリーゼから笑顔が消えている。


「またでいいです。」

「え?俺聞きたいけど。」

デリクがそう言った。空気を読め!マタと言ったらマタなのだっ!


「そう言えば、この話の流れで言うのもどんなものかと思うけれど。」

エリーゼも露骨に話題を変えて来た。


「あなたのお母様、無事出産されたそうよ。男の子ですって。」

「えーーーっ!」


私は両手を天に掲げた。


「男の子、弟、うわーっ、やったー。神様ありがとう!お母様おめでとう!」

「良かったなあ。未来のラーエル伯爵だな。」

とデリクが言った。


我がエーレンフロイト家は侯爵位以外に、伯爵位と男爵位を持っている。なので、その子は将来伯爵になる事になる。


「おめでとう。」

とミレイやエリーゼの側近方が言ってくれる。


「その二日前には、ユスティーナのお兄さん夫婦の所にも男の子が生まれたそうだから、アカデミーでは同級生ね。」

「おお、それは良かった。」

エリーゼの言葉に私は飛び跳ねながらうなずいた。


亡くなってしまう人もいる。だけれども新しく生まれて来る命もある。


その子達の未来がより良いものとなる為に。伝染病との戦いに必ず勝利しなくてはならない。今、心からそう思った。

レベッカの夢については、第六章の『ベティーナの思い』で紹介しています。


いつも読んでくださってありがとうございます。ブクマや評価、いいねをつけてくださり感謝します^_^

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