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1ヶ月経ちました

アカデミーに入学して1ヶ月。


最近、私はつらつらと考えている事がある。


市井の人々の生活が見てみたいよなあ。


なにせ私は、良く言えば温室育ちの箱入り娘。悪く言えば引きこもりの自宅警備員。

ようするに、家から出た事がなかったのだ。


でもって今は、家を出て学校にいるわけだけど、壁一枚で隔てられただけの学校と寄宿舎を往復しているだけで、敷地内からは一歩も出ていない。

いくら何でも、行動半径狭すぎる!


こんな調子では、18歳になる前に家出して、市井で暮らすという野望は夢のまた夢だ。

何とかして、一般人が普通に暮らしているところが見てみたい。


しかし、寄宿舎は外出厳禁。外出が許されるのは、親が迎えに来てくれた時だけだ。寄宿舎の出入口には、門番が24時間立っているので、強行突破もできやしない。


どうしたものかと、眉間にシワを寄せて悩んでみたら

「悪女顔をますます険しくさせて、何、悩んでんの?どれ、このわたくしに相談をしてみなさい。」

と、選択授業で隣の席に座ったジークルーネに言われてしまった。

こいつを信頼しても大丈夫かな?とは考えたが、相談料は無料のようだったので、正直に相談してみる事にした。


「なーんだ。そんな事で悩んでいたの。」

とジークルーネ。

どうでもいいけど、喋りかたがフランクな人だ。

超が付くほどお嬢様なはずの人なのに、この口調で、親や教育係は文句を言わないのだろうか?


「親抜きで外出したいというなら、月に一度の学力試験で一番になったらいいんだよ。一番になった人は学校からのご褒美で、一日自由に外出できるから。ま、侍女は同伴だけどね。」

「本当ですか⁉︎」

「こんな、嘘だった場合すぐ嘘とわかるような嘘をついてどうすんの?だますつもりなら、もっと致命的な状況で、すぐにはバレない嘘をつくよ。」


やはり、信頼はできない。と、思いつつ、私は「勉強するぞー!」とやる気を燃やした。


学力試験は筆記のみなので、マナーとか、フラワーアレンジメントとか、教養系の試験は無い。

だったらいける!


そう信じて、授業中も寄宿舎に帰ってからも、私は勉強に励んだ。


結果。


学力試験は2位だった。


・・・そうだったよ!忘れてたよ!

私と同じ学年には、不動の首位のユリアーナがいた事を。

私もすっごい頑張ったけどさ!全科目で、満点とられたら、どう足掻いたってかなわんわ。


「レベッカ様、すごいですわ。」

「入学してまだ1ヶ月ですのに、2位だなんて。」

と、口々に言われる追従も虚しい・・・。


「本当に、この短期間ですごいですわ。次はきっと1位になられるはず。どうか頑張って、あの思い上がった平民に身の程をわきまえさせてやってください。」


・・・なんか、黒い声援が聞こえてきたぞ。この子とは、あまり関わらないようにしておこう。


しょぼん。としていたらまた、ジークルーネに声をかけられた。


「幸薄い顔をますますうっすくさせて、どうしたの?試験の成績も良かったのだから、もっと楽しそうな顔をしたら。」

「だって、2位では外出できないじゃないですか。」

「そんなに外出したかったの?外に出て何がしたかったの?街に出たって、お祭りをしているわけでもないし、サイフも落ちてないよ。」

「ジークルーネ様は、まだ見た事のないものを見てみたいとか思ったりしないんですか?」

「君を見ていたら十分だけどね。」


なんか、よくわけのわからない事を言われた。私達って、一応幼馴染なのだけど。


「そんなに外出したいのだったら、する方法はあるよ。」

「えっ!どんな方法ですか?」

叫ぶ私に、ふっふっふとジークルーネが笑いかける。


「外出には、侍女が同伴するものだからね。君がユリア姫の侍女になればいい。」

「・・・そうですね!ユリアには侍女がいないから、侍女枠が空いてますもんね。ジークルーネ様。良い事を教えてくれてありがとうございます。それじゃ!」


善は急げ。私はユリアにお願いをする為に廊下をダッシュした。


「廊下を走ってはいけません!」

と背後から教師の大声が聞こえてきたが、聞こえないフリをする。

でもって、さっそくユリアを捕まえてお願いしてみたのだけれど。


「絶対ダメです。無理です!」

ぴしゃっ!と断られた。

ちょっと意外。今まで何を頼んでも、にこにこと笑ってOKしてくれたのに。


「もしかして、もう先約があった?」

「そうではなくて。平民の私が、レベッカ様を侍女扱いできるわけがありません。」

「私は気にしないよ。」

「・・・。」

「それにさ。よく考えて。ユリアがその可愛さで国王陛下に見初められてお妃になる可能性はゼロではないよ。で、私が王宮の侍女になったら、私がユリアの侍女になるかもだよ。」

「王族のお妃になるのはレベッカ様でしょう!」

「そーなのよ!本当にそうなったら、私はまるで自由の無い生活をおくる事になるのよ。だから今のうちに自由を満喫したいのよ!」


ディスカッションする事ウン十分。

ついにユリアが折れた。


「副校長が許してくださったら、同伴させて頂きます。」

「よっしゃあーっ!じゃあ、許可をとってくる。」

「待ってください。私も行きます。」

と言って、ユリアが小走りになってついて来た。


「ところでレベッカ様。私の侍女に、というのはご自分で考えられたのですか?」

「ううん。ジークルーネ様が提案してくださったの。」

「やはり、そうでしたか。」

「ジークルーネ様は親切だよね。」

「むしろ逆だったのでは。ジークルーネ様はレベッカ様を、不愉快にさせて怒らせたかったのでは。」

「どこに怒る要素があるの?」

「レベッカ様が人格者だから、ジークルーネ様との友情が幼い頃から続いているのですね。」


うん、うんと、うなずいているユリア。わけがわからない。わからないけど、今は問い詰めている時間も惜しい。早く、副校長の許可をもらわなくては。


しかし。


「ダメです!」


却下された。


「何故ですか?」

「侍女を同伴させるのは、危険が無いよう生徒を守る為です。幼いレーリヒ嬢に、同じ年のエーレンフロイト嬢が同伴しても危険な事に変わりないではありませんか。むしろ、二倍危険になる事でしょう。」

「アカデミーの生徒には、自分より年下の侍女を連れて来ている人もいるではありませんか?その人が首席になったらどうするのですか?」

「その場合には御実家に連絡し、成人した同伴者を派遣してくれるよう依頼します。実際、レーリヒ嬢は今までずっとそうされてきたのです。」

「じゃあ、私の侍女が同伴するという事で。」

「それでしたら、エーレンフロイト嬢が同伴する意味がないでしょう。」


確かに。

しょぼぼぼん・・と肩を落とす私。

そんな私を見ながら副校長が首をひねる。


「エーレンフロイト嬢は、王都内に家族がいるのですから、外出したければ家族に連絡して迎えに来てもらえば良いではありませんか?保護者が迎えに来てくれるなら、外出を許可しますよ。」

「そういうのではなくて・・ただ少し、友達と街に遊びに行ってみたかったんです。」

「遊びって、何をするつもりだったのですか?」

「え・・と・・・本屋さんへ行ったり、ケーキ屋さんに行ったり。」

不動産屋さんで一人暮らし用の物件を見たり、ハローワークにどんな求人があるかを確認したり・・・というセリフはさすがに黙っておいた。


「あの、二人で出かけるの、絶対にダメなのでしょうか?」

ずっと黙っていたユリアが突然そう言ったので、びっくりした!

いったい、どうしたのか?今までずっと、ダメだ、無理だと、迷惑オーラを放っていたのに。


「レーリヒ嬢。先刻も言ったように・・・。」

「副校長。少しよろしいでしょうか?」

突然、一人の教師が口を挟んできた。

マナー教師のシュトラウス先生だ。


副校長に用事があって、いつまでもぴーちくぱーちく騒いでいる私が邪魔だったのかな?

あるいは、私が邪魔すぎて、追い払う為に口を出してきたか?

仕方ない。もう、ここまでか。と、内心諦めていたら


「わたくしが同行しますので、二人を外出させてあげられないでしょうか?」

と、言い出してくださったのだ。

いったい、どうした!


私のマナーの成績は、いつまで経っても低空飛行だ。なので、シュトラウス先生には嫌われていると思う。

なのに、どうして?


「エーレンフロイト嬢がおっしゃるとおり、首席の生徒に一人の同伴者が付く事ができるというのが学園のルールなのです。なのに、その段になって、身分が、年齢が、と言って難癖をつけるのはフェアではありません。同伴者は成人に限るというルールがまだ明文化されていない以上、エーレンフロイト嬢が正しいのです。そして、わたくし達教育者は常に正しくなくてはなりません。」

「・・しかし。」

「副校長の不安は理解できます。ですから、わたくしも二人に同伴します。」

「・・・。」

「わたくし一人で二人を見守る事が不安だとおっしゃるなら、エーレンフロイト嬢の侍女も同行させましょう。それで、いかがでしょうか?」


「・・・わかりました。シュトラウス夫人がそこまでおっしゃるなら。」


と、突然行っても良い事になった。

なんか、よくわからんけどラッキーだった。

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