大陸歴314年という年(5)(エルヴァイラ視点)
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医療区域に指定された場所に行くと、教え子達が出迎えてくれました。
「私達、主にここで活動しているんです。」
と言って、リーゼレータ嬢が案内してくれたのは『レーベンツァーン亭』というホテルでした。
私達のいたホテルよりは小さいですが、家庭的な暖かい雰囲気のホテルです。エントランスの横に食堂があり、そこにテーブルとイスの他ピアノも置いてありました。そのピアノをミレジーナ嬢が弾いていました。
食堂の横にキッチンがあり、そこで作った料理を医療区域と隔離区域に配っているそうです。キッチンの横には広い中庭があり、そこに即席の窯が作られていました。そこで、患者が使った木製の食器やシーツ、衣類を焼いているそうです。
「料理作りと、汚れ物の焼却が私達の主な仕事です。」
と、ユスティーナ嬢が言いました。
「ボランティアの人も一時期多かったのですけれど、今は少ないので部屋が余ってます。先生とお嬢さんの二人で一部屋使ってください。」
私達の部屋の隣がちょうど空いてます。とリーシア嬢が言いました。
リーシア嬢はエイラさんと同じ部屋を使っているそうです。
二人部屋ですから今までのホテルより手狭ですが、遊びに来たわけではありません。大部屋に雑魚寝も覚悟していたのだから十分です。
二室だけあるスイートルームは、ドクターとエリザベート様が使っているそうです。
「あら、レベッカ様は?」
と私は聞きました。レベッカ様の部屋については、コルネリア嬢にユリアーナ嬢、更に普段アカデミーでは別室のアグネス嬢やリーゼレータ嬢が
「レベッカ様と同じ部屋が良い!」
と大騒ぎし、かと言って護衛騎士の方が別部屋というわけにもいかず、レベッカ様、護衛の女性騎士四人、コルネリア嬢、ユリアーナ嬢、お二人の侍女のカレナさんとドロテーアさん。アグネス嬢、リーゼレータ嬢で、一番部屋代が安い大部屋を使っているそうです。
仮にも侯爵令嬢が、硬いベッドの大部屋だなんてレベッカ様の辛抱強さには頭が下がります。
「どうして、ボランティアの方が減ったのですか?」
と、娘のファリアが心配そうに聞きました。何か、辛くて我慢できない事があったのだろうか?と私も不安に思いました。
「この区域は、貴族の方の療養患者さんが多いんです。」
とオルガマリー嬢が言われました。
医療用の隔離区域は王都内に四箇所あります。
一つ目は国立医大の敷地内。ここには、症状が極めて重い人や基礎疾患のある人が収容されたそうです。有り体に言えば、お亡くなりになる可能性が高い方々です。
残りの三箇所は、ここフェーベ街、花街、第三地区の貧民街です。
その三択となると、比較的軽症の貴族の方は当然フェーベ街を選ぶでしょう。なので、ここにいる患者のほとんどが貴族か平民の富裕層なのだそうです。
そう言った、普段お近づきになれない貴族や富豪にお近づきになりたい、体と心が弱っているところにガンガン付け込みたい。という邪心を持った若い女性が当初殺到したそうですが、恐ろしい看護婦長ともっと恐ろしいエリザベート様が即座に蹴散らされたそうで、今現在残っているボランティアはエリザベート様とそのお友達のグループの他は、後1グループだそうです。
荷物を置いた私とファリアは、まずお隣の御主人に会いに行きました。
どんな言葉をおかけしよう。と、不安でした。ご家族からの手紙も預かっていますが、目の見えない身では更に辛く感じられるのではと、心配になりました。それでも、手紙を預かっているのですから会いに行かないわけにはいきません、私は看護婦の案内で病院へ向かいました。
フェーベ街に昔からあるという診療所に患者さん方は収容されていました。
お隣の御主人の病室は二階にある六人部屋でした。部屋の中からは意外にも笑い声なども聞こえて来ました。「新しいボランティアの人達です」と看護婦さんが紹介してくれました。
「あ!エルヴィおばちゃまにお姉ちゃまだ。」
と三歳になるユウルが言いました。隣の家の次男であるユウルは父親のベッドの上に座って父親に甘えていました。もうすっかり元気そうです。
「ネーフェ夫人。それに、ファリアちゃん。」
隣の御主人が言われました。
お隣の御主人は、左目に眼帯をされていました。黒い眼帯で、猫の肉球の模様が刺繍されています。でも、右目はしっかり見えているようです。ファリアの顔を見分けられたのですから。
「家族は、どうしていますか?元気にしていますか?」
と向こうから質問をして来られました。本当のところは、いろいろなショックで打ち萎れておられましたが「お元気ですよ。」と私は嘘をつきました。
「本当は、ボランティアに来たがっておられたのですけれど、赤ちゃんがいるから諦められたんです。」
「そうですか。無事で良かった。」
そう言って嬉しそうに微笑まれました。
ファリアが左目をじっと見ている事に気が付かれたのでしょう。
「ああ、これね。目の中に膿が入ってね。」
と苦笑いしながら言われました。
「い・・いえ。肉球だなあ、と思って。」
「そうなんだよ。ボランティアのお嬢様方が何個か作ってくれたんだ。花とか小鳥とか、カエルとかね。」
・・カエルの刺繍を誰がしたのか、聞かなくてもわかる気がしました。
「かっこいいです。ノスリ将軍みたい。」
ノスリ将軍は『勇者ブラウン・シュガーの冒険シリーズ』に出てくる将軍の名前です。片目に怪我をしていて、眼帯をつけているキャラクターなのです。
隣の御主人は、かっこいいと言われてデレデレです。同室者が全員男性なので、ヒューヒュー、と野次が飛びます
「うぉっほん!」
と、看護婦さんが咳払いをしたらピタっとやみましたが。
でも、体も何よりお心もお元気そうでほっとしました。失明したのは、どうやら片目だけだったようです。不便ではありましょうが、両方見えなくなるより何百倍もマシな事です。痘痕もそんなにひどくありませんでした。見たところ顔より腕に痕がたくさん残っているようでした。他の同室者にも大なり小なり痘痕がありますが、目を背けたくなるほどではありません。ユウル君に至っては、ほとんど痕が目につかないほどでした。
私はご家族からのお手紙を渡しました。
「早く僕も家に帰りたいな。体はね、もう元気なんですよ。でも、まだ原因菌が息とかから出るかもって、一ヶ月ここにいなくちゃいけないんです。もう元気なのになあ。」
寂しそうにそう言われました。
「治るのにはどれくらいかかったんですか?」
とファリアが聞きました。
「熱は五日ほどで、かさぶたも十日くらいかな。まあ、我々は二次感染者で比較的軽症だったから。発疹が出てすぐに種痘を打ったからね。仮面舞踏会に行った一次感染者の中にはまだ熱が下がらない人もいるそうだよ。」
「そうなのですか。」
この部屋にいる人は全員ユウル君以外、教育省の同僚だそうです。ユウル君が寂しがらないよう、お父さんと同室にしたそうですが、可愛いユウル君の存在は他の四人の同室者にとっても癒しになっているようです。
「僕も、早く子供に会いたいなあ。」
と一人の同室者が言いました。
「僕も。」
と別な人が言います。
「・・・おまえ、まだ子供も女房もいないだろうが。」
「だからぁ、未来の僕の子供ですよ。」
どっと、病室内に笑いが起きました。
皆で笑っていると、若い看護婦さんが駆けて来ました。
「ユウルくーんっ。年上のお兄さんやお姉さん達のお勉強の時間が終わったから、お話会の時間が始まるよ。」
「行くー。パパも行こ。」
「そうだな。行こうか。」
お父さんがユウル君を抱き上げて立ち上がりました。
午後から、ボランティアの中でも年上の子供達が、小さな子供達に勉強を教えているのだそうです。そして、それが終わったらいつもレベッカ様のお話会が始まるのだそうです。レベッカ様が小さい頃に聞いた話や自分で作ったお話を、みんなに話して聞かせてくださるのだそうです。
お話会の会場になるのは、レーベンツァーン亭のエントランスのようです。吹き抜けのエントランスでレベッカ様が階段に座り、子供も大人も集まって来ていました。速記をするのか、すぐ側に筆記用具を持ったユリアーナ嬢が座っています。少し離れた場所にスケッチブックを持ったコルネリア嬢とアルテミーネがいて、集まって来ている人達を見ていました。
「レベッカ様ー。『北風と太陽』話して。」
「『ネズミの嫁入り』がいい。」
「『星の金貨』がもう一度聞きたいです。」
「『クッキー怖い』がいいよ。」
いろんなバリエーションがあるようです。
粗末な服を着て子供達に囲まれ、笑顔でいるレベッカ様は正に現代の聖女、いえ聖少女だと思いました。
エルヴァイラ視点の話、終了です。
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