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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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芳花宮のお茶会(4)(ルートヴィッヒ視点)

現在の女官長が就任したのは三年前の事だ。

先代の女官長は、母上が王宮図書館に閉じ込められる事件があった時に、父上にクビにされた。

その後任になったわけだが、役職持ちの女官は全て先代の女官長の子分だったので、結局先代の女官長の子飼いの女官が新女官長になった。

先代の女官長は、王宮を追放されたとはいえ、孫の代まで遊んで暮らせるほどの賄賂をもらっていたので、王都内にサロンを開設し、今でも大きな影響力を社交界に与えている。新女官長は今でもあいつの子分で、あの女の言いなりだ。


新女官長は王妃と第一王子を礼賛する一方で、側妃とその子供達にはドライアイスのように冷たい。

その女官長が唆して、ナディヤ妃を母上の所に寄越したのだ。良い動機からのわけがなかった。


まあ、でもいきなり母上に斬りかかっては来ないだろう。むしろ毒を盛られて殺されかけた!とか大騒ぎする方があり得そうな気がする。僕は、ナディヤ妃の一挙手一投足を見逃さないよう、まばたきもせず彼女を凝視した。


「アンゲラ様は、レベッカ嬢に夢中のようね。」

とナディヤ妃は言い出した。


「レオンハルトも、ルートヴィッヒ様の兄弟ですもの。レベッカ嬢に仲良くして頂きたいわ。」

「身に余る御言葉でございます。」

とレベッカ姫が謙虚に答える。

「レオンハルト。レベッカ嬢に抱っこしてもらいなさい。」

とナディヤ妃は突然レオンハルトに言った。今、アンゲラが姫の膝の上にいるし!


レオンハルトはもう五歳だ。初対面の女性に抱っこしてもらうなど恥ずかしくて嫌がるだろう。

それに、体重だって二歳のアンゲラより遥かに重いのである。レベッカ姫だって嫌なはずだ。


と思ったのに!


レオンハルトの奴、あざとい声で

「抱っこー。」

とレベッカ姫に両手を差し出してほざいたのだ。


それに対してレベッカ姫は、花が咲いたような笑顔で

「良いですよ。」

と言った。そして、立ち上がってアンゲラを乳母に返し、レオンハルトが座っている側に寄ってひょいと抱っこしたのである。


僕だって、彼女とそこまで肌を密着させた事が無いのにっ!


アンゲラも大好きな義姉を兄に取られたのがわかるのだろう。

「やーだー!」

と言って泣き出した。なのにレオンハルトは遠慮もせず、むしろぎゅっとレベッカ姫にしがみつく。


「レベッカ姫。重いでしょう。僕が代わりますよ。」

別にレオンハルトに触りたくもなかったが、僕はレベッカ姫にそう言った。レオンハルトにムカついていたし、アンゲラを泣かせた事が許せなかった。

なのに、レベッカ姫は

「いいえ。鳥の羽根のように軽いですよ。」

と言ってレオンハルトを離さない。


「レオンハルト様は、何の食べ物が一番好きですか?」

と笑顔でレオンハルトに話しかけている。

貴女の子供好きな性格が、今は少し腹立たしいですっ!


家庭教師の先生方やアグネスは、僕の不機嫌さがわかるのか少しオロオロしているが、ユリアーナ・レーリヒはレベッカ姫に負けない良い笑顔で、レオンハルトにデレデレだ。綺麗なお姉さん二人にちやほやされてレオンハルトもご満悦である。その様子をナディヤ妃は勝ち誇ったような表情で見ている。


レベッカ姫はレオンハルトの脇腹を掴んで高く掲げ振り回したりしている。

「アニーもーっ!」

とアンゲラが大声を出し、母上は仕方なくアンゲラの乳母にアンゲラを下がらせるよう指示をした。


振り回されて怖かったのか、少しレオンハルトの顔色が蒼くなっている。

だがナディヤ妃は、レオンハルトの様子には興味が無さそうだ。

「そこで何をしているの?」

と、少し離れたテーブルで絵本を書き写している祐筆に話しかけた。


「エーレンフロイト侯爵令嬢が持参された絵本を書き写しております。」

「そう。珍しい本なの?」

「エーレンフロイト侯爵令嬢が内容を考えて作られた本でございます。」

「ふうん。レオンハルトは本が好きなの。その絵本欲しいわ。」


耳が点になった。


この女。なぜ僕達が祐筆に書写させていると思っているんだ?僕達だってこの絵本が欲しいけれど、「くれ」と言うわけにはいかないから、書き写させているんじゃないか!


「ナディヤ殿。あの絵本はレベッカ姫が出産祝いに人に贈った物です。つまりレベッカ姫の所有物ではないのです。それを勝手に人にあげたりはできませんよ。」

と僕は言った。

「レオンハルトは王族なのよ!」

ナディヤ妃が大声を出した。


「だから、何だと言うのです。貴女の祖国では知りませんが、ヒンガリーラントではたとえ王族であっても他人の持ち物は強奪できません。」

僕は思いっきり冷たく言い放ってやった。


ナディヤ妃は関節が白くなるほど、くっさい扇子を握りしめている。僕が王子でなければ打擲ちょうちゃくされていたかもしれない。だが、一介の側妃より王の血を引く僕の方が身分は上だ。なので、彼女が僕に手をあげる事はできない。

彼女の右手には、人差し指、中指、薬指に豪華な指輪がはめられていてそれぞれ大きな宝石が付いている。この手で殴られたら大惨事だな。と僕は考えた。


母上が

「書き写させた物を、ナディヤ様にもお渡ししますわ。」

とナディヤ妃に言った。今この瞬間、祐筆の仕事量は二倍になった。


正直テーブルの周囲の空気はピリピリしている。殺気が漂っていると言ってもよい。

だがテーブルから少し離れた場所では、レベッカ姫がそんな空気に気がつかないかのように

「レオンハルト様は本がお好きなのですね。何の本が一番お好きですか?」

と聞いている。


「・・ブラウン・シュガーの本。」

「まあ、そうなのですか!私もなんです。私はペンギンのペギーが大好きなんです。」

「僕はね、孔雀大王!それとホワイト・ミルクの従兄弟のコンデンス。」


レベッカ姫は、子供相手に『赤ちゃん言葉』を使わないんだな。と僕は気がついた。さっきアンゲラを抱いていた時にも、大人に話すような言葉で話しかけていた。


「あ!レオンハルト様。蝶が飛んでいます。あっちへ行ってみますか?」

「やだ。お母様の側にいる。」

「そうですか。わかりました。」


レベッカ姫はレオンハルトを下ろして椅子に座らせた。

そして自分も、僕の隣の席に戻って来て腰掛けた。


「レベッカ様。お疲れでしょう?お茶をもう一杯いかがですか?」

コートニー叔母君が、巧みにナディヤ妃への嫌味を織り交ぜながらレベッカ姫に質問する。


「いいえ、けっこうです。それよりも・・。」

レベッカ姫は僕の方を向いて言った。


「第二王子殿下と二人だけでゆっくりお話しがしたいです。」


テーブルについていた人間が皆驚きの表情をした。特にレベッカ姫の家庭教師達が!

でも一番驚いたのは僕だと思う。だけど嬉しかった。


「良いですよ。薔薇園をご案内致しましょう。」

そう言った僕はレベッカ姫に手を差し出した。レベッカ姫がその手に自分の手を重ねる。僕達は椅子から立ち上がった。


正直言えば、ナディヤ妃が何かしないかと母上の事が心配だ。でもコートニー叔母君もいるし、祐筆も近衞騎士達もいる。

たぶん少しくらい離れていても大丈夫だろう。僕達はテーブルを離れ、薔薇園の中を歩き出した。


と言っても。

現実には『二人きり』にはなれはしない。僕の護衛の近衞騎士が後ろをついて来るし、姫の護衛の女性騎士もついて来る。そして、姫の侍女のアグネスとユリアーナもすぐ後ろをついて来るのだ。


だが、大丈夫。心を一点集中すれば、こいつらの存在を無いものと考えられる。僕は重ねた彼女の手のひらの感覚にのみ集中をした。


「姫君は花は好き?」

「別に普通です。」


どうでも良さそうな声でレベッカ姫が言った。


・・・。

会話が続かない。

こう言う時は、共通の知人の話をするのがベストだが、ジークレヒトやコンラートの話はしたくない。


会話。何か会話・・と考えていると。

「殿下。私、殿下にお話ししたい事があるんです。」

と、ものすごく真剣な顔でレベッカ姫に言われた。


「・・何かな?」

「・・まず、先程は助けてくださってありがとうございました。。」

「ああ、うん。あれは、まあ別に。」

「殿下。」

レベッカ姫は、僕の耳の側に口を近づけてささやいた。

「レオンハルト王子は、虐待を受けていると思われます。」


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ヨ・・ヨーゼフ君にも活躍のチャンスを・・
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