ミレイとヘレンの想い
しかし、別邸に帰る前に。
私はある場所に寄った。王城内の13議会の控室だ。今日もまたお父様は、何かがあった時の為に13議会の控室にスタンバっていてくれたのだ。
私は、状況をお父様に説明した。エリーゼ様からの圧が、海底一千メートル地点の水圧並みで拒否できなかった。という事をよくよく強調しておいた。
まあ、お父様だって貴族社会というものがどういうものかはよくわかっている。体に気をつけて頑張るよう声援を送られた。
「護衛騎士達も連れて行きなさい。ティアナやイェルクはひょうたん半島で活動していたから、必要な事をよくわかっている。」
「りょーっかいです。」
「・・体には気をつけるんだよ。」
そう言ってお父様は、ぎゅっと抱きしめてくれた。
帰りの馬車の中で私はヘレンとミレイに聞いた。
「二人共、本当に良かったの?もしも本当は嫌だと言うのなら・・。」
「嫌じゃありません。エリーゼ様が行かれるのですもの。私もお供します!エリーゼ様にもツェツィーリア様達にも、私とてもお世話になってきたのですもの。」
とミレイは言った。
「アカデミーに入学した時、私は平民だし、お母様もお母様の夫もああいう人だから・・私他の生徒からいろいろ嫌がらせをされたんです。でも、エリーゼ様やツェリア様がいつも助けてくださったんです。」
「ブランケンシュタイン家って一族同士の仲が良いんだね。」
「・・決して、そういうわけでは。」
ミレイとヘレンがビミョーな顔をした。
「アカデミーに入学した一族の女生徒の中にも、私やヘレンに冷たい人もいました。意地悪を言われたり、物を壊されたり、宿題や移動教室の件でわざと嘘を教えられた事もあります。でもその人に対してエリーゼ様が怒って、アカデミーをやめさせたんです。その人のお父さんは領地で家令の仕事をしていましたが、それもクビにさせられました。」
エリーゼ様の権力すごいな。でも、そういう事があったのなら、ミレイやヘレンがエリーゼに心酔しているのもわかる気がする。
「それに、ベッキー様も行かれるのですもの。微力ながらお手伝いしたいです。」
とヘレンが言った。
「その事なんだけど。私は行かないって、みんなには嘘をついてくれる?」
「どうしてですか?」
「みんなにはプレッシャーを感じずに自分の意思で選択して欲しいんだ。私が行くなら行かなきゃならない、ってそういう集団心理の圧を感じて欲しくないの。怖くて無理。と思う子もきっといるはずだから。」
「はあ、でも・・。」
とミレイが言った。
「みんな騙されるでしょうか?」
「ベッキー様は、嘘をつくのがあまりお上手ではありませんものね。」
とヘレンにも言われた。
「そもそも、お嬢様はエリザベート様に命令される前からボランティアに参加するつもりでいらっしゃいましたよね。」
とアーベラが言った。
「畑の運営について引き継ぎを大学生と進めていましたし。孤児院の子供達への継続的な援助について、レーリヒ商会に依頼していましたよね。自分がしばらくいなくなっても、畑や孤児院が困らないよう手配しておられたではありませんか。天然痘患者が出た途端そうされ始めたので、お嬢様はボランティアに参加されるおつもりなのだろうと思っていました。」
「違うよ。濃厚接触者になってしまって、問答無用で隔離施設に連れて行かれた時の為に準備していたんだよ。」
そして、自分が死んでしまった時の為だ。一周目とはすでにいろいろな事が違っている。『種痘』を受けていても、何が起こるかはわからない。
「レーリヒ商会の支店長と孤児院長それとリーバイとニコールに前もって書いておいた手紙があるから、アーベラ届けてくれる?」
「嫌です。私はお嬢様の護衛です。私はお嬢様の側を離れるつもりはありません。フェーベ街にもお供します。」
「・・モニカ先生。アルテ先生頼めますか?」
「出来れば私もフェーベ街に同行したいです。」
とアルテが言った。
「何がそこで起こっているのか?現場のスケッチを残しておきたいのです。画家として。」
「私が手紙を届けますわ。」
とモニカが言った。
「どうか、孤児院のみんなの事よろしくお願いします。困らないよう見守ってあげていてください。」
「ええ。レベッカ様もどうかくれぐれも無理だけはなさらないでください。」
「はい。」
本当は怖かった。行く行かないが選択できたら私は行かなかったかもしれない。
レベッカに回帰して三年間。絶対に二度と天然痘にかかりたくない。もし天然痘が流行したら絶対家に引きこもる!と思っていた。
でも、結局私は違う道を選んだ。今日という日を私は終生悔やんで生きる事になるかもしれない。そう思って私は自嘲した。